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83.ダンジョンの攻略

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 さて、腐竜に挑んでみようと突然言ったところで俺の到達階層はまだ第1層で止まっている。
 こういった多階層のダンジョンには入り口に転移クリスタルという便利グッズが置かれており、毎度毎度攻略済みの階層を越えていく必要は無い。
 金を払って他人の攻略した階層まで便乗させてもらえば、玄人はいちいち低階層を攻略していくことなく高難易度の階層から攻略をスタートするということもできるらしい。
 しかし、それでは転移でちょくちょく帰る旅と同じになってしまう。
 味気が無くてつまらない。
 おっさんは攻略本とか見ずにゲームをプレイする派だったんだ。
 ということで1層から行く。
 当初は稼げる魔物ガンネルを適度に狩りつつ階層を攻略していくつもりだったが、腐竜に挑むなら早いほうがいいだろう。
 悠長に1階層からチャレンジしておいてなんだが、できるだけ急ぐ。
 魔物は遭遇したやつだけを狩り、解体も後回しで異空間収納いきだ。
 階層攻略優先でいこう。
 ダンジョンの前に立つ衛兵に軽く目礼して中に入る。
 衛兵は眠そうな目で目礼を返した。
 そんなだから子供を見逃すんだ。
 衛兵の仕事も色々と大変なのだろうが、子供がダンジョンに迷い込むという一歩間違ったら死んでしまっていた事件があった直後くらいは気合を入れて欲しいものだ。
 ダンジョンに1歩足を踏み入れると、まるで季節が違うかのように乾いた温かい空気が肌をなでる。
 1階層から4階層までのフィールドは常に昼間のサバンナだ。
 日本の夏のように不快指数の高い暑さではないが、気温は高い。
 10層以降の砂漠に比べればまだマシなようだが、水分や塩分などは小まめに摂取していかなければ参ってしまうだろう。
 この時点で、魔法を使えない者や魔道具を持っていない者には水という大きな荷物が増えることになる。
 もちろん水を補給できる場所もダンジョンの中にはあるが、見つける前に手持ちの水が尽きれば干からびてしまう。
 このダンジョンは1階層ごとのフィールドが広大になっているので、水が尽きたから帰ろうと思ってもすぐにダンジョンからは出られない。
 サバンナの真ん中で水が尽きたら最悪の事態になってしまうだろう。
 だから魔法や魔道具の恩恵を受けることのできない者は、多めに重たい水を持っていかざるを得ない。
 ただ暑いというだけだが、厄介なフィールドだ。
 おっさんは水も酒も出せるから問題ないけど。
 さすがにダンジョンの中で酒は飲まないさ。
 ちょっと舐めるだけだ。
 




 地面に残った足跡を頼りに、俺は階層の出口を探す。
 どちらの方角に出口があるのかも分からない状況で、冒険者たちの残した痕跡というのは非常に大きな情報となる。
 足跡が向かっているのが一番多い方角に向かって歩き出す。
 クンクンと空気の匂いを嗅ぎながら、多くの冒険者たちが目指している方角に向かう。
 空気の匂いを嗅いでいるのは冒険者や魔物をなるべく避けて通るためだ。
 魔物は当然ながら戦闘で時間が取られるのが面倒という理由から。
 冒険者を避けるのは、トラブルになるのを避けるためだ。
 ダンジョンの中というのは無法地帯だ。
 冒険者と名乗ってはいても盗賊のような輩も多く存在しているとミルファさんが零していた。
 だからダンジョンの中では魔物や罠だけでなく、冒険者にも気をつけなければならないのだ。

「おっと、こいつがガンネルだな……」

 他の魔物だったら避けて通っているところだが、金になる魔物ガンネルだけは別だ。
 そのまま倒していこう。
 匂いを頼りに歩く俺の前に現れたのは、サイのような見た目の魔物。
 キラリと光る鱗が鎧のように身体を守っており、とても硬そうだ。
 鼻の上には大きく鋭い角が生えている。
 あの鱗と角が高く売れるんだな。
 俺は素早く近づき、刺突剣を眼球に突き込んだ。
 それだけでガンネルは横倒れになった。
 やはりこういった硬い魔物は急所を一突きに限る。
 親方に作ってもらった刺突剣の使い心地もいい。
 とはいえ別段特別な素材を使って作られた剣ではないので、手入れを怠ればすぐに錆びてしまう。
 俺は刺突剣に付着した血のりを丁寧に拭き取って鞘に収め、ガンネルを異空間収納に入れる。
 さて、次いってみよう。





 ドラゴニアダンジョン第5階層。
 ここからはサバンナフィールドに夜が追加される。
 更に、ガラピオという夜行性の魔物まで出てくるらしい。
 オオトカゲのような4足歩行の魔物で、噛みつかれると高確率で傷が膿んで病気になるらしい。
 匂いや音に敏感で、群れで行動する厄介な魔物だ。
 鬼のような難易度の上がり方だな。
 8階層と9階層には雨まで降るらしいから、本当に容赦が無い。
 夜の雨なんていう視界が最悪な状況の中、宵闇から迫るオオトカゲに噛まれないように次の階層を目指さなければならないなんて地獄だ。
 音や匂いによる索敵も難しくなるので、トカゲに噛みつかれないためには常に周囲を探知するような魔法を使っていなければならないだろう。
 それに類する魔法や魔道具を持たない者は運や勘に頼って階層を攻略しなければならない。
 さすがは総合難易度Sランクのダンジョンだ。
 生半可な者では10階層までも到達することはできないというわけか。
 残念なことに、今の5階層は夜のようだ。
 この階層に出てくる魔物だったら夜でも相手ができないこともないが、これから先の階層はそうはいかないかもしれない。
 ここはダンジョンや森などの危険な場所での夜の過ごし方を学んでおくべきだろう。
 俺は神の苦無威の隠密能力を発動し、他の冒険者たちがどうやって夜をやり過ごしているのかを観察する。
 まず一番近くで野営をしていた冒険者パーティだ。
 彼ら彼女らは男4人女2人の6人パーティで、2人ずつ見張りを立てて他の人は寝るというような形で夜を過ごしていた。
 これはソロのおっさんが真似できるものではないな。
 あと男女混合パーティとか羨ましい。
 男女関係のもつれという問題が将来彼ら彼女らを襲うかもしれない。
 だけど世間の常識なんかに負けて欲しくないな。
 おっさんは男女の友情って、あると思うよ。
 ただそれはちょっとアダルティなフレンドも含まれる話であって、男同士の友情や女同士の友情と同列に語れる話では無いというだけの話だ。
 アダルティな関係を含んだ複雑な友情が彼らを結びつけてくれることを祈り、俺は他の冒険者を探しに戻った。
 やっぱ俺と同じソロの人を探さなきゃ意味が無いな。
 人の匂いを追って冒険者を探すこと10分ほど。
 人の匂いもするし気配もするけれど姿が見当たらないという不思議な場所を見つけた。
 おそらく魔法か魔道具で姿を隠しているのだろう。
 パーティだったらさっきの人たちみたいに見張りを立てて眠るはずだから、おそらくソロだろう。
 なるほど、ソロはこうやって夜を過ごすのか。
 俺が今やっていることはソロの冒険者的には正しかったわけだ。
 俺は姿を隠したソロ冒険者さんのいる場所からそっと離れ、適当に大きな岩の上で眠った。
 手には神の苦無威を縛りつけてある。
 寝相が悪いと自分に刺さりそう。

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