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53.到着
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大きな船が何隻も停泊する巨大な港町。
ここはエルカザド連合国で一番大きな港、キムリアナだ。
元奴隷の獣人たち5000人ばかしを乗せた我らがビューティフルマリーベル号はやっと連合国に到着した。
別に交易に来たわけではないので降ろす荷物は他に無い。
甲板からタラップを降ろして獣人たちを降ろしていく。
男爵領では別に獣人たちの生産活動を禁止したりはしていなかったので、それなりに荷物を持った人も多い。
犬人族などの手先の器用な種族は特に荷物が多い。
荷物の少ない銀狼族と大荷物を抱えた犬人族があちこちで諍いを起こしているのを、男爵領警備隊の兵士が宥めている。
銀狼族と犬人族は前から思っていたが仲が悪すぎじゃないかね。
俺は銀狼族であるルークさんに聞いてみる。
「銀狼族と犬人族は姿形が似ていますからね。ライバル意識があるのではないでしょうか。身体能力的には銀狼族の方が優れていますが、犬人族のほうが手先が器用ですし魔力もあります。お互いがお互いにコンプレックスを抱きあっているのだと思います」
そういえば銀狼族は魔法があまり得意ではない種族だと以前聞いたことがあったな。
銀狼族はなんでも器用にこなす犬人族を羨み、犬人族は圧倒的な身体能力を持つ銀狼族を羨んでいるということか。
嫉妬というのは人間の感情の中でも結構根深いものの一種だからね。
部外者の俺がとやかく言うような問題ではないのかもしれない。
部族単体では付き合いやすい部類に入る人たちなのだ。
犬人族は話せば分かってくれるし、銀狼族は殴れば分かってくれる。
まあ個人差もあるけどね。
ルークさんのように理知的な銀狼族もいれば、肉体言語でしか分かってくれない犬人族もいる。
まあ諍いくらいは獣人の中では日常茶飯事だ。
人間もだけど。
対応は男爵領警備隊のみんなに任せて、俺はもう少し休憩をしていよう。
今朝から男爵をエルカザド連合国の首都まで送って、少し疲れているんだ。
男爵はアンネローゼさんの実家を通して、エルカザド連合国との密約交渉を行うらしい。
交渉の内容としては王国を滅ぼしても自分の領だけは安堵してもらうことや、その後の貿易のことについてなど。
こちらから差し出せるのは王国全土から解放した5000人の奴隷と元軍人の捕虜4名。
アンネローゼさんとウルリケさんは男爵と一緒に首都に向かったが、ルークさんとアマーリエは船に残っている。
5000人の奴隷も船からは降ろすが、港町に待機してもらう。
要は人質ということになる。
まあこちらの最低要求は通るんじゃないかな。
あとはどれだけの内容を引き出せるかが男爵の腕の見せ所だ。
男爵はそこまで欲張らないかもしれないけれど。
せいぜい相互安全保障条約くらいか。
それも連合国全土ではなく、男爵領とここの港町の。
男爵領に停泊した連合国の船の安全を保障する代わりに、この港町に停泊した男爵領の船の安全を保障する。
そのくらいだろうな。
それ以上は男爵の権限が小さすぎて対等の条約を結べない。
ただでさえ男爵は領民5000に満たない小領主だ。
普通なら交渉の席にすらつけない。
奴隷を解放して返す意思を示すことでやっと交渉のテーブルに座ってもらえるのだ。
あまり欲をかくとろくなことにはならないだろう。
男爵が欲をかきすぎるイメージができないので大丈夫だと思うが。
念のため虫型ゴーレムの映像を定期的に見ておくか。
アンネローゼさんとウルリケさんが一緒だから、男爵が無碍に扱われることは無いとは思うけど。
アンネローゼさんのご両親は娘が出世して少し変わってしまったようだから、少しだけ心配だ。
人質に銃口を突きつけるような意味を込めて、俺はこの港町を長時間離れるわけにはいかない。
向こうはなんとかトラブル無く済んで欲しいけどな。
結局、交渉ごとで俺にできることは多くない。
この町でぼーっとしているのが今の俺に与えられた役目だし。
「おじさん、暇なの?」
「おじさんは暇じゃないよ」
「暇でしょ。どう見ても」
そう決め付けて話しかけてくるのはアマーリエだ。
燃えるような赤髪を高い位置で括り、ポニーテールにしている。
勝気な金の瞳とマッチしていて非常に可愛らしい。
「おじさん暇ならさ、町の見物でも行かない?」
「町?何か面白いものでもあるの?」
「この町出身の人に聞いたんだけど、なんか港でとれた魚とか近隣の村から集められた野菜とかを売る朝市が開かれているんだって。すごい賑やかで美味しいものがたくさんあるって聞いたの」
「へー美味しいものか。おじさんも食べたいね。いいよ、行こうか」
「やった!!ルークも呼んでくるね!!」
アマーリエはピョンピョンと飛び跳ねるように甲板を走っていった。
船を降りる人でごった返す甲板を走るものだからぶつかりまくっている。
怒鳴られても気にしないメンタル、すごいと思う。
でも走るのはやめよう。
アマーリエは犬人族と銀狼族の喧嘩の仲裁をしていたルークさんの腕を掴んで無理矢理連れてきた。
俺は顔の前で手を合わせ、謝るジェスチャーをする。
ルークさんは気にしていないというように首を横に振って苦笑する。
いつものことなのかもな。
「おじさん、行こう!!」
「はぁ、降りる人の順番は守ろう」
「そんなの待ってたら朝市が終わっちゃうよ!!」
アマーリエは俺とルークさんの腕を引っぱると、助走をつけて甲板から港に向かってジャンプした。
俺はなんとなくこうなるだろうとは思っていたので、タイミングを合わせてジャンプする。
ルークさんも慣れているのか、引きずられることなく自分のタイミングで跳んだ。
「着地成功!」
着地成功じゃないから。
俺が別の神器を選んでいたら大怪我で済んでないからね。
俺はそのことをくどくどとアマーリエに説教する。
「もう、うるさいなおじさんは。他の人にはやらないって」
「絶対だよ」
「絶対絶対」
俺はもう一度溜息を吐き出した。
ここはエルカザド連合国で一番大きな港、キムリアナだ。
元奴隷の獣人たち5000人ばかしを乗せた我らがビューティフルマリーベル号はやっと連合国に到着した。
別に交易に来たわけではないので降ろす荷物は他に無い。
甲板からタラップを降ろして獣人たちを降ろしていく。
男爵領では別に獣人たちの生産活動を禁止したりはしていなかったので、それなりに荷物を持った人も多い。
犬人族などの手先の器用な種族は特に荷物が多い。
荷物の少ない銀狼族と大荷物を抱えた犬人族があちこちで諍いを起こしているのを、男爵領警備隊の兵士が宥めている。
銀狼族と犬人族は前から思っていたが仲が悪すぎじゃないかね。
俺は銀狼族であるルークさんに聞いてみる。
「銀狼族と犬人族は姿形が似ていますからね。ライバル意識があるのではないでしょうか。身体能力的には銀狼族の方が優れていますが、犬人族のほうが手先が器用ですし魔力もあります。お互いがお互いにコンプレックスを抱きあっているのだと思います」
そういえば銀狼族は魔法があまり得意ではない種族だと以前聞いたことがあったな。
銀狼族はなんでも器用にこなす犬人族を羨み、犬人族は圧倒的な身体能力を持つ銀狼族を羨んでいるということか。
嫉妬というのは人間の感情の中でも結構根深いものの一種だからね。
部外者の俺がとやかく言うような問題ではないのかもしれない。
部族単体では付き合いやすい部類に入る人たちなのだ。
犬人族は話せば分かってくれるし、銀狼族は殴れば分かってくれる。
まあ個人差もあるけどね。
ルークさんのように理知的な銀狼族もいれば、肉体言語でしか分かってくれない犬人族もいる。
まあ諍いくらいは獣人の中では日常茶飯事だ。
人間もだけど。
対応は男爵領警備隊のみんなに任せて、俺はもう少し休憩をしていよう。
今朝から男爵をエルカザド連合国の首都まで送って、少し疲れているんだ。
男爵はアンネローゼさんの実家を通して、エルカザド連合国との密約交渉を行うらしい。
交渉の内容としては王国を滅ぼしても自分の領だけは安堵してもらうことや、その後の貿易のことについてなど。
こちらから差し出せるのは王国全土から解放した5000人の奴隷と元軍人の捕虜4名。
アンネローゼさんとウルリケさんは男爵と一緒に首都に向かったが、ルークさんとアマーリエは船に残っている。
5000人の奴隷も船からは降ろすが、港町に待機してもらう。
要は人質ということになる。
まあこちらの最低要求は通るんじゃないかな。
あとはどれだけの内容を引き出せるかが男爵の腕の見せ所だ。
男爵はそこまで欲張らないかもしれないけれど。
せいぜい相互安全保障条約くらいか。
それも連合国全土ではなく、男爵領とここの港町の。
男爵領に停泊した連合国の船の安全を保障する代わりに、この港町に停泊した男爵領の船の安全を保障する。
そのくらいだろうな。
それ以上は男爵の権限が小さすぎて対等の条約を結べない。
ただでさえ男爵は領民5000に満たない小領主だ。
普通なら交渉の席にすらつけない。
奴隷を解放して返す意思を示すことでやっと交渉のテーブルに座ってもらえるのだ。
あまり欲をかくとろくなことにはならないだろう。
男爵が欲をかきすぎるイメージができないので大丈夫だと思うが。
念のため虫型ゴーレムの映像を定期的に見ておくか。
アンネローゼさんとウルリケさんが一緒だから、男爵が無碍に扱われることは無いとは思うけど。
アンネローゼさんのご両親は娘が出世して少し変わってしまったようだから、少しだけ心配だ。
人質に銃口を突きつけるような意味を込めて、俺はこの港町を長時間離れるわけにはいかない。
向こうはなんとかトラブル無く済んで欲しいけどな。
結局、交渉ごとで俺にできることは多くない。
この町でぼーっとしているのが今の俺に与えられた役目だし。
「おじさん、暇なの?」
「おじさんは暇じゃないよ」
「暇でしょ。どう見ても」
そう決め付けて話しかけてくるのはアマーリエだ。
燃えるような赤髪を高い位置で括り、ポニーテールにしている。
勝気な金の瞳とマッチしていて非常に可愛らしい。
「おじさん暇ならさ、町の見物でも行かない?」
「町?何か面白いものでもあるの?」
「この町出身の人に聞いたんだけど、なんか港でとれた魚とか近隣の村から集められた野菜とかを売る朝市が開かれているんだって。すごい賑やかで美味しいものがたくさんあるって聞いたの」
「へー美味しいものか。おじさんも食べたいね。いいよ、行こうか」
「やった!!ルークも呼んでくるね!!」
アマーリエはピョンピョンと飛び跳ねるように甲板を走っていった。
船を降りる人でごった返す甲板を走るものだからぶつかりまくっている。
怒鳴られても気にしないメンタル、すごいと思う。
でも走るのはやめよう。
アマーリエは犬人族と銀狼族の喧嘩の仲裁をしていたルークさんの腕を掴んで無理矢理連れてきた。
俺は顔の前で手を合わせ、謝るジェスチャーをする。
ルークさんは気にしていないというように首を横に振って苦笑する。
いつものことなのかもな。
「おじさん、行こう!!」
「はぁ、降りる人の順番は守ろう」
「そんなの待ってたら朝市が終わっちゃうよ!!」
アマーリエは俺とルークさんの腕を引っぱると、助走をつけて甲板から港に向かってジャンプした。
俺はなんとなくこうなるだろうとは思っていたので、タイミングを合わせてジャンプする。
ルークさんも慣れているのか、引きずられることなく自分のタイミングで跳んだ。
「着地成功!」
着地成功じゃないから。
俺が別の神器を選んでいたら大怪我で済んでないからね。
俺はそのことをくどくどとアマーリエに説教する。
「もう、うるさいなおじさんは。他の人にはやらないって」
「絶対だよ」
「絶対絶対」
俺はもう一度溜息を吐き出した。
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