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69.旅立ちとビキニアーマー

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 カールの訓練も適当に見てやりながらも、地道に依頼をこなし続けたおっさんはついにDランク冒険者にランクアップした。

「おっさんのほうが後からEランクになったのに……」

「まあそう落ち込むことは無い。カールはまだ11歳なんだから、Eランクでも十分凄いことだとおっさんは思うけどな」

「でも俺と同い年の獣人は……」

「カール、自分と他人を比べてもしょうがない」

「でもおっさん。俺がこの国で、同じ年代の子供たちから一歩劣っているっていうのは事実だ。劣っている奴は、劣っている人生を送らなきゃいけないのか?」

 11歳ともなれば、色々なことを考えてしまう年頃か。
 とくにカールは同年代の中でも特に大人っぽい考え方をする。
 悩むのは当然か。

「カールの言っているのは、戦闘能力のことだけだろ?戦闘能力なんていうのは、人生を豊かにするための一つの手段に過ぎないとおっさんは思うよ」

「でも俺は冒険者として生きていくって決めたんだ。冒険者にとっては、強さは重要だろ」

 確かにそれも正しい。
 冒険者にとって強いことは多くのメリットがあるだろう。
 生存率も上がるし、稼ぎも増える。
 だが、冒険者としての強さっていうのは別に身体を鍛えないと身に付かないわけでは無いだろう。
 なぜなら俺は、食べただけですべての魔法が使えるようになる木の実を知っている。
 指にはめただけで肉体と魔力を強化してくれる指輪を知っている。
 首にかけただけで言葉が分かるようになるネックレスを知っている。
 この世界はそんなアイテムで溢れているんだ。

「カール、この木の実を見るんだ」

「なんだよこの不味そうな木の実は」

 正解。

「この木の実は食べるだけですべての初級魔法が使えるようになる木の実だ。おっさんは実はズルをして魔法を覚えたんだ」

 正確にはすべてがズルだけど。
 まあそれなりに訓練も積んでいるので別に後ろめたいとも思ってない。
 力は力、それだけの話だ。

「そんな木の実が……。それ、くれ」

「だめだ。こんな木の実みんな欲しいに決まっている。カールの持っているだけの金じゃあ買えない」

「そ、そうだよな。でも、じゃあなんでそんなの見せたんだよ。見せびらかしたかったのか?」

「違う。カールにこの木の実を見せたのは、この世界では金を出せばこんなアイテムだって買えるっていうことを知っておいて欲しかったんだ。おっさんの個人的な意見なんだけどさ、強さっていうものに固執して生涯をそれに費やすのは本末転倒なんじゃないかって思うんだ」

「ほんまつてんとう?」

「ああ、こちらには無いことわざだったか。目的と手段が変わっちゃうってことだよ。強さっていうのはあくまでも手段だ。そして金で買えるものでもある。だからまずは生き残ること、金を稼ぐことに専念するんだ。金貨10枚貯まったらリザウェルに来るといい。この木の実を売ってあげよう」

「金貨10枚……」

 孤児院の子供には大金だが、大人だったら月の給料の半分くらいの額だ。
 正直神樹の実を売るには少し安いが、さすがにおっさんも子供から金貨100枚も200枚も搾り取ろうとは思わない。
 金貨10枚といえば頑張ればカールがDランク冒険者になる頃には貯まるくらいの金額だ。
 カールは決意を宿した顔で頷いた。
 楽しみだね。





 さて、Dランク冒険者にもなったし、船賃もそこそこの額が貯まった。
 そろそろおっさんは旅に戻ろうと思う。
 次の目的地は南国の楽園と名高いバーメイという国。
 地球で言う所の東南アジアみたいな場所にある国だ。
 赤道に近いのか、一年中温暖な気候の国だ。
 連合国からはかなりの距離があり、半年くらいの長い船旅になる予定なのだが……。

「大丈夫なのか、この船」

 船のチケットを買い、乗るように案内された船は見るからにボロい船だった。
 確かに船賃をけちって最低ランクの船にしたのは俺だが、最低ランクにも程度っていうものがあるだろう。
 最低でも目的地にたどりつけるレベルだと俺は勝手に思っていたのだが、どうやら異世界は違うらしい。
 だがもうチケットの払い戻しもできない。
 しょうがなく俺は船に乗り込んだ。
 すでに港町で出会った人たちに別れは済ましてある。
 まあこの町は男爵領から定期的に船が行き来しているので、そこまで本格的な別れじゃない。
 またそのうち会えるさ。
 俺はギシギシ音のする甲板を歩き、居場所を探す。
 さっき船室を見てきたけど埃っぽいしカビ臭いしで、とてもずっと居られるような場所じゃなかった。
 個室も無くて大勢で雑魚寝なので落ち着かないし。
 天候が悪くないときは甲板のほうが居心地はいいかもしれないと、さっきから甲板をうろついているのだ。
 だが甲板は甲板で船員たちが走り回っていてちょっと居づらい。
 船尾のほうならどうか。
 船員の邪魔そうな視線に耐えながら、船尾に向かうとまあまあ静かで居心地が良さそうな空間があった。
 だが先客がいたらしく、ビーチチェアのようなものが置かれている。
 この世界にもこういうのあるんだなと思って眺めていると、背後から強い魔力を宿した人が近づいてくるのが分かった。
 一応身構えながら待つ。
 ギシリギシリと足音を立てながら、気配を抑えることもなく近づいてくるその人物。

「その椅子はあたしのだよ。使うなら金を払いな」

 俺は振り向く。
 そこには、小麦色の肌をおしげもなく露出した大柄の美女が仁王立ちしていた。
 その肉体は良く鍛えられており、ボディビルダーのように筋肉が隆起している。
 身体のあちこちに古傷があるところを見ると、冒険者だろうか。
 顔はラテン系の顔立ち。
 ふんわりとウェーブした髪は異世界では珍しい黒髪で瞳も同色。
 そして頭の両側からは鋭い角が生えている。
 アンネローゼさんやアマーリエのような巻き角ではなく、牛のように湾曲した黒い角だ。
 たしか黒牛族だったかな。
 いや、今はそんなことはどうでもいい。
 なにせ彼女が身に着ていたのは女性専用超軽量装備、ビキニアーマーだったのだから。
 おばさんじゃないビキニアーマー着用者に出会ったのは、初めてだ。
 黒牛族の女性の特徴である大きな胸をほぼほぼ隠せていない小さな胸部装甲と、際どいところまで見えてしまっている極小の股間部装甲。
 こんな痴女みたいな装備の人が本当にいるとは、さすが異世界。
 
「聞いてんのかい?金、払うのかい?」

「失礼。金は払いません。椅子は私も持っているので」

 俺は異空間収納からデッキチェアを取り出して座る。

「ちっ、空間魔法かい」

 椅子で小遣い稼ぎができるとでも思っていたのか、舌打ちをして顔を歪める彼女。
 ごめんなさいね、おっさんもあまりお金は持ってないんです。
 まあ冷やした果物ジュースくらいならたくさん異空間収納に入ってるから、それで勘弁してほしな。
 

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