おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉

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76.崩落事故

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「大変だ!鉱山ででかい崩落事故があったらしい!回復魔法が使えるやつは集まってくれ!!」

 いつものように鉄鋼石から鉄を抽出してお菓子を貪るおいしい仕事に勤しんでいた俺。
 そこに血相を変えた男が飛び込んできた。
 どうやらこの町の主要産業である鉱山で、崩落事故が起きたようだ。
 ここには中級の地魔法の使える魔法使いが集まっている。
 少しでも回復系統の魔法が使える人間は根こそぎ怪我人の治療に借り出されているようだ。
 俺も当然治療に参加する。
 神酒があるので普段はあまり使わない回復魔法だが、男爵が暗殺されかけた事件から俺は結構練習している。
 神酒は心臓の止まった人間には効果がない。
 だから心臓が止まったばかりでまだ蘇生が可能な人間に対しては、神酒ではなく魔法のほうが有効なのだ。
 初級、中級あたりの魔法は大体1秒程度で発動可能だ。
 しかしそれ以上の魔法はあまり練習していない。
 そもそも心臓が止まっているから神酒が効かないのであって、魔法に求めるのは心臓を動かすところまでだ。
 だったら別に回復魔法でなくてもいい。
 電気信号で筋肉を強制的に動かしてやるだけでも神酒は効果を発揮するのだ。
 それくらいは上級や特級の複雑な魔法陣を描かなくてもできる。
 あとは水魔法で神酒を操って胃袋に入れてやればどんな怪我や病気であろうと回復する。
 さすがに死んでから何時間も経過した人間を蘇らせることはできなかったが、偶然男爵領内で発見が遅れた死後30分くらいの子供がいたのでこの方法を試してみたら蘇生することに成功した。
 初級や中級の回復魔法は、男爵暗殺事件のときのように酷く出血していたりもしも心臓が破壊されていたときにある程度は魔法で回復させるために練習していたものだ。
 上級や特級の回復魔法も時間をかければ使えないわけではないので、魔力残量や怪我人の容態なんかを見ながら使い分けていけばいいだろう。

「ぐぅっ、いてぇ、いてぇよぉ……」

「助けてくれ!早く!血が止まらねえ!!」

 怪我人が集められた町の治療所はあちこちから呻き声が木霊する地獄絵図になっていた。
 製鉄所から集められた魔法使いである俺達もすぐに治療に加わる。

「じっとしていてくれ。血を止める」

「すまねえ、頼む……」

 俺は出血の酷い重傷者から順番に、回復魔法をかけていく。
 申し訳ないが少しでも多くの人を救うために完全には回復させない。
 命に別状のない程度まで回復させて、次の怪我人に向かう。
 頭を打っている人や呼吸に異音が混ざっている人なども早めに治療が必要だろう。
 俺は増幅された感覚を使って、死にそうな人を嗅ぎ分けて治療していく。
 しかしどれだけ急いで治療しようとも、どうしても亡くなってしまう人というのは出てきてしまうものだ。
 
「あんたぁ、息してくれよ!お願いだから!あんたが死んだらあたしたちどうすればいいんだよ!!」

 奥さんだと思われる人が泣きながらすがりついていたのは、以前ギルドで絡んできた男だった。
 嫌味な男だったが、だからといって助けないわけにもいかないだろう。

「奥さん、ちょっとどいて」

「なんだってんだよ!この人を生き返らせてくれるとでも言うのかい!!」

「そうだ」

「え……」

 呆けた奥さんのことはひとまず放置だ。
 すぐに男の胸をはだけさせる。
 胸毛が生い茂った男臭い胸だ。
 あまり見ていたいものでもないので治療を開始する。
 先に水魔法で神酒を胃袋に送り込んでおく。
 あとは胸に指を置いて心臓を数回動かすだけだ。
 特別なことは何も必要ない。
 指からの電流によってビクンビクンと痙攣する男。

「あんた?死んだんじゃ……」

 まだ生き返ってはないから。
 神酒が吸収され、男の顔に血色が戻る。
 ここでやっと男は息を吹き返した。

「ごはっ、はぁはぁはぁ、げほっげほっ」

「あんたぁぁぁっ!!」

 奥さん風の女性は泣いてすがりついた。
 おいおいと泣く女性に、男は何がなんだか分からないという顔をしている。

「この人があんたのことを生き返らせてくれたんだよ。あんた本当にちょっとの間息が止まってたんだよ!」

「そうか、すまねえなあん……た……」

 そこで俺のことを以前絡んだことのある冒険者だと気が付いたのか、男の顔は苦虫を噛み潰したようなものになった。

「なんで、俺を助けた。あんた、すげー魔法使いだったんだろうが。それをひょろいおっさんだと笑った俺を、なんで助けたんだよ」

「助けたらどんな顔するのか見てみたくてね。俺の想像通りの顔をしてくれて大満足だよ」

 男はさらに顔を歪めた。
 まあこれでもうギルドで絡まれることも無くなるだろう。
 他にも死人が出ているようなので、俺は男に背中を向けて次の人のもとへ向かった。




「シゲノブさん、あんた何者なんだ?」

 そう俺に尋ねてきたのは冒険者ギルドリングドラム支部の支部長、ファルコンさんだ。
 たぶん本名じゃないと思うけれど、みんなからそう呼ばれているから俺もそう呼んでいる。
 ファルコンさんの用件は先日の崩落事故のときの俺の行った治療についてだ。
 この世界では特級魔法でも死人を生き返らせることはできない。
 死んだばかりの人を蘇生させるくらいの回復魔法を使える人はどこかにいるかもしれないけれど、魔力の問題もあるしこれほど大勢の人を蘇生させた記録はたぶんないだろう。
 鉱山の中で生き埋めになっていた人もすべて蘇生させて回ったから、今回の事故で死んだ人はゼロだ。
 治療所の怪我人をすべて治療するのに30分以上かかってしまったからそこからは賭けだったのだが、なんとか全員蘇生させることができた。
 中には心臓が止まってから1時間と少し経っていた人もいたけれど、少し蘇生に時間がかかっただけで無事蘇生に成功した。
 個人差もあるかもしれないが、死んで1時間くらいは蘇生の可能性はあるということが分かって俺にとっても大きな収穫となった。
 しかし死んで1時間経った人を生き返らせるなんて人間業じゃない。
 自分でもそう思ったのだから、支部長がそう思うのも無理はない。

「秘密にしておいてほしいのですが、実は俺は三国同盟が召喚した勇者のひとりでして……」

「なんと……」

「今は勇者が殺しあう時代なんで、情報はファルコンさんの胸の中で留めておいてくださるとありがたいです」

「わかった。あんたはこの町の恩人だ。恩を仇で返すわけにはいかねえ。ギルド員たちには腕の良い治癒魔法使いとでも説明しておくさ」

「ありがとうございます」

 

 
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