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78.多難なる旅路
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高い船券を買っただけあって、船は沈没することなく大海原を進んだ。
海から魔物が現れても船の乗組員が颯爽と退治してしまう。
当たり前のことなのに、なぜか感動した。
このまま順調に行けばあと3日ほどで船は目的地に到着する。
目的地である港町ラブカはなんの特徴もない普通の港町だ。
当初南国の楽園バーメイを経由して別大陸に行くつもりだった俺だったが、ボロ船が難破してしまったおかげで少しルートがずれてしまった。
岩の町リングドラムから別大陸に向かうのならば、ラブカまで船で行ってそこからは陸路で半島の先端まで行くのが最短ルートだ。
当初の予定よりも海路を移動する距離が短くなってかえって安全かもしれない。
この世界の海は危険だし、船に乗る時間は短いにこしたことはない。
それに港町ラブカの近くには、迷宮都市と名高いドラゴニアという街がある。
街の名前と同じドラゴニアの名が付いたダンジョンがあることで有名な都市国家だ。
その名の通り、ドラゴニアダンジョンは出てくる魔物がすべて竜種という珍しいダンジョンだとミルファさんから聞いたことがある。
近くに行ったら一度寄ってみたいと思っていたところだ。
ラブカはたぶん男爵領と大差ない田舎の港町だろうから、昼だったらその日のうちに町を出て夜だったら一晩だけ泊まってさっさとドラゴニアに行くとしよう。
男爵領にそんなものはいるわけないので俺はドラゴンを見るのは初めてとなる。
少しだけ怖いような、でも楽しみなような複雑な気持ちだ。
あと3日ボロ船とは大違いの快適な個室の船室でのんびり過ごして、SNSでドラゴンの情報でも集めるとしよう。
「え、降りられない!?」
「ええ。すみませんがラブカで疫病が発生しているらしく、少し沖合いで様子を見ようと思います」
ドラゴンの情報も結構集めてさあダンジョン行くぞと思ったらこれだ。
まったく、異世界はままならない。
このままではせっかくラブカの近くまで来たのに、船は別の町に行かざるを得なくなってしまうかもしれない。
なんとかしてラブカには上陸したいところだ。
どんな病気でも多分神酒は治すことができるだろうが、また聖者だとか勇者だとか騒がれると近くにあるというドラゴニアに向かうときの妨げになってしまいそうだ。
姿は隠して、とりあえず様子だけでも見にいってみるとしよう。
俺は神の苦無威を握って隠密能力を発動し、海の上を空歩の魔法で駆け抜けた。
船が停泊していたのはラブカの沖合い3キロ程度の位置だったようで、すぐに港が見えてきた。
港には大きな白い旗が掲げられていて、それが停泊不可の合図になっていたらしい。
俺は船員じゃないので分からないが、旗の色か何かが疫病を表す符号になっているのだろう。
停泊の禁じられた港は閑散としていた。
地元の漁船なども何日も船を動かした形跡が無い。
疫病は相当深刻なものらしい。
隠密能力を維持したまま町を散策していく。
町は人が全くいなかった。
普段ならばそれなりに人の出入りがありそうな酒場なども固く扉を閉めて板で隙間を塞いでいる。
家の中には人がいる気配はあるから、おそらく病気が移るのを恐れて皆家に引きこもっているのだろう。
病気の人たちはどこにいるのだろうかと空気の匂いを嗅いでみると、風上から人の匂いが強く感じられた。
俺は風上のほうへ歩いていく。
町の中心部から少しはずれた場所に、人の匂いが強い建物があった。
おそらく病人が集められているのはここだ。
建物には大きな十字架が掲げられていた。
教会か。
教会には良い思い出が無いな。
ステルシア聖王国で見た教会上層部の暴走を思い出して俺は顔をしかめた。
ここはステルシア聖王国から遠いし、あそこまで腐ってないといいのだが。
開け放たれた窓から、教会の中にお邪魔する。
予想通り教会の中には多くの病人がいた。
病人たちの症状は高熱と全身に水ぶくれのようなイボか。
素人目だが、天然痘に似ているような気がする。
日本でも昔は疱瘡と呼ばれて猛威を振るった感染症だ。
ここは異世界だから同じ病気かは分からないけれど、危険な病気だっていうことはビンビン伝わってくる。
病人たちの世話は3人のシスターが行っているようで、あちこち走り回って水を飲ませたり汗を拭いたりと甲斐甲斐しく動き回っている。
この教会の主であろう神父も、病人たちに必死で回復魔法をかけて回っていた。
60代くらいの好々爺然とした神父だ。
聖王国で政争を繰り広げているような腐れ坊主じゃなさそうで少し安心する。
しかし神父は相当無理をしているのか、目の下にはクマが出来て今にも倒れそうな顔色をしていた。
魔力ももう残っていないのに無理矢理搾り出しているような状況だ。
病人よりも先に神父が御臨終してしまいそうだな。
「神父様、少し休憩を取ってください。神父様が今倒れてしまわれたら、病気に苦しむ人たちも助かりません」
「そうだね。少し休憩を取ることにする。君たちも休みなさい」
さすがに神父の顔色が悪すぎるのに気がついたのか、一人のシスターが神父を休ませる。
シスターもみんな疲れた顔をしているし、みんなで休憩を取るようだ。
ちょうどいいので全員分のお茶に神酒を混ぜておく。
これで神父とシスターが倒れることはないだろう。
あとは病人の横に置かれている水差しにも神酒を入れておくか。
これでここにいる病人は回復するはずだ。
町中の井戸にも神酒を混入させておけば直に疫病も終息することだろう。
少し作物の生育に異常が出てしまうかもしれないけれど、マイナスの異常じゃないから問題は無いと思う。
さて、船に戻るとするか。
「あれ神父様、顔色が……」
「君たちもずいぶんといい顔色になっているよ」
「なんだか疲れが吹き飛ぶようです」
「このお茶、特別なものなんですか?」
「いいえ、普通のお茶です」
「これも神の思し召しかもしれないな。私たちの行いを、神は見ていてくれたらしい」
「「「ああ、神よ……」」」
まあ、神の思し召しかもね。
神器だから。
神は多分人々の苦難を爆笑しながら見てるよ。
海から魔物が現れても船の乗組員が颯爽と退治してしまう。
当たり前のことなのに、なぜか感動した。
このまま順調に行けばあと3日ほどで船は目的地に到着する。
目的地である港町ラブカはなんの特徴もない普通の港町だ。
当初南国の楽園バーメイを経由して別大陸に行くつもりだった俺だったが、ボロ船が難破してしまったおかげで少しルートがずれてしまった。
岩の町リングドラムから別大陸に向かうのならば、ラブカまで船で行ってそこからは陸路で半島の先端まで行くのが最短ルートだ。
当初の予定よりも海路を移動する距離が短くなってかえって安全かもしれない。
この世界の海は危険だし、船に乗る時間は短いにこしたことはない。
それに港町ラブカの近くには、迷宮都市と名高いドラゴニアという街がある。
街の名前と同じドラゴニアの名が付いたダンジョンがあることで有名な都市国家だ。
その名の通り、ドラゴニアダンジョンは出てくる魔物がすべて竜種という珍しいダンジョンだとミルファさんから聞いたことがある。
近くに行ったら一度寄ってみたいと思っていたところだ。
ラブカはたぶん男爵領と大差ない田舎の港町だろうから、昼だったらその日のうちに町を出て夜だったら一晩だけ泊まってさっさとドラゴニアに行くとしよう。
男爵領にそんなものはいるわけないので俺はドラゴンを見るのは初めてとなる。
少しだけ怖いような、でも楽しみなような複雑な気持ちだ。
あと3日ボロ船とは大違いの快適な個室の船室でのんびり過ごして、SNSでドラゴンの情報でも集めるとしよう。
「え、降りられない!?」
「ええ。すみませんがラブカで疫病が発生しているらしく、少し沖合いで様子を見ようと思います」
ドラゴンの情報も結構集めてさあダンジョン行くぞと思ったらこれだ。
まったく、異世界はままならない。
このままではせっかくラブカの近くまで来たのに、船は別の町に行かざるを得なくなってしまうかもしれない。
