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84.砂漠階層

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 ドラゴニアのダンジョン第10階層。
 ここからは灼熱の砂漠のフィールドとなる。
 サバンナ同様、後半は夜や砂嵐などの環境変化が加わる。
 更にこの階層からはサンドドラゴンやアースドラゴンなどの大型の竜種が出てくる。
 まさにドラゴニアのダンジョンはここからが本番といっても過言ではないだろう。
 
「暑い……」

 サバンナの暑さはキンキンに冷えたビールが飲みたくなるくらいの暑さだったが、砂漠の暑さはビールすら飲みたくなくなるくらいの暑さだ。
 喉が渇くとかそんなレベルではなく、体中がカラカラに乾いていつの間にか死んでいてもおかしくはない。
 いかに強化人間のおっさんといえどもこの暑さは堪える。
 日の光を遮るように頭に白いターバンを巻き、肌を露出しない服を着ているので熱が服の中に篭る。
 風魔法で服の中に風を起こすと汗が冷えて少し涼しい。
 砂の上を延々と歩いて移動するというのは思った以上に体力を消耗する。
 足の力をサラサラの砂に伝えるのに少しコツがいるようだ。
 暑いし日焼けするし歩きにくいし靴の中に砂は入るし、砂漠は最低だな。
 おまけに魔物ではないが、蛇や蠍などの毒のある生き物が出るらしい。
 神酒もあるし俺の身体にはそのくらいの毒も効かないだろうけど、いつの間にか服の中に蛇や蠍が入っていたらと考えるとぞっとする。
 虫や爬虫類が嫌いなわけではないが、さすがに服の中に入ってこられると気持ちが悪い。
 早いところ砂漠階層は通り過ぎてしまいたい。
 俺は空歩の魔法を発動し、砂漠の空中を駆け抜けた。





 空中を移動すれば砂漠はそれほど大変なフィールドではなかった。
 暑いのが少し厄介だが、それも魔法で自分の周りの空気だけを冷たくすれば全く気にならない。
 しかし今俺がいる18階層からは、砂嵐が追加される。
 突風によって巻き上げられた砂は視界をゼロにするだけでなく、吸い込めば呼吸器系になんらかの異常を引き起こすこともある。
 ゴーグルとガスマスクでもすれば進めなくはないが、砂嵐を引き起こしている突風のほうも相当な強さのようなので魔法で障害物でも生み出しておとなしく砂嵐が通過するのを隠れて待ったほうがいい。
 数百メートル先からこちらに向かってくる褐色の煙を前に、俺は今さっき倒したばかりのアースドラゴンの影に隠れて待ち構えた。
 アースドラゴンの身体は巨大。
 大型バス何台分かの大きさくらいはあるので、俺ひとり隠れるくらいは余裕だ。
 一応ゴーグルとガスマスクをつけて砂嵐を待っていると、俺の耳が微かな人の声を捉える。
 砂嵐がもうそこまで来ているというのに、うろついているのはどこの馬鹿だろうか。
 アースドラゴンの影から砂嵐の方を窺うと、数人の人影が砂漠をダッシュでこちらに向かっていた。
 面倒なことになりそうな予感がする。

「うわぁぁぁっ、助けてくれぇぇぇっ」

「見て、アースドラゴンよ!死んでる!誰かが倒したんだわ!この影に隠れさせてもらいましょ!!」

「なんでもいい!早く助けろ!!」

「ちっ、うっさいわね!!じゃあ早くアースドラゴンの影に隠れなさいよ!!」

 仲間割れでもしているのだろうか。
 緊急事態なんだし、アースドラゴンは大きいので別に追い出すつもりはないが争いを持ち込まないで欲しいな。
 やがて砂嵐とほぼ同時に5人の人間がアースドラゴンの影に飛び込んできた。
 男1人に女4人のいけ好かないハーレムパーティだ。
 何やら争っていたようだし、そのままパーティ崩壊してくれることを祈る。
 ザァザァと砂が巻き上がる音にすべての音が吸い込まれ、急に飛び込んできた冒険者たちと話すことすらままならない。
 俺はゴーグルとガスマスクをしているので余裕だが、飛び込んできた冒険者たちは目を瞑って口と鼻に布を当ててやり過ごしている。
 口や目に砂が入らないのはいいが、やっぱり体中砂だらけにはなるな。
 顔とか真っ白だし、頭をかくとパラパラと砂が出てくるのでそろそろ風呂に入りたい。
 砂嵐は数分間吹き荒れ、俺たちを砂だらけにして去っていった。
 立ち上がるとパラパラと砂が零れ落ちる。
 腹のあたりまで砂に埋もれていたようだ。
 もう靴に砂が入るとかそういうレベルでもないな。
 体中の砂を払い、ゴーグルとガスマスクを外す。
 いけ好かないハーレムパーティも、皆立ち上がって砂を払って咳き込んでいる。

「ごほっごほっ、くそっ、最悪だ……」

「最悪なのはあんたよ。なんでこのパーティ魔法職がいないの!!」

 うわぁ、魔法職なしでこの階層まで来たのか。
 それはそれである意味すごいかもしれない。
 おそらく先ほどからパーティ唯一の男に噛みついている少女は、新しく加入したメンバーか何かなのだろう。
 それ以外の女性メンバーは何も言わずに悪態をつく少女を睨んでいる。
 そう遠くないうちに崩壊しそうなパーティだ。
 
「ちょっとおじさん、何見てるんですか。やだっ、今あたしの胸見てたでしょ!」

「やだぁ、キモーい」

「ホントだぁ、すっごいエロい目してあたしたちの身体舐めるように見てる。気持ち悪い」

「なんだと!?おいおっさん、なに俺の女をいやらしい目で見てんだよ!!」

「ケントかっこいい。それに俺の女だなんて……」

「え?今のあたしに言ったんでしょ?」

「ケントの女ってことはあたしでしょ」
 
 なんか飛び火した。
 どうでもいいハーレムの争いに、善良なおっさんを巻き込まないでくれよ。
 しかしケントという名前には少し引っかかる。
 改めて男の顔をよく見ると、黒目黒髪しょうゆ顔。
 こいつ勇者だな。

「ちょっ、ちょっとあんたたち何言ってんの!?この人の倒したアースドラゴンの影に隠れさせてもらったおかげで砂嵐に飲み込まれずに済んだんでしょうが!!それにアースドラゴンをソロで倒せるってことは多分相当高ランクの冒険者よ!!失礼なことを言ってすみません!!ほら、あんたたちも謝るのよ!!」

「えぇ、おじさんそんな強そうに見えないけどなぁ……」

「超弱そう」

「誰か別の人が倒したんじゃないのぉ?」

「黒髪黒目……」

 あの勇者に噛みついていた子、苦労していそうだな。



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