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65.少年の頼みごと
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少年は生意気そうな顔で俺の持っている薬草を睨みつける。
少年の持っている籠にはたくさんの薬草が入っており、他の雑草は1本も混ざっていない。
他の低ランク冒険者たちとは違って完全に薬草の種類を記憶しているようだ。
幼いながらになかなか有望じゃないか。
「なんだよ、おっさん。いい歳こいて薬草採取なんてやってんじゃねーぞ。大人なら薬草の1本くらいは子供に譲れよ」
「大人と言っても俺は今日Eランク冒険者になったばかりなんだよ。君こそ先輩なら後輩に薬草の1本も譲ったらどうだ」
「おっさんさぁ。その歳でやっとEランクって色々やばいぞ。俺でも半年前からEランクだってのに」
「まあ人には色々と事情があるんだよ」
「ふーん、まあいいや。しょうがないからその薬草はおっさんにくれてやるよ」
「いや、元から俺が採取したものだから……」
少年は籠を背負いなおしてまた次の薬草に向かっていった。
名前も聞いてなかったな。
まあ同じ町で冒険者をしていればどこかでまた会うだろう。
俺も薬草採取を続けよう。
薬草採取のポイントとしては、薬草の匂いだ。
神巻きタバコによって増幅された嗅覚によって、俺には微細な匂いであっても感じ取ることができる。
まず植物図鑑に書かれていた薬草を1本見るける。
あとはその匂いを覚え、同じ匂いがする場所を探すだけでいい。
薬草になるような植物というのは、どれも特徴的な匂いがするものだ。
今回依頼が出されている薬草も多分にもれず分かりやすい匂いがあった。
後は簡単だ。
他の低ランク冒険者たちが非効率的な採取を続ける中俺は的確に薬草を採取し、30分ほどで依頼書1枚分の薬草が集まった。
さて、ゴブリンでも狩ろうかな。
そういうのおじさん、得意だから。
「さすがですね、シゲノブさん。あと少しでDランクですよ」
熊獣人の受付、ガルマさんとも最近では結構打ち解けてきた。
冒険者と受付の馴れ合いは良くないが、世間話をするくらいは構わないだろう。
「私のような歳ではいくら早くDランクに上がろうとそれほど誇れないですよ」
「いえいえ、そんなことは無いですよ。ランクアップというのはギルドへの貢献度によって決まると我々は口が酸っぱくなるほど申しているんですかね。なかなかそれを理解している冒険者の方というのは少ないのですよ。強い魔物を狩れれば冒険者ランクが上がると思っているんですよ。そのために無謀にも格上の魔物に挑んで亡くなる冒険者の方が後を絶ちません」
おそらく普段から冒険者への色々な想いが溜まっていたのだろう。
ガルマさんは長々と愚痴をこぼした後に、少し恥ずかしそうに咳払いをした。
「失礼しました」
「いえ、ランクを早く上げるには身の丈に合った依頼をコツコツ地道にこなしていくのが大事だと勉強になりました」
「頑張ってください。この依頼がおすすめですよ。ギルドのやっている奉仕事業の依頼でして、報酬は安いのですがギルドへの貢献度は高めになっています」
ガルマさんが教えてくれたのは、孤児院の塀の修理の依頼だった。
なるほど、冒険者ギルドとういうのはそういった社会貢献事業みたいなのもやっているんだな。
俺のような薄汚れた人間は社会貢献事業と聞くと金の匂いを感じてしまうのだが、ここは異世界だから大丈夫だよね。
「これ受けます」
「かしこまりました」
「あ……」
「あ……」
孤児院の塀の修理に行くと、そこには昨日薬草の生え場で会った生意気な少年が芋を洗っていた。
孤児院の子だったのか。
