66 / 205
66.おっさんと少年
しおりを挟む
「なぜ、魔法を教わりたいんだい?」
「俺、他のみんなより弱いから……」
その言葉で大体の事情は察した。
この国は獣人の国だ。
人間も排斥されるわけではないので住み着く人もいるだろう。
だけど圧倒的に獣人のほうが数が多い。
それは孤児院の子供たちも同じこと。
おそらく少年の周りはみんな獣人の子供なのだろう。
獣人は子供でも身体能力が高い。
おおかた他の子供たちと自分を比べて弱いから何かで補わなきゃとでも思っているのだろう。
でもおっさんは生まれ持った身体能力なんかよりも、植物図鑑を見て薬草を憶えたり老齢の院長先生を気遣って芋を洗ってあげたりするほうが大事なことだと思うけどね。
まあ適当に着火の魔法でも教えてやれば気が済むだろう。
「いいよ。おっさんが魔法を教えてあげるよ」
「ホントか!?」
「ああ、対価は今日の夕ご飯奢ってくれるだけでいいから」
「おっさん、子供に見返りを求めて恥ずかしくねーのかよ……」
おっさんは今日の晩御飯を手に入れた。
少年は名前をカールといい、今年で11歳になるのだという。
おっさんもそんな名前のスナック菓子が好きだったよ。
今はもう食べることができないけどね。
神のスマホで確認したけどお菓子を出せる神器は存在しないようだ。
あったらすぐに飛んで行って神酒を対価にお菓子大人買いしてたんだけどな。
「いいかねカール君」
「なんだよおっさん」
「君、人にものを教わる態度じゃないね。俺のことは先生と呼ぶように」
「わ、わかったよお……先生」
「よろしい」
俺は魔法の基礎を説明していった。
初級魔法を使うことは神樹の実を使わなくても実はそれほど難しくない。
魔力を使って空中に単純な記号を描くだけだ。
俺はまずやってみせる。
丸描いてチョンって感じの記号を空中に魔力で描く。
俺の指先に小さな火が灯る。
俺のは少しアレンジしているので青い火だが、普通の赤い火は本当に単純な記号なので魔力操作が得意では無い人でも頑張ればできるはずだ。
俺は神巻きタバコを咥え、指先の火に近づけて着火する。
「ふー、とまあこんな感じ」
「わかんね」
だろうね。
魔力を感じ取る感覚が鈍い人には空中に描かれた魔力の記号なんて分からない。
カールには何の前兆もなく俺の指先から火が出たように感じられたはずだ。
そもそも俺のように魔力が目に見えるような感覚を持っているほうが珍しいことなので、普通は魔法陣を大体の感覚で描く。
だからこそ魔法の上手い下手があるわけだ。
初級の魔法が出来ない人はよっぽどだけどね。
「いいかね、これが着火の記号だよ」
「へー、こんなのが」
俺は地面に着火の記号を描いてカールに憶えさせる。
「ようはこの記号を空中に魔力で描くことができれば着火の魔法が発動するわけだ。いいかね」
「魔法ってそういうものなんだ」
「まあ簡単そうに見えて結構難しいと思う。やってみて」
「わかった」
カールは人差し指をじっと見つめてぐっと力む。
うーん、全く魔力を感じない。
というか魔力がどんなものかもピンと来てない感じだ。
まずは魔力というものを身体で体感してもらったほうがいいかもな。
「カール、魔力っていうのは力んでも出てくるものじゃない」
「じゃあどうしたらいいんだよ」
「たぶん口で言っても分からないだろう。魔力っていうのは生まれてこのかた動かしたことのない手のようなものなんだ。手の動かし方なんて説明できないだろう?」
「そうだな」
「だからまずは俺がカールの魔力を少しだけ触ってみる。そうしたら、魔力っていうのはここにあったのかっていうのが分かるから」
「なんだか分からないけどそんなことができるなら頼むよ」
俺は頷き、カールの魔力を探る。
魔力っていうのは血液のように決まった臓器で作られるようなものではない。
感覚で言うのなら魂から生えた触手から滴る粘液のようなものだ。
その魂から生えた触手によって、空中に粘液で魔法陣を描くわけだ。
俺の魂の触手によって、カールの魂の触手に触れる。
カールはビクリと震えた。
「な、なんだこれ」
「わかったかい?」
「あ、ああ」
カールはゆるゆるとだが、魔力を動かして見せた。
やはり、その存在を感じることができれば人は不思議と魔力を操る方法を察する。
カールは不恰好ながらも自分の魔力を使って空中に着火の魔法陣を描いてみせた。
ボボボボという不安定な火がカールの指先に生まれる。
これで一応カールも魔法を使えるようになったわけだ。
「成功だね。1食分の教導は終了しまーす」
「え?これで終わり?」
「夕食1食じゃこんなものでしょ。言っとくけど他で教われば銀貨が飛ぶから。おっさんはぼったくりなんてしてないから」
「そ、そっか……」
まあ可哀想だけど本当の話だ。
こんな子供騙しみたいな魔法を教えるだけで銀貨数枚取るところも珍しくない。
世知辛い世の中やね。
「おっさん!」
「今度はなに」
おっさんは今大変眠いんだ。
昨日はギンコさんに朝までじっくりマッサージしてしまったから。
大人のマッサージは体力を使うんだよ。
いかに強化人間のおっさんであっても眠気には勝てないからね。
「この依頼、一緒に受けてくれ!」
「ん?どれどれ?」
カールが持ってきた依頼書には、オークの討伐とあった。
Dランク飛ばしてCランクの依頼じゃないか。
こんなのおっさんとカールにはまだ早いよ。
「ダメ」
「なんでだよ!!」
「いや、明らかに力不足でしょ」
「そんなことないって、だって孤児院の友達がこの前オークを狩ったって言ってたんだ!」
「たぶん嘘じゃないかな」
「本当だって、オークの牙だって言ってこんなでかい牙を持ってたんだ!」
カールは40センチくらいの長さを手で表す。
オークってそんな大きな牙だったかな。
オークはたしかに2足歩行の猪みたいな魔物だけど、牙はそれほど発達している印象が無い。
どちらかといえば腕の筋肉のほうがゴリラのように発達していた記憶があるな。
どうにもカールの友達の話は嘘臭い。
だけどこの年代の子供に正論で諭したところで分かってもらえるかな。
一人でオークを倒しに行ったりしたら大変なことになる。
しょうがない、本物のオークを見るだけ見せてあげるか。
「俺、他のみんなより弱いから……」
その言葉で大体の事情は察した。
この国は獣人の国だ。
人間も排斥されるわけではないので住み着く人もいるだろう。
だけど圧倒的に獣人のほうが数が多い。
それは孤児院の子供たちも同じこと。
おそらく少年の周りはみんな獣人の子供なのだろう。
獣人は子供でも身体能力が高い。
おおかた他の子供たちと自分を比べて弱いから何かで補わなきゃとでも思っているのだろう。
でもおっさんは生まれ持った身体能力なんかよりも、植物図鑑を見て薬草を憶えたり老齢の院長先生を気遣って芋を洗ってあげたりするほうが大事なことだと思うけどね。
まあ適当に着火の魔法でも教えてやれば気が済むだろう。
「いいよ。おっさんが魔法を教えてあげるよ」
「ホントか!?」
「ああ、対価は今日の夕ご飯奢ってくれるだけでいいから」
「おっさん、子供に見返りを求めて恥ずかしくねーのかよ……」
おっさんは今日の晩御飯を手に入れた。
少年は名前をカールといい、今年で11歳になるのだという。
おっさんもそんな名前のスナック菓子が好きだったよ。
今はもう食べることができないけどね。
神のスマホで確認したけどお菓子を出せる神器は存在しないようだ。
あったらすぐに飛んで行って神酒を対価にお菓子大人買いしてたんだけどな。
「いいかねカール君」
「なんだよおっさん」
「君、人にものを教わる態度じゃないね。俺のことは先生と呼ぶように」
「わ、わかったよお……先生」
「よろしい」
俺は魔法の基礎を説明していった。
初級魔法を使うことは神樹の実を使わなくても実はそれほど難しくない。
魔力を使って空中に単純な記号を描くだけだ。
俺はまずやってみせる。
丸描いてチョンって感じの記号を空中に魔力で描く。
俺の指先に小さな火が灯る。
俺のは少しアレンジしているので青い火だが、普通の赤い火は本当に単純な記号なので魔力操作が得意では無い人でも頑張ればできるはずだ。
俺は神巻きタバコを咥え、指先の火に近づけて着火する。
「ふー、とまあこんな感じ」
「わかんね」
だろうね。
魔力を感じ取る感覚が鈍い人には空中に描かれた魔力の記号なんて分からない。
カールには何の前兆もなく俺の指先から火が出たように感じられたはずだ。
そもそも俺のように魔力が目に見えるような感覚を持っているほうが珍しいことなので、普通は魔法陣を大体の感覚で描く。
だからこそ魔法の上手い下手があるわけだ。
初級の魔法が出来ない人はよっぽどだけどね。
「いいかね、これが着火の記号だよ」
「へー、こんなのが」
俺は地面に着火の記号を描いてカールに憶えさせる。
「ようはこの記号を空中に魔力で描くことができれば着火の魔法が発動するわけだ。いいかね」
「魔法ってそういうものなんだ」
「まあ簡単そうに見えて結構難しいと思う。やってみて」
「わかった」
カールは人差し指をじっと見つめてぐっと力む。
うーん、全く魔力を感じない。
というか魔力がどんなものかもピンと来てない感じだ。
まずは魔力というものを身体で体感してもらったほうがいいかもな。
「カール、魔力っていうのは力んでも出てくるものじゃない」
「じゃあどうしたらいいんだよ」
「たぶん口で言っても分からないだろう。魔力っていうのは生まれてこのかた動かしたことのない手のようなものなんだ。手の動かし方なんて説明できないだろう?」
「そうだな」
「だからまずは俺がカールの魔力を少しだけ触ってみる。そうしたら、魔力っていうのはここにあったのかっていうのが分かるから」
「なんだか分からないけどそんなことができるなら頼むよ」
俺は頷き、カールの魔力を探る。
魔力っていうのは血液のように決まった臓器で作られるようなものではない。
感覚で言うのなら魂から生えた触手から滴る粘液のようなものだ。
その魂から生えた触手によって、空中に粘液で魔法陣を描くわけだ。
俺の魂の触手によって、カールの魂の触手に触れる。
カールはビクリと震えた。
「な、なんだこれ」
「わかったかい?」
「あ、ああ」
カールはゆるゆるとだが、魔力を動かして見せた。
やはり、その存在を感じることができれば人は不思議と魔力を操る方法を察する。
カールは不恰好ながらも自分の魔力を使って空中に着火の魔法陣を描いてみせた。
ボボボボという不安定な火がカールの指先に生まれる。
これで一応カールも魔法を使えるようになったわけだ。
「成功だね。1食分の教導は終了しまーす」
「え?これで終わり?」
「夕食1食じゃこんなものでしょ。言っとくけど他で教われば銀貨が飛ぶから。おっさんはぼったくりなんてしてないから」
「そ、そっか……」
まあ可哀想だけど本当の話だ。
こんな子供騙しみたいな魔法を教えるだけで銀貨数枚取るところも珍しくない。
世知辛い世の中やね。
「おっさん!」
「今度はなに」
おっさんは今大変眠いんだ。
昨日はギンコさんに朝までじっくりマッサージしてしまったから。
大人のマッサージは体力を使うんだよ。
いかに強化人間のおっさんであっても眠気には勝てないからね。
「この依頼、一緒に受けてくれ!」
「ん?どれどれ?」
カールが持ってきた依頼書には、オークの討伐とあった。
Dランク飛ばしてCランクの依頼じゃないか。
こんなのおっさんとカールにはまだ早いよ。
「ダメ」
「なんでだよ!!」
「いや、明らかに力不足でしょ」
「そんなことないって、だって孤児院の友達がこの前オークを狩ったって言ってたんだ!」
「たぶん嘘じゃないかな」
「本当だって、オークの牙だって言ってこんなでかい牙を持ってたんだ!」
カールは40センチくらいの長さを手で表す。
オークってそんな大きな牙だったかな。
オークはたしかに2足歩行の猪みたいな魔物だけど、牙はそれほど発達している印象が無い。
どちらかといえば腕の筋肉のほうがゴリラのように発達していた記憶があるな。
どうにもカールの友達の話は嘘臭い。
だけどこの年代の子供に正論で諭したところで分かってもらえるかな。
一人でオークを倒しに行ったりしたら大変なことになる。
しょうがない、本物のオークを見るだけ見せてあげるか。
45
お気に入りに追加
8,850
あなたにおすすめの小説
異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜
ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった!
謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。
教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。
勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。
元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。
力を持っていても順応できるかは話が別だった。
クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。
※ご注意※
初投稿、試作、マイペース進行となります。
作品名は今後改題する可能性があります。
世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。
旅に出るまで(序章)がすごく長いです。
他サイトでも同作を投稿しています。
更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。
【旧作改訂】イレギュラー召喚で神器をもらえませんでした。だけど、勝手に付いてきたスキルがまずまず強力です
とみっしぇる
ファンタジー
途中で止まった作品のリメイクです。
底辺冒険者サーシャは、薬草採取中に『神器』を持つ日本人と共に危険な国に召喚される。
サーシャには神器が見当たらない。増えていたのは用途不明なスキルがひとつだけ。絶体絶命のピンチを切り抜けて、生き延びられるのか。
生産性厨が異世界で国造り~授けられた能力は手から何でも出せる能力でした~
天樹 一翔
ファンタジー
対向車線からトラックが飛び出してきた。
特に恐怖を感じることも無く、死んだなと。
想像したものを具現化できたら、もっと生産性があがるのにな。あと、女の子でも作って童貞捨てたい。いや。それは流石に生の女の子がいいか。我ながら少しサイコ臭して怖いこと言ったな――。
手から何でも出せるスキルで国を造ったり、無双したりなどの、異世界転生のありがちファンタジー作品です。
王国? 人外の軍勢? 魔王? なんでも来いよ! 力でねじ伏せてやるっ!
感想やお気に入り、しおり等々頂けると幸甚です!
モチベーション上がりますので是非よろしくお願い致します♪
また、本作品は小説家になろう、エブリスタ、カクヨムで公開している作品となります。
小説家になろうの閲覧数は170万。
エブリスタの閲覧数は240万。また、毎日トレンドランキング、ファンタジーランキング30位以内に入っております!
カクヨムの閲覧数は45万。
日頃から読んでくださる方に感謝です!
強奪系触手おじさん
兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。
月が導く異世界道中extra
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
こちらは月が導く異世界道中番外編になります。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
異世界でネットショッピングをして商いをしました。
ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。
それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。
これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ)
よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m
hotランキング23位(18日11時時点)
本当にありがとうございます
誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる