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68.おっさんと少年2

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「いいかねカール君」

「なんだよおっさん」

 カールはオークの薄切り肉を口いっぱいに頬張りながらも、おっさんの話にちゃんと耳を傾けてくれているようだ。
 口は多少悪いけど、根はいい子なんだよね。
 俺もオークの薄切り肉を食べてビールをぐびりと一口飲み、カールに答える。

「冒険者ギルドというのは国をまたいだ組織だ。だけど冒険者ギルドが作った国というのが無い以上は、国にお願いして支部を置いてもらわなきゃならない。そうしなければ商売ができないよね」

「そうだな。でも、国側も魔物をやっつけてくれる冒険者には来て欲しいからその元締めである冒険者ギルドにも来て欲しいと思っているんじゃないのか?」

 カールはわんぱく少年のように見えてけっこう頭がいい。
 国側と冒険者ギルド側、両者の立場にたって考えることができているようだ。
 
「そのとおり。両者の利益が一致しているから、貸し借り無しで冒険者ギルドは国に支部を置くことができているわけ。でも冒険者ギルドはずっとその土地でやっていくのだから、地域に根付かなきゃならないよね。そのためには街のためにならなきゃいけないわけだ」

「だから、街のためになることはギルドのためになるってことなのか?」

「これまたそのとおり。実際にはその土地の領主とかも絡んでくるからそんなに単純な話ではないけれど、大まかにはそんな感じだ」

「とにかく早く冒険者ランクを上げたいんだけど、どうすればいいんだ?」

 俺はストレートすぎる質問に、ふふと笑ってしまう。
 カールは俺に笑われたことに腹を立てたのか、オークの肉をやけ食いする。
 まあそれが、一番早いかもしれないがね。
 たくさん食べて早く大きくなる。
 俺の答えはこれに尽きる。
 だけどそんな言葉ではカールは納得しないだろう。
 たんと食べて早く大きくなれ、なんていうのは大人が子供によく言う言葉だ。
 実際に先ほどから院長先生は子供たちに10回以上言っている。
 俺からは多少現実的なことが聞きたいというのが、カールの本心だろう。

「そうだな、とにかくギルドの立場に立って考えてみることだよ。言い方は悪いけど、高ランクの冒険者っていうのはギルドにとって都合の良い人材なんだ。冒険者はどうしても自分本位で考えがちだけど、早くランクを上げたかったら本当に考えなきゃいけないのはギルドの利益だ」

「ギルドの利益?」

「そう。たとえば、俺が受けた孤児院の塀の修理」

「そんなの、ギルドにはいくらにもならない依頼なんじゃないのか?おっさんだって金なんて銅貨数枚もらっただけだろ?」

「まあ金額で見たらそうだ。依頼料は銅貨30枚。ギルドに入る手数料なんて銅貨数枚だろう。だけど、金じゃないものをギルドは得ているんだ。ギルドは人助けのためにこんな安い依頼にも冒険者を出してくれるという実績。それを町の人たちにアピールすることができた」

 まあ実際には裏でちゃんとギルドにお金が入ってくる仕組みがあるのかもしれないが、子供にそんなダーティな話はまだ早いだろう。

「じゃあおっさんは、それを知ってて孤児院の塀の修理なんて依頼を受けたのか?」

「いや、俺は受付のガルマさんに聞いただけだよ」

「へ?受付ってそんなこと教えてくれるのか?」

「まあ地道に世間話に興じて信頼関係を築ければね」

「大人ってきたねーな」

 そのくらいは汚いうちに入らないけどね。
 受付だってサイボーグじゃない。
 ちゃんと血の通った人だ。
 別に冒険者にギルドへの貢献度の高い依頼を教えるのは規則に違反する行為ではないのだし、気に食わない冒険者がランクを上げるよりは自分が懇意にしている冒険者にランクを上げてほしいと思うのは当然のこと。
 
「カール。君はこのオークをギルドに持っていけばいいと言っていたが、持っていったらどうなっていたと思う?」

「え、どうなるって。オークを倒せる力を持っていたんだって尊敬される?」

「いいや、尊敬なんてされないと俺は思うな。俺はこつこつ自分の身の丈にあった依頼をこなしてここまでガルマさんと信頼関係を築いてきたんだ。ここでいきなり自分のランクよりも2ランク上のオークを狩ってきたなんて言ったら、ガルマさんとの信頼関係に何かしらの影響があったと思うよ」

「えぇ、そんなの考えすぎじゃねーのかよ」

「俺はオークを狩ることがランクアップの最短の道じゃないってことを、ガルマさんに聞いて知っているからね。知っているのに非効率的なことをするのは焦っている人間だ。何かに焦って早く冒険者ランクを上げようとする人間なんて絶対信頼されないよ。焦りはいつかミスを生むものだからね」

「ふーん。まあ遠まわしに焦るなって言っているのは分かったよ」

 子供に何が言いたいのか分かったって言われるのがこんなに恥ずかしいとは思わなかった。
 本当に頭のいい子だ。
 
「とにかくカールはまだまだ弱い。ゴブリンを狩って訓練を積むのが一番早いだろう。ゴブリンは武器の練習相手には最適だ」

「えぇ、ゴブリンなんてもう倒せるよ。弱いじゃん」

「ゴブリンを舐めてるといつか痛い目にあう。数だけは多い魔物だからね」

 実際俺も初めの頃は酷い目にあった。
 数百のゴブリンの群れに囲まれて、ゴブリン団子にされたことがある。
 あれは堪える。
 身体中にゴブリンが纏わり付いてきて、おしくらまんじゅうのごとくゴブリンまみれにされるんだ。
 暑いし臭いし、ケツに何か当たるしで最悪だった。
 おっさんとゴブリンが仲良くひしめき合って誰が得するんだよ。

「ゴブリンの怖さは数が10を越えたらだ。多数のゴブリン相手に訓練してみたらいいんじゃないかな」

「まあ確かに3匹越えたゴブリンとは戦ったこと無かったな」

「まあ地道にね」

「わかってるよ。うるせーな」

 カールはそう言ってさらに肉を頬張った。
 おっさんそろそろさっぱりしたものが食べたくなってきちゃった。


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