おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉

文字の大きさ
上 下
64 / 205

64.昇級するおっさん

しおりを挟む
 今日もギンコさんをマッサージして、お返しのマッサージを受けてから冒険者ギルドに向かう。
 今日はどんな依頼を受けようか。
 冒険者としての暮らしは、男爵領の暮らしとは全く違って新鮮だ。
 男爵領はの人たちはみんな良い人で、全体的にのんびりとした時間が流れているように感じる。
 連合国の港町は男爵領の港町とは比べ物にならない程大きな町で、色々な人が暮らしている。
 男爵領とは正反対の刺激的な毎日だ。
 冒険者がいてケモ耳がいてビキニアーマーがいて、これが俺の求めていた異世界生活なんだと思う。
 ちなみにビキニアーマーはあんまりエロくなかった。
 着ていた人がビア樽みたいなおばさんだったから。
 まあ強そうではあるよね。
 胸の先端にはトゲが生えていて、刺さったらすごく痛そうだ。
 
「なによ。あたしの胸になんか付いてるの?」

「いえ……」

 触ったら痛そうとは言えないよね。
 気を取り直して依頼を探そう。
 お、このレンガ製造の手伝いなんて良さそうだ。
 壁を作るのは得意だから、レンガも同じようなものだろう。
 これに決めた。



「馬鹿野郎!レンガ舐めてんじゃねえぞ!!」

「はい、すみません!!」

 壁を作るのが得意だからレンガ製造も簡単だろうと思ったのだが、そうそううまくはいかない。
 レンガ一つ作るのにも職人がおり、そんな人たちが何十年も試行錯誤しながら一つのレンガを作り出しているのだ。
 俺のようなにわか仕込みの土コネ遊びが楽勝だなんだと言って作れるようなものではなかった。

「いいか、もう一度良く見てろ。お前は目がいい。よく見て真似りゃそこそこ良いもんが作れるだろうぜ。だが次腑抜けたレンガ作りやがったら今日は帰れ。いいな?」

「はい、わかりました」

 なんとかもう一度チャンスをもらえたようだ。
 次こそは親方に失望されないレンガを作ってみせる。

「いいか、この粘土を木枠に入れるときに空気をなるべく入れないようにしろ。空気が入ると乾かしたときに割れる。この棒でこのあたりを押して木枠の隅の空気を抜き、最後に表面を滑らかに均す。これだけだ。やってみろ」

「はい!」

 俺は神巻きタバコによって増幅されたすべての感覚を総動員して、親方の作業をトレースする。
 さっきは恥ずかしながら、レンガを作るという作業に多少の侮りがあった。
 簡単な作業だと思って舐めてかかったのだ。
 今度は一部たりともそんな気持ちは無い。
 全身全霊を込めて、割れないいいレンガを作り上げることだけを考えて手を動かす。
 すべての感覚を総動員することによって見えてくるものというものもある。
 粘土もマッサージと同じだということだ。
 指先から伝わってくる情報を精査して、水分の多い場所少ない場所、空気が入ってしまっている場所を感じ取る。
 指先に魔力を集中させ、微細な振動を与えてやればそれらが均等になる。
 後は鏝を使って表面を綺麗にしてやれば、完璧なレンガの完成だ。

「親方、どうですか」

「悔しいが、俺の作ったレンガと同じくらいいいレンガだ。お前、俺の弟子にならねえか?」

「すみません。私は冒険者なので……」

「そうか。すまねえな。野暮なことを言っちまったぜ」

 それから俺と親方は無言でレンガを作りつづけた。
 男同士にチャラチャラした世間話は必要ない。
 仕事をする時は無駄口を叩かない。
 親方の背中は最高にかっこいいと思った。

「また頼むぜ」

「はい」

 夕方まで作業し、親方に依頼達成のサインをいただいてギルドに戻る。
 当初の予定とは少し違ったけれど、いい依頼だったな。
 レンガ作りも学ぶことができたし。
 しかしそろそろ、冒険者っぽい仕事がしたい。
 ゴブリンの討伐とか、薬草採取とか、そういう仕事だ。
 まだ俺のランクではできないのだけどね。
 町の外に出る依頼はEランクからだ。
 まだ俺はFランク。
 早くランクよ上がれ。

「おめでとうございます。シゲノブさんは今日からEランクです」

 俺の祈りが通じたのか、熊獣人の受付にそう告げられる。
 これで俺も見習い冒険者を卒業して、駆け出し冒険者というわけだ。
 早速ゴブリンの討伐と薬草採取の依頼を受けるとしよう。




 薬草採取といっても、当然だがゲームのようにアイテムになって地面に落ちているわけではない。
 植物図鑑を記憶して、どの種類の草花が必要なのかを把握している必要がある。
 これがほとんどの低ランク冒険者にはできていない。
 そのために、適当な草を集めてその中に依頼にあった薬草が含まれていれば儲けものみたいな横着な依頼の受け方が横行しているらしい。
 ギルド職員も大変だ。
 そんな雑草ばかり持ってきたアホみたいな冒険者の相手もしなければならないなんて。
 薬草の採取ポイントに着くと、そんなアホみたいな低ランク冒険者たちが鬼のように草を毟り取っている。
 植物の1種類や2種類くらいは憶えられんかね。
 まあ生涯を薬草採取に費やすような冒険者はいないから、彼ら彼女らにとっては薬草なんてこれから使うことのない知識なのだろう。
 知識は邪魔になんてならないというのに、若いな。
 俺は必死の形相で草を毟る冒険者たちを尻目に、足元に生えていた薬草を摘み取った。
 
「おいおっさん、それは俺が目をつけていた薬草だぜ」

「いや君、それはさすがに言いがかりにも程があるよ」

 横暴すぎる言いがかりをつけてきたのはどんな輩かと振り返ってみれば、そこにいたのは10歳くらいの少年だった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

異世界で世界樹の精霊と呼ばれてます

空色蜻蛉
ファンタジー
普通の高校生の樹(いつき)は、勇者召喚された友人達に巻き込まれ、異世界へ。 勇者ではない一般人の樹は元の世界に返してくれと訴えるが。 事態は段々怪しい雲行きとなっていく。 実は、樹には自分自身も知らない秘密があった。 異世界の中心である世界樹、その世界樹を守護する、最高位の八枚の翅を持つ精霊だという秘密が。 【重要なお知らせ】 ※書籍2018/6/25発売。書籍化記念に第三部<過去編>を掲載しました。 ※本編第一部・第二部、2017年10月8日に完結済み。 ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされ、生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれてしまった、ベテランオッサン冒険者のお話。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

スキル【アイテムコピー】を駆使して金貨のお風呂に入りたい

兎屋亀吉
ファンタジー
異世界転生にあたって、神様から提示されたスキルは4つ。1.【剣術】2.【火魔法】3.【アイテムボックス】4.【アイテムコピー】。これらのスキルの中から、選ぶことのできるスキルは一つだけ。さて、僕は何を選ぶべきか。タイトルで答え出てた。

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

処理中です...