なんとかしてラブカには上陸したいところだ。
どんな病気でも多分神酒は治すことができるだろうが、また聖者だとか勇者だとか騒がれると近くにあるというドラゴニアに向かうときの妨げになってしまいそうだ。
姿は隠して、とりあえず様子だけでも見にいってみるとしよう。
俺は神の苦無威を握って隠密能力を発動し、海の上を空歩の魔法で駆け抜けた。
船が停泊していたのはラブカの沖合い3キロ程度の位置だったようで、すぐに港が見えてきた。
港には大きな白い旗が掲げられていて、それが停泊不可の合図になっていたらしい。
俺は船員じゃないので分からないが、旗の色か何かが疫病を表す符号になっているのだろう。
停泊の禁じられた港は閑散としていた。
地元の漁船なども何日も船を動かした形跡が無い。
疫病は相当深刻なものらしい。
隠密能力を維持したまま町を散策していく。
町は人が全くいなかった。
普段ならばそれなりに人の出入りがありそうな酒場なども固く扉を閉めて板で隙間を塞いでいる。
家の中には人がいる気配はあるから、おそらく病気が移るのを恐れて皆家に引きこもっているのだろう。
病気の人たちはどこにいるのだろうかと空気の匂いを嗅いでみると、風上から人の匂いが強く感じられた。
俺は風上のほうへ歩いていく。
町の中心部から少しはずれた場所に、人の匂いが強い建物があった。
おそらく病人が集められているのはここだ。
建物には大きな十字架が掲げられていた。
教会か。
教会には良い思い出が無いな。
ステルシア聖王国で見た教会上層部の暴走を思い出して俺は顔をしかめた。
ここはステルシア聖王国から遠いし、あそこまで腐ってないといいのだが。
開け放たれた窓から、教会の中にお邪魔する。
予想通り教会の中には多くの病人がいた。
病人たちの症状は高熱と全身に水ぶくれのようなイボか。
素人目だが、天然痘に似ているような気がする。
日本でも昔は疱瘡と呼ばれて猛威を振るった感染症だ。
ここは異世界だから同じ病気かは分からないけれど、危険な病気だっていうことはビンビン伝わってくる。
病人たちの世話は3人のシスターが行っているようで、あちこち走り回って水を飲ませたり汗を拭いたりと甲斐甲斐しく動き回っている。
この教会の主であろう神父も、病人たちに必死で回復魔法をかけて回っていた。
60代くらいの好々爺然とした神父だ。
聖王国で政争を繰り広げているような腐れ坊主じゃなさそうで少し安心する。
しかし神父は相当無理をしているのか、目の下にはクマが出来て今にも倒れそうな顔色をしていた。
魔力ももう残っていないのに無理矢理搾り出しているような状況だ。
病人よりも先に神父が御臨終してしまいそうだな。
「神父様、少し休憩を取ってください。神父様が今倒れてしまわれたら、病気に苦しむ人たちも助かりません」
「そうだね。少し休憩を取ることにする。君たちも休みなさい」
さすがに神父の顔色が悪すぎるのに気がついたのか、一人のシスターが神父を休ませる。
シスターもみんな疲れた顔をしているし、みんなで休憩を取るようだ。
ちょうどいいので全員分のお茶に神酒を混ぜておく。
これで神父とシスターが倒れることはないだろう。
あとは病人の横に置かれている水差しにも神酒を入れておくか。
これでここにいる病人は回復するはずだ。
町中の井戸にも神酒を混入させておけば直に疫病も終息することだろう。
少し作物の生育に異常が出てしまうかもしれないけれど、マイナスの異常じゃないから問題は無いと思う。
さて、船に戻るとするか。
「あれ神父様、顔色が……」
「君たちもずいぶんといい顔色になっているよ」
「なんだか疲れが吹き飛ぶようです」
「このお茶、特別なものなんですか?」
「いいえ、普通のお茶です」
「これも神の思し召しかもしれないな。私たちの行いを、神は見ていてくれたらしい」
「「「ああ、神よ……」」」
まあ、神の思し召しかもね。
神器だから。
神は多分人々の苦難を爆笑しながら見てるよ。
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