おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉

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57.海賊

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 海賊はそこそこ手練ぞろいだった。
 普通の貨物船とかだったら、ほとんどの場合なす術もなく荷物を奪われて最悪船員も奴隷として売られてしまうか殺されてしまうんじゃないかな。
 勇者もいることだし、この海賊団は早めに駆除することができて幸いだったかもしれない。
 
「くそっ、こいつ強えぞ!」

「当たり前よ、勇者なんだから。一人でやろうとしないで、みんなはあたしがあいつに一撃入れる隙を作ってくれればいいから」

「「「了解!」」」

 やけに足並みが揃っていると思えば、彼女自身がこの海賊団のまとめ役というわけか。
 いったい何がどうなればそんなことになるんだ。
 海賊たちは先程よりも、より連携を意識した動きで俺に攻撃を仕掛けてくる。
 大降りはせず、コンパクトな立ち回りでチクチクと四方八方から剣撃を放つ海賊たち。
 それに対して、俺は1人ずつ各個撃破していくことで対応する。
 正直言って彼らがいくら俺に攻撃を仕掛けようと俺にはほとんどダメージが入らないのだ。
 アンネローゼさんクラスの腕力と技量を持った人が名刀を用いて、やっと浅く傷付けることができるというレベルに俺の身体は人間離れした防御力になってしまっている。
 海賊の刃こぼれしたナマクラなんか素手で掴んでも痛くも痒くも無いのだ。

「ひっ、こいつ、剣を素手で……」

「はなせっ、はなせよぉ!!」

 そっちが離せばいいのに、武器を捨てる選択を取ることができなかった哀れな海賊は俺の前蹴りで甲板から蹴り出され海の藻屑となる。

「くそぅ、なんて野朗だ……」

「あんたたちっ、何してるの!早くあいつの動きを止めてよ!!」

 伊藤から激を飛ばされる海賊たちだが、どれだけ頑張ろうと俺に通用する武器すら無い状況ではどうにもならない。
 一人、また一人と海に蹴り出されていく。
 そしてついに最後の一人。

「ひっ、た、助けてくれぇ」

 俺はその懇願を聞き入れることなく、最後の一人となった海賊を蹴り出す。
 ぼちゃんっという海賊が海に落ちる音。
 
「ま、待って。話し合いましょう」

「何をかな?」

「そ、そうだ。あたしって結構可愛くない?おじさんに抱かれてあげてもいいよ。こんな可愛い女子高生を好きにできる機会なんて、向こうの世界だったら無いんだから」

「生憎とおじさんはシャワー浴びてる間に財布を盗られそうな子とは遊ばないことにしてるんだよ」

「へ、へー。そうなんだ……」

 俺の取り付く島もない返答に、冷や汗を垂らして焦る伊藤。
 キョロキョロと周囲を見回して、現状を打破できる手を探しているようだ。
 おじさんはもう無理だと思うけどな。
 結局何の策も思いつかなかったのか、ありったけの矢を放ってきた。
 弓のくせに連射も可能なのか、雨あられと飛んでくる矢。
 しかし連射するとさすがに威力が落ちるようで、1発1発はそれほど重くなかった。
 俺は剣をひゅんひゅんと振り回して自分に当たるものだけ叩き落していく。

「は、ははは、嘘でしょ……」

「嘘じゃないんだよ。自分でも化け物じみていると思っているけどね」

「はぁ、降参……」

 伊藤は手をあげて降参する。
 同じ日本人が相手ならば降参すれば命までは奪われないと思っているのか、その表情にはそこまで悲壮感が無い。
 確かに俺も無抵抗の日本人を殺したくはない。
 しかしそれも、今までの所業次第だろう。
 日本人だというだけで無条件に優遇するつもりは俺には無い。
 一度男爵に指示を仰いで、普通の海賊にするものと同じような対処をすることにしよう。





「海賊の対処は盗賊と概ね同じですね。殺すか捕らえて犯罪奴隷にするかです」

「なるほど。しかし奴隷にするにしても男爵領はルーガル王国から孤立してしまっていますから、売り先に困りますね。転移で他国に運んで売ってもいいですけど、そこまでして売りたいわけでもないですからね」

 俺と男爵は同じタイミングで捕らえられた海賊たちと勇者を見る。
 海賊たちは海に落としたけれど、全員生きていたので一応捕らえてきたのだ。
 海の男はしぶといな。

「ま、待ってくれよ。なあ、俺達あんたたちの役にたつから!」

「命だけは勘弁してくれよぉぉ」

「死にたくないよぉ」

「お、おじさん!同じ日本人でしょ!!」

 その同じ日本人を先に襲ってきたのは君でしょうが。
 おじさんだって許せることと許せないことがあるよ。
 俺が矢を防いでいなければ、男爵領警備隊に2人の死者が出ていたことは間違いないんだ。
 俺は古い考えの人間だから、女性には多少甘い。
 しかし彼女はダメだ。
 すでに甘いで助けられる範疇を越えている。
 償いが必要だ。

「ふむ、船員が欲しいですな。文句を言わず働く愚直な船員が」

「男爵?」

 男爵の言葉に俺は軽く驚く。
 男爵の言葉ではまるで、奴隷として男爵領で働かせると言っているようだ。
 海賊なんてやっていた奴等を働かせて大丈夫なのだろうか。

「獣人奴隷を解放したときに、大量に回収した隷属の首輪があったと思いますが」

「ああ、そういえばそんなものがありましたね。それを使ってこいつらを隷属させるのですね」

「はい。正直船に乗って海に出るのは領内の警備とは桁違いに危険です。一応特別手当は出していますが、今後任務として命令するのは大変心苦しい」

「言い方は悪いですけど、こいつらならたとえ死んでも惜しくないってわけですね」

「そういうことです」

 まあ犯罪奴隷の使い方なんてこんなものだろう。
 鉱山とか、船員とか、あとは戦争の最前線の肉壁など。
 これなら償いとしても十分だろう。
 こうして俺達は、船1隻と労働者を獲得したのだった。


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