おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉

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64.昇級するおっさん

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 今日もギンコさんをマッサージして、お返しのマッサージを受けてから冒険者ギルドに向かう。
 今日はどんな依頼を受けようか。
 冒険者としての暮らしは、男爵領の暮らしとは全く違って新鮮だ。
 男爵領はの人たちはみんな良い人で、全体的にのんびりとした時間が流れているように感じる。
 連合国の港町は男爵領の港町とは比べ物にならない程大きな町で、色々な人が暮らしている。
 男爵領とは正反対の刺激的な毎日だ。
 冒険者がいてケモ耳がいてビキニアーマーがいて、これが俺の求めていた異世界生活なんだと思う。
 ちなみにビキニアーマーはあんまりエロくなかった。
 着ていた人がビア樽みたいなおばさんだったから。
 まあ強そうではあるよね。
 胸の先端にはトゲが生えていて、刺さったらすごく痛そうだ。
 
「なによ。あたしの胸になんか付いてるの?」

「いえ……」

 触ったら痛そうとは言えないよね。
 気を取り直して依頼を探そう。
 お、このレンガ製造の手伝いなんて良さそうだ。
 壁を作るのは得意だから、レンガも同じようなものだろう。
 これに決めた。



「馬鹿野郎!レンガ舐めてんじゃねえぞ!!」

「はい、すみません!!」

 壁を作るのが得意だからレンガ製造も簡単だろうと思ったのだが、そうそううまくはいかない。
 レンガ一つ作るのにも職人がおり、そんな人たちが何十年も試行錯誤しながら一つのレンガを作り出しているのだ。
 俺のようなにわか仕込みの土コネ遊びが楽勝だなんだと言って作れるようなものではなかった。

「いいか、もう一度良く見てろ。お前は目がいい。よく見て真似りゃそこそこ良いもんが作れるだろうぜ。だが次腑抜けたレンガ作りやがったら今日は帰れ。いいな?」

「はい、わかりました」

 なんとかもう一度チャンスをもらえたようだ。
 次こそは親方に失望されないレンガを作ってみせる。

「いいか、この粘土を木枠に入れるときに空気をなるべく入れないようにしろ。空気が入ると乾かしたときに割れる。この棒でこのあたりを押して木枠の隅の空気を抜き、最後に表面を滑らかに均す。これだけだ。やってみろ」

「はい!」

 俺は神巻きタバコによって増幅されたすべての感覚を総動員して、親方の作業をトレースする。
 さっきは恥ずかしながら、レンガを作るという作業に多少の侮りがあった。
 簡単な作業だと思って舐めてかかったのだ。
 今度は一部たりともそんな気持ちは無い。
 全身全霊を込めて、割れないいいレンガを作り上げることだけを考えて手を動かす。
 すべての感覚を総動員することによって見えてくるものというものもある。
 粘土もマッサージと同じだということだ。
 指先から伝わってくる情報を精査して、水分の多い場所少ない場所、空気が入ってしまっている場所を感じ取る。
 指先に魔力を集中させ、微細な振動を与えてやればそれらが均等になる。
 後は鏝を使って表面を綺麗にしてやれば、完璧なレンガの完成だ。

「親方、どうですか」

「悔しいが、俺の作ったレンガと同じくらいいいレンガだ。お前、俺の弟子にならねえか?」

「すみません。私は冒険者なので……」

「そうか。すまねえな。野暮なことを言っちまったぜ」

 それから俺と親方は無言でレンガを作りつづけた。
 男同士にチャラチャラした世間話は必要ない。
 仕事をする時は無駄口を叩かない。
 親方の背中は最高にかっこいいと思った。

「また頼むぜ」

「はい」

 夕方まで作業し、親方に依頼達成のサインをいただいてギルドに戻る。
 当初の予定とは少し違ったけれど、いい依頼だったな。
 レンガ作りも学ぶことができたし。
 しかしそろそろ、冒険者っぽい仕事がしたい。
 ゴブリンの討伐とか、薬草採取とか、そういう仕事だ。
 まだ俺のランクではできないのだけどね。
 町の外に出る依頼はEランクからだ。
 まだ俺はFランク。
 早くランクよ上がれ。

「おめでとうございます。シゲノブさんは今日からEランクです」

 俺の祈りが通じたのか、熊獣人の受付にそう告げられる。
 これで俺も見習い冒険者を卒業して、駆け出し冒険者というわけだ。
 早速ゴブリンの討伐と薬草採取の依頼を受けるとしよう。




 薬草採取といっても、当然だがゲームのようにアイテムになって地面に落ちているわけではない。
 植物図鑑を記憶して、どの種類の草花が必要なのかを把握している必要がある。
 これがほとんどの低ランク冒険者にはできていない。
 そのために、適当な草を集めてその中に依頼にあった薬草が含まれていれば儲けものみたいな横着な依頼の受け方が横行しているらしい。
 ギルド職員も大変だ。
 そんな雑草ばかり持ってきたアホみたいな冒険者の相手もしなければならないなんて。
 薬草の採取ポイントに着くと、そんなアホみたいな低ランク冒険者たちが鬼のように草を毟り取っている。
 植物の1種類や2種類くらいは憶えられんかね。
 まあ生涯を薬草採取に費やすような冒険者はいないから、彼ら彼女らにとっては薬草なんてこれから使うことのない知識なのだろう。
 知識は邪魔になんてならないというのに、若いな。
 俺は必死の形相で草を毟る冒険者たちを尻目に、足元に生えていた薬草を摘み取った。
 
「おいおっさん、それは俺が目をつけていた薬草だぜ」

「いや君、それはさすがに言いがかりにも程があるよ」

 横暴すぎる言いがかりをつけてきたのはどんな輩かと振り返ってみれば、そこにいたのは10歳くらいの少年だった。


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