おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉

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70.ボロ船

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 ギギギという嫌な音を響かせながら、ボロ船は進む。
 ずいぶんと揺れる船だ。
 空は晴れ渡って海は穏やかだというのに。
 これじゃあ嵐でも来たら本当に沈むんじゃないのかな。
 まあ今まで沈んでないってことは大丈夫なんだろうけど。
 なんとも客を不安にさせる船だ。
 俺は船尾でビキニアーマーのお姉さん、ミルファさんと並んで座る。
 ミルファさんはビーチチェアに寝そべってダイナマイトなボディを日光に当てている。
 俺は隣でデッキチェアに座り、てらてらと黒光りする眩しい肉体をチラ見しながらタバコをふかす。
 
「おっさん、あたしにも1本くれよ」

「えぇ……」

「あたしの身体チラ見してんの分かってんだよ。金取るぞ」

 俺はしょうがなくミルファさんにタバコを1本渡す。
 ビキニアーマーの罠に引っかかってしまったのだからしょうがない。
 ミルファさんはタバコを口に咥える。

「火くれ」

 そう言って口に咥えたタバコを俺のほうへ向けるミルファさん。
 ミルファさんからは強い魔力を感じるのだけれど、魔法は使えないのだろうか。
 一瞬口に咥えたタバコで着火してやろうかと思ったけれどやめておく。
 おっさんがやったら笑われそうだ。
 普通に指先に火を灯してミルファさんのタバコに着火した。

「ふー、いいもん吸ってんな。これ高かったんじゃねえのか?」

「まあまあ高級品ですよ」

「おっさんのほうが年上なんだから、敬語やめろよ。あたしは敬語使うやつ見ると虫唾が走るんだよ」

 虫唾が走っていたのか。
 それは悪いことをした。
 異世界っていうところは、色々な人がいるな。






 ゴゴゴゴゴという聞いたことのない音に目を覚ますと、水の中だった。
 なんで!?
 ちょ、息ができない。
 目の前にあるのは船室の天井。
 これ、完全に船沈んじゃってるじゃん。
 俺は目の前の船室の天井を思い切り殴りつけた。
 古い木の天井は木っ端微塵に砕け、気泡で目の前が真っ白になる。
 とにかく息が苦しい。
 俺は夢中で水をかいて海面を目指した。
 何枚かの壁か天井をぶち破ると、やっと船から出られたようで視界がクリアになった。
 暗い海の底に沈んでいく船。
 これはもう魔法でもどうにもならないね。
 見える範囲で溺れている人をウォーターハンドの魔法で掴んで引き上げる。
 その中にミルファさんもいたことに少し安心した。
 俺は数人の人間と一緒に海面に上がった。

「ぶはっ、はぁはぁはぁ……」

「ごはっ、お、溺れる。た、助けて」

「ミルファさん、泳げないの?」

「黒牛族は全員泳げないんだよ!もう無理、助けて……」

「俺の肩に捕まって。暴れずに、じっとしていれば沈まないから」

 ミルファさんはかなりの力で俺の頚動脈を締め付ける。
 おっさんが強化人間じゃなかったら普通に首の骨が折れて死んでる。
 肩にあたる柔らかい胸の感触くらいは許されてしかるべきだ。
 俺が助けられたのは全部で6人。
 ミルファさん以外は全員泳げるようで、海面に顔を出してなにやら言い合っている。

「くそっ、あのボロ船やっぱり修理しておけばよかったぜ」

「船長のせいだぜ。俺達は絶対修理するべきだって言ったんだ」

「そんなこと今更言ったって仕方がねえだろうが!」

「くそっ、こんな海の真ん中でどうしろっていうんだ」

「近くの島まで船で半日はかかる距離だぜ」

 どうやら俺とミルファさん以外全員船の船員だったようだ。
 それも船長が船を修理するのをケチったせいで沈没したらしい。
 なんだか助けて軽く後悔してきた。
 かといって助けないわけにもいかなかったけれどね、善良派のおっさんとしては。
 他の人も助けてあげたかったが、さすがに強化人間のおっさんでもあんな深さに沈んだ船から人を助け出すのは容易ではない。
 せめてもう少し早く目が覚めていれば助けられる人も増えたかもしれないが、生憎と昨日は少し深酒してしまっていた。
 眠ってから船が沈むまでの時間が1時間くらいしかなかったから、酔いが抜けてなかったんだ。
 
「船長のせいだぜこんなことになったのは!!」

「うるせーうるせー!!てめーらそんなに強く止めなかったじゃねーかよ!!」

「こんなことになるなんて思わねーだろーが!!」

 向こうはヒートアップしてきたな。
 止めるのも面倒だが、こんな海の真ん中に置いていくわけにもいかない。
 この人たちならなんとなく泳いで島までたどり着きそうな気もするけれど、死なれても寝覚めが悪いので一応ね。

「ちょっといいですか」

「ああ?なんだてめーは」

「はぁ、気が立っているのは分かりますけどこっちも金を払って乗った船が沈んでイライラしているんです。もう一度海の底に置いてきましょうか?」

「あ、ああ。俺たちを助けてくれたのはあんたか。すまなかったな、こんなことになっちまってよ。だが安い船券買ったのはあんただぜ」

「ええ、軽く後悔しています。金返せとは言いませんから、喧嘩はこのへんにしてくださいよ」

 船賃をケチったばかりに、船が沈没してしまった。
 これでは船の修理をケチったばかりに船を沈めてしまった船長と同じだ。
 安い船賃というのは、船が沈没する危険性も含んだ料金だったのだろう。

「悪かったな、兄ちゃん。みっともねーところを見せちまった」

「でもよ、この状況をどうするよ」

「そりゃあ、泳ぐしかないでしょ。島の方角は大体分かるんですよね?」

「ああ、分かるけど……。泳げる距離じゃねえと思うんだけどな」

「やってみないと分かりませんよ」

「まあそれしかねーしな」

 そんなわけで俺達は遠泳で島に向かうことになりましたとさ。
 キムリアナまでなら転移ですぐに戻れるけどそこまでしてやる気は俺には無い。
 まあ力尽きて溺れそうになったら助けてあげるよ。


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