それであんな幼いうちから冒険者なんかやっているんだな。
「おっさん何の用だよ」
「塀の修理の依頼を受けてきた」
「そうか。あんたが受けてくれたのか。でも壁の修理なんかできんのか?」
「あんまりおっさんを舐めるんじゃない。俺はレンガ職人の親方に弟子に誘われたこともある男だ」
「へー。あの親方、あんまり人のこと認めねえのに。やるじゃんおっさん」
そんなことで威張るなとかまた生意気な口を叩くかと思ったが、少年の口から出たのは素直な褒め言葉だった。
まあ親方のことを知っていれば、認められるのが難しいということも分かるか。
なんか調子が狂うな。
俺は塀の修理に入る。
孤児院を囲んでいる塀は普通の土壁のようだが、ボロボロであちこちが崩れてしまっている。
子供が近くで遊ぶのは危険だろう。
しかし土壁は俺の一番得意の魔法だ。
まあ魔法はちょこちょこしか使わないつもりだが、レンガ作りで学んだ粘土の扱いを生かせればそれなりに立派な塀が作れるだろう。
俺は孤児院長のお祖父さんが用意した粘土質の土に水と植物の繊維を混ぜて捏ねていく。
あとはレンガを作るときと同じだ。
崩れた場所に塗っていくだけ。
水分が満遍なく回るように混ぜ、空気が入らないように塗っていく。
しかしレンガは木枠があったけれど、土壁には無い。
鉄筋なども入っていないので強度にも問題があるように思える。
しょうがないので少しだけ魔法を使って仕上げよう。
俺は塗った土壁から水分を完全に抜き、押し固めていく。
こんなものか。
結局土壁の魔法で作ったみたいになってしまった。
「なあおっさん……」
「ん?もう芋は洗い終わったのかい?」
「ああ、終わった。なあ、おっさんって魔法が使えるのか?」
少年は壁を塗る俺の傍らに近寄ってきて、神妙な顔でそんなことを聞いてきた。
生意気な少年らしくないしおらしい顔じゃないか。
「使えるけど、どうしたんだい?」
「お、俺にさ、魔法を教えてくれねえか?」
神妙な顔をしていたと思ったら、頼みごとだったのか。
少年の持っている籠にはたくさんの薬草が入っており、他の雑草は1本も混ざっていない。
他の低ランク冒険者たちとは違って完全に薬草の種類を記憶しているようだ。
幼いながらになかなか有望じゃないか。
「なんだよ、おっさん。いい歳こいて薬草採取なんてやってんじゃねーぞ。大人なら薬草の1本くらいは子供に譲れよ」
「大人と言っても俺は今日Eランク冒険者になったばかりなんだよ。君こそ先輩なら後輩に薬草の1本も譲ったらどうだ」
「おっさんさぁ。その歳でやっとEランクって色々やばいぞ。俺でも半年前からEランクだってのに」
「まあ人には色々と事情があるんだよ」
「ふーん、まあいいや。しょうがないからその薬草はおっさんにくれてやるよ」
「いや、元から俺が採取したものだから……」
少年は籠を背負いなおしてまた次の薬草に向かっていった。
名前も聞いてなかったな。
まあ同じ町で冒険者をしていればどこかでまた会うだろう。
俺も薬草採取を続けよう。
薬草採取のポイントとしては、薬草の匂いだ。
神巻きタバコによって増幅された嗅覚によって、俺には微細な匂いであっても感じ取ることができる。
まず植物図鑑に書かれていた薬草を1本見るける。
あとはその匂いを覚え、同じ匂いがする場所を探すだけでいい。
薬草になるような植物というのは、どれも特徴的な匂いがするものだ。
今回依頼が出されている薬草も多分にもれず分かりやすい匂いがあった。
後は簡単だ。
他の低ランク冒険者たちが非効率的な採取を続ける中俺は的確に薬草を採取し、30分ほどで依頼書1枚分の薬草が集まった。
さて、ゴブリンでも狩ろうかな。
そういうのおじさん、得意だから。
「さすがですね、シゲノブさん。あと少しでDランクですよ」
熊獣人の受付、ガルマさんとも最近では結構打ち解けてきた。
冒険者と受付の馴れ合いは良くないが、世間話をするくらいは構わないだろう。
「私のような歳ではいくら早くDランクに上がろうとそれほど誇れないですよ」
「いえいえ、そんなことは無いですよ。ランクアップというのはギルドへの貢献度によって決まると我々は口が酸っぱくなるほど申しているんですかね。なかなかそれを理解している冒険者の方というのは少ないのですよ。強い魔物を狩れれば冒険者ランクが上がると思っているんですよ。そのために無謀にも格上の魔物に挑んで亡くなる冒険者の方が後を絶ちません」
おそらく普段から冒険者への色々な想いが溜まっていたのだろう。
ガルマさんは長々と愚痴をこぼした後に、少し恥ずかしそうに咳払いをした。
「失礼しました」
「いえ、ランクを早く上げるには身の丈に合った依頼をコツコツ地道にこなしていくのが大事だと勉強になりました」
「頑張ってください。この依頼がおすすめですよ。ギルドのやっている奉仕事業の依頼でして、報酬は安いのですがギルドへの貢献度は高めになっています」
ガルマさんが教えてくれたのは、孤児院の塀の修理の依頼だった。
なるほど、冒険者ギルドとういうのはそういった社会貢献事業みたいなのもやっているんだな。
俺のような薄汚れた人間は社会貢献事業と聞くと金の匂いを感じてしまうのだが、ここは異世界だから大丈夫だよね。
「これ受けます」
「かしこまりました」
「あ……」
「あ……」
孤児院の塀の修理に行くと、そこには昨日薬草の生え場で会った生意気な少年が芋を洗っていた。
孤児院の子だったのか。
それであんな幼いうちから冒険者なんかやっているんだな。
「おっさん何の用だよ」
「塀の修理の依頼を受けてきた」
「そうか。あんたが受けてくれたのか。でも壁の修理なんかできんのか?」
「あんまりおっさんを舐めるんじゃない。俺はレンガ職人の親方に弟子に誘われたこともある男だ」
「へー。あの親方、あんまり人のこと認めねえのに。やるじゃんおっさん」
そんなことで威張るなとかまた生意気な口を叩くかと思ったが、少年の口から出たのは素直な褒め言葉だった。
まあ親方のことを知っていれば、認められるのが難しいということも分かるか。
なんか調子が狂うな。
俺は塀の修理に入る。
孤児院を囲んでいる塀は普通の土壁のようだが、ボロボロであちこちが崩れてしまっている。
子供が近くで遊ぶのは危険だろう。
しかし土壁は俺の一番得意の魔法だ。
まあ魔法はちょこちょこしか使わないつもりだが、レンガ作りで学んだ粘土の扱いを生かせればそれなりに立派な塀が作れるだろう。
俺は孤児院長のお祖父さんが用意した粘土質の土に水と植物の繊維を混ぜて捏ねていく。
あとはレンガを作るときと同じだ。
崩れた場所に塗っていくだけ。
水分が満遍なく回るように混ぜ、空気が入らないように塗っていく。
しかしレンガは木枠があったけれど、土壁には無い。
鉄筋なども入っていないので強度にも問題があるように思える。
しょうがないので少しだけ魔法を使って仕上げよう。
俺は塗った土壁から水分を完全に抜き、押し固めていく。
こんなものか。
結局土壁の魔法で作ったみたいになってしまった。
「なあおっさん……」
「ん?もう芋は洗い終わったのかい?」
「ああ、終わった。なあ、おっさんって魔法が使えるのか?」
少年は壁を塗る俺の傍らに近寄ってきて、神妙な顔でそんなことを聞いてきた。
生意気な少年らしくないしおらしい顔じゃないか。
「使えるけど、どうしたんだい?」
「お、俺にさ、魔法を教えてくれねえか?」
神妙な顔をしていたと思ったら、頼みごとだったのか。
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