84 / 205
84.砂漠階層
しおりを挟む
ドラゴニアのダンジョン第10階層。
ここからは灼熱の砂漠のフィールドとなる。
サバンナ同様、後半は夜や砂嵐などの環境変化が加わる。
更にこの階層からはサンドドラゴンやアースドラゴンなどの大型の竜種が出てくる。
まさにドラゴニアのダンジョンはここからが本番といっても過言ではないだろう。
「暑い……」
サバンナの暑さはキンキンに冷えたビールが飲みたくなるくらいの暑さだったが、砂漠の暑さはビールすら飲みたくなくなるくらいの暑さだ。
喉が渇くとかそんなレベルではなく、体中がカラカラに乾いていつの間にか死んでいてもおかしくはない。
いかに強化人間のおっさんといえどもこの暑さは堪える。
日の光を遮るように頭に白いターバンを巻き、肌を露出しない服を着ているので熱が服の中に篭る。
風魔法で服の中に風を起こすと汗が冷えて少し涼しい。
砂の上を延々と歩いて移動するというのは思った以上に体力を消耗する。
足の力をサラサラの砂に伝えるのに少しコツがいるようだ。
暑いし日焼けするし歩きにくいし靴の中に砂は入るし、砂漠は最低だな。
おまけに魔物ではないが、蛇や蠍などの毒のある生き物が出るらしい。
神酒もあるし俺の身体にはそのくらいの毒も効かないだろうけど、いつの間にか服の中に蛇や蠍が入っていたらと考えるとぞっとする。
虫や爬虫類が嫌いなわけではないが、さすがに服の中に入ってこられると気持ちが悪い。
早いところ砂漠階層は通り過ぎてしまいたい。
俺は空歩の魔法を発動し、砂漠の空中を駆け抜けた。
空中を移動すれば砂漠はそれほど大変なフィールドではなかった。
暑いのが少し厄介だが、それも魔法で自分の周りの空気だけを冷たくすれば全く気にならない。
しかし今俺がいる18階層からは、砂嵐が追加される。
突風によって巻き上げられた砂は視界をゼロにするだけでなく、吸い込めば呼吸器系になんらかの異常を引き起こすこともある。
ゴーグルとガスマスクでもすれば進めなくはないが、砂嵐を引き起こしている突風のほうも相当な強さのようなので魔法で障害物でも生み出しておとなしく砂嵐が通過するのを隠れて待ったほうがいい。
数百メートル先からこちらに向かってくる褐色の煙を前に、俺は今さっき倒したばかりのアースドラゴンの影に隠れて待ち構えた。
アースドラゴンの身体は巨大。
大型バス何台分かの大きさくらいはあるので、俺ひとり隠れるくらいは余裕だ。
一応ゴーグルとガスマスクをつけて砂嵐を待っていると、俺の耳が微かな人の声を捉える。
砂嵐がもうそこまで来ているというのに、うろついているのはどこの馬鹿だろうか。
アースドラゴンの影から砂嵐の方を窺うと、数人の人影が砂漠をダッシュでこちらに向かっていた。
面倒なことになりそうな予感がする。
「うわぁぁぁっ、助けてくれぇぇぇっ」
「見て、アースドラゴンよ!死んでる!誰かが倒したんだわ!この影に隠れさせてもらいましょ!!」
「なんでもいい!早く助けろ!!」
「ちっ、うっさいわね!!じゃあ早くアースドラゴンの影に隠れなさいよ!!」
仲間割れでもしているのだろうか。
緊急事態なんだし、アースドラゴンは大きいので別に追い出すつもりはないが争いを持ち込まないで欲しいな。
やがて砂嵐とほぼ同時に5人の人間がアースドラゴンの影に飛び込んできた。
男1人に女4人のいけ好かないハーレムパーティだ。
何やら争っていたようだし、そのままパーティ崩壊してくれることを祈る。
ザァザァと砂が巻き上がる音にすべての音が吸い込まれ、急に飛び込んできた冒険者たちと話すことすらままならない。
俺はゴーグルとガスマスクをしているので余裕だが、飛び込んできた冒険者たちは目を瞑って口と鼻に布を当ててやり過ごしている。
口や目に砂が入らないのはいいが、やっぱり体中砂だらけにはなるな。
顔とか真っ白だし、頭をかくとパラパラと砂が出てくるのでそろそろ風呂に入りたい。
砂嵐は数分間吹き荒れ、俺たちを砂だらけにして去っていった。
立ち上がるとパラパラと砂が零れ落ちる。
腹のあたりまで砂に埋もれていたようだ。
もう靴に砂が入るとかそういうレベルでもないな。
体中の砂を払い、ゴーグルとガスマスクを外す。
いけ好かないハーレムパーティも、皆立ち上がって砂を払って咳き込んでいる。
「ごほっごほっ、くそっ、最悪だ……」
「最悪なのはあんたよ。なんでこのパーティ魔法職がいないの!!」
うわぁ、魔法職なしでこの階層まで来たのか。
それはそれである意味すごいかもしれない。
おそらく先ほどからパーティ唯一の男に噛みついている少女は、新しく加入したメンバーか何かなのだろう。
それ以外の女性メンバーは何も言わずに悪態をつく少女を睨んでいる。
そう遠くないうちに崩壊しそうなパーティだ。
「ちょっとおじさん、何見てるんですか。やだっ、今あたしの胸見てたでしょ!」
「やだぁ、キモーい」
「ホントだぁ、すっごいエロい目してあたしたちの身体舐めるように見てる。気持ち悪い」
「なんだと!?おいおっさん、なに俺の女をいやらしい目で見てんだよ!!」
「ケントかっこいい。それに俺の女だなんて……」
「え?今のあたしに言ったんでしょ?」
「ケントの女ってことはあたしでしょ」
なんか飛び火した。
どうでもいいハーレムの争いに、善良なおっさんを巻き込まないでくれよ。
しかしケントという名前には少し引っかかる。
改めて男の顔をよく見ると、黒目黒髪しょうゆ顔。
こいつ勇者だな。
「ちょっ、ちょっとあんたたち何言ってんの!?この人の倒したアースドラゴンの影に隠れさせてもらったおかげで砂嵐に飲み込まれずに済んだんでしょうが!!それにアースドラゴンをソロで倒せるってことは多分相当高ランクの冒険者よ!!失礼なことを言ってすみません!!ほら、あんたたちも謝るのよ!!」
「えぇ、おじさんそんな強そうに見えないけどなぁ……」
「超弱そう」
「誰か別の人が倒したんじゃないのぉ?」
「黒髪黒目……」
あの勇者に噛みついていた子、苦労していそうだな。
ここからは灼熱の砂漠のフィールドとなる。
サバンナ同様、後半は夜や砂嵐などの環境変化が加わる。
更にこの階層からはサンドドラゴンやアースドラゴンなどの大型の竜種が出てくる。
まさにドラゴニアのダンジョンはここからが本番といっても過言ではないだろう。
「暑い……」
サバンナの暑さはキンキンに冷えたビールが飲みたくなるくらいの暑さだったが、砂漠の暑さはビールすら飲みたくなくなるくらいの暑さだ。
喉が渇くとかそんなレベルではなく、体中がカラカラに乾いていつの間にか死んでいてもおかしくはない。
いかに強化人間のおっさんといえどもこの暑さは堪える。
日の光を遮るように頭に白いターバンを巻き、肌を露出しない服を着ているので熱が服の中に篭る。
風魔法で服の中に風を起こすと汗が冷えて少し涼しい。
砂の上を延々と歩いて移動するというのは思った以上に体力を消耗する。
足の力をサラサラの砂に伝えるのに少しコツがいるようだ。
暑いし日焼けするし歩きにくいし靴の中に砂は入るし、砂漠は最低だな。
おまけに魔物ではないが、蛇や蠍などの毒のある生き物が出るらしい。
神酒もあるし俺の身体にはそのくらいの毒も効かないだろうけど、いつの間にか服の中に蛇や蠍が入っていたらと考えるとぞっとする。
虫や爬虫類が嫌いなわけではないが、さすがに服の中に入ってこられると気持ちが悪い。
早いところ砂漠階層は通り過ぎてしまいたい。
俺は空歩の魔法を発動し、砂漠の空中を駆け抜けた。
空中を移動すれば砂漠はそれほど大変なフィールドではなかった。
暑いのが少し厄介だが、それも魔法で自分の周りの空気だけを冷たくすれば全く気にならない。
しかし今俺がいる18階層からは、砂嵐が追加される。
突風によって巻き上げられた砂は視界をゼロにするだけでなく、吸い込めば呼吸器系になんらかの異常を引き起こすこともある。
ゴーグルとガスマスクでもすれば進めなくはないが、砂嵐を引き起こしている突風のほうも相当な強さのようなので魔法で障害物でも生み出しておとなしく砂嵐が通過するのを隠れて待ったほうがいい。
数百メートル先からこちらに向かってくる褐色の煙を前に、俺は今さっき倒したばかりのアースドラゴンの影に隠れて待ち構えた。
アースドラゴンの身体は巨大。
大型バス何台分かの大きさくらいはあるので、俺ひとり隠れるくらいは余裕だ。
一応ゴーグルとガスマスクをつけて砂嵐を待っていると、俺の耳が微かな人の声を捉える。
砂嵐がもうそこまで来ているというのに、うろついているのはどこの馬鹿だろうか。
アースドラゴンの影から砂嵐の方を窺うと、数人の人影が砂漠をダッシュでこちらに向かっていた。
面倒なことになりそうな予感がする。
「うわぁぁぁっ、助けてくれぇぇぇっ」
「見て、アースドラゴンよ!死んでる!誰かが倒したんだわ!この影に隠れさせてもらいましょ!!」
「なんでもいい!早く助けろ!!」
「ちっ、うっさいわね!!じゃあ早くアースドラゴンの影に隠れなさいよ!!」
仲間割れでもしているのだろうか。
緊急事態なんだし、アースドラゴンは大きいので別に追い出すつもりはないが争いを持ち込まないで欲しいな。
やがて砂嵐とほぼ同時に5人の人間がアースドラゴンの影に飛び込んできた。
男1人に女4人のいけ好かないハーレムパーティだ。
何やら争っていたようだし、そのままパーティ崩壊してくれることを祈る。
ザァザァと砂が巻き上がる音にすべての音が吸い込まれ、急に飛び込んできた冒険者たちと話すことすらままならない。
俺はゴーグルとガスマスクをしているので余裕だが、飛び込んできた冒険者たちは目を瞑って口と鼻に布を当ててやり過ごしている。
口や目に砂が入らないのはいいが、やっぱり体中砂だらけにはなるな。
顔とか真っ白だし、頭をかくとパラパラと砂が出てくるのでそろそろ風呂に入りたい。
砂嵐は数分間吹き荒れ、俺たちを砂だらけにして去っていった。
立ち上がるとパラパラと砂が零れ落ちる。
腹のあたりまで砂に埋もれていたようだ。
もう靴に砂が入るとかそういうレベルでもないな。
体中の砂を払い、ゴーグルとガスマスクを外す。
いけ好かないハーレムパーティも、皆立ち上がって砂を払って咳き込んでいる。
「ごほっごほっ、くそっ、最悪だ……」
「最悪なのはあんたよ。なんでこのパーティ魔法職がいないの!!」
うわぁ、魔法職なしでこの階層まで来たのか。
それはそれである意味すごいかもしれない。
おそらく先ほどからパーティ唯一の男に噛みついている少女は、新しく加入したメンバーか何かなのだろう。
それ以外の女性メンバーは何も言わずに悪態をつく少女を睨んでいる。
そう遠くないうちに崩壊しそうなパーティだ。
「ちょっとおじさん、何見てるんですか。やだっ、今あたしの胸見てたでしょ!」
「やだぁ、キモーい」
「ホントだぁ、すっごいエロい目してあたしたちの身体舐めるように見てる。気持ち悪い」
「なんだと!?おいおっさん、なに俺の女をいやらしい目で見てんだよ!!」
「ケントかっこいい。それに俺の女だなんて……」
「え?今のあたしに言ったんでしょ?」
「ケントの女ってことはあたしでしょ」
なんか飛び火した。
どうでもいいハーレムの争いに、善良なおっさんを巻き込まないでくれよ。
しかしケントという名前には少し引っかかる。
改めて男の顔をよく見ると、黒目黒髪しょうゆ顔。
こいつ勇者だな。
「ちょっ、ちょっとあんたたち何言ってんの!?この人の倒したアースドラゴンの影に隠れさせてもらったおかげで砂嵐に飲み込まれずに済んだんでしょうが!!それにアースドラゴンをソロで倒せるってことは多分相当高ランクの冒険者よ!!失礼なことを言ってすみません!!ほら、あんたたちも謝るのよ!!」
「えぇ、おじさんそんな強そうに見えないけどなぁ……」
「超弱そう」
「誰か別の人が倒したんじゃないのぉ?」
「黒髪黒目……」
あの勇者に噛みついていた子、苦労していそうだな。
44
お気に入りに追加
8,851
あなたにおすすめの小説
転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!
孤児だけどガチャのおかげでなんとか生きてます
兎屋亀吉
ファンタジー
ガチャという聞いたことのないスキルが発現したせいで、孤児院の出資者である商人に売られてしまうことになったアリア。だが、移送中の事故によって橋の上から谷底へと転落してしまう。アリアは谷底の川に流されて生死の境を彷徨う中で、21世紀の日本に生きた前世の記憶を得る。ガチャって、あのガチャだよね。※この作品はカクヨムにも掲載しています。
異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜
ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった!
謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。
教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。
勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。
元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。
力を持っていても順応できるかは話が別だった。
クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。
※ご注意※
初投稿、試作、マイペース進行となります。
作品名は今後改題する可能性があります。
世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。
旅に出るまで(序章)がすごく長いです。
他サイトでも同作を投稿しています。
更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。
平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。
モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。
日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。
今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。
そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。
特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。
強奪系触手おじさん
兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。
一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~
十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。
月が導く異世界道中extra
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
こちらは月が導く異世界道中番外編になります。
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる