おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉

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52.脳筋な獣人

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 ザブンザブンと白波を掻き分けて進むビューティフルマリーベル号。
 男爵領を出て今日で15日。
 あと1週間もしないうちに連合国領に到着するだろう。
 元奴隷の獣人たちも故郷が近くなり、そわそわとしてきた。
 血の気の多い獣人たちを20日以上も船の中に閉じ込めておけるか当初は不安だったが、定期的に襲ってくる海の魔物のおかげでいい感じにストレスが発散されている。
 それだけ異世界の海が危険だということだが、今この状況にあっては魔物に感謝だ。
 今日もシーサーペントの群れが俺達の船に襲い掛かる。
 あまり数が多いようなら兵士たちがガトリング砲で追い払うが、多少だったら獣人たちに任せるようにしている。
 襲い掛かってきたシーサーペントは4匹。
 甲板で武器を持って待ち構える獣人たちでも十分に対処できる数だ。
 
「うおぉぉぉっ、我ら銀狼族は卑しき犬人族には負けん!!」

「犬人族の諸君。頭の悪い銀狼族に負けるんじゃないぞ」

 銀狼族の戦法は力押し一辺倒だ。
 大剣を担いだものや大斧を持ったものが甲板から飛び降り、シーサーペントに群がる。
 シーサーペントの牙には毒があるというのに、あんなに何の工夫もせずに突っ込んだら死人が出そうだ。
 彼らが言うにはそれで死んだ奴は弱者なのだという。
 脳筋だなぁ。
 対して犬人族は個々の力は銀狼族に劣っているが、毒を防げる装備や水面を歩行することのできる魔道具、更には巧みな連携によってシーサーペントを翻弄している。
 彼らは手先が器用なので工作も得意だし、連携を強化するために戦闘訓練も集団で行っているのだ。
 これは完全に犬人族の勝ちに見えるな。
 しかし周りで見物している獣人たちは銀狼族の戦い方のほうが派手でかっこいいことから、そちらばかり応援している。
 差別とまではいかないが、犬人族のように頭脳や道具を上手く使って立ち回ることを卑怯と考えている人が獣人の中にはかなりの人数存在しているようだ。
 頭の固い年配層にそういう人が多いように思える。
 これだけ一緒に過ごしていると、連合国側の問題というのも見えてくるな。

「ぐわぁぁっ、か、噛まれたっ、た、助けてくれっ」

「腰抜けがぁ!お前たち、こいつは捨て置け!」

「そ、そんな……」

 はぁ。
 俺は重たい溜息を吐いてデッキチェアから腰を上げる。
 サイドテーブルに立てかけてあった男爵家の宝剣を手に取り、鞘から抜き放つ。
 魔力を吸わせなければ、以前の通りのよく切れるただの剣だ。
 だがひとたび魔力を吸わせれば刀身から燐光を放ち、分子間結合力消滅ブレードのような尋常ならざる切れ味を発揮する神器となる。
 なぜこんなことになったのかは分からない。
 男爵に聞いてもそんなことが起こったことは今まで無いようだし、俺以外が魔力を注いでも剣は魔力を受け付けなかった。
 元の神剣と呼ばれていた頃の能力とも違うようだし、もはや元神器が別の神器になったとしか表現できない。
 あの親シーサーペントを斬って以来剣が波動を伝えてくることも無いし、今まで使っていた剣の切れ味が格段によくなって良かったとでも思っておこう。
 俺は剣に小量の魔力を吸わせると、銀狼族たちが戦っているシーサーペントを一閃した。
 2匹のシーサーペントの首がズレ、海面にぼちゃりと落ちる。
 毒を食らった銀狼族の若者の口に神酒を流し込む。
 
「んぐっんぐっ、ごほっごほっ。はぁはぁ、た、助かりました……」

「なっ、し、シゲノブ殿。いくら我らの救世主たるあなたであっても、このような横槍は許されることではありませんぞ!!」

「いや、許されるとか許されないとかはこちらが決める話ですよ。あなたがたのガス抜きのために甲板での魔物との戦闘は許可しましたけど、死者が出るような戦闘を許可した覚えはありませんよ」

「我らの戦い方に難癖つけるおつもりですかな」

「難癖のひとつもつけたくなるでしょ。こんな雑魚相手に死人を出さないと倒せないような戦い方は。私が戦い方を教えて差し上げましょうか?」

 俺だって好きでこんな煽るようなことを言っているのではない。
 これがここ数ヶ月の間に学習した獣人との付き合い方なのだ。
 彼らと対話するときは丸く治めようと思っても不可能だ。
 だからこうして怒りを爆発させて、武力衝突にまで発展させなければならない。
 獣人は武力衝突の結果以外の治まり方にはあまり納得を示してくれない。
 要は一発殴らないと分かってくれないのだ。
 ホント、脳筋は困ったものだ。

「我らとてそこまで言われて黙ってはおれませぬぞ。この身朽ち果てようとも、一矢報いて果てるのみ!!皆の者、かかれぇ!!」

「「「うぉぉぉぉっ!!」」」

 ここで魔法などで蹴散らそうものならあとから蒸し返してグチグチ粘着されることは過去の経験から分かっている。
 この人たちを従えるには、単純な腕力を示さなければならない。
 俺は剣を鞘に収め、拳を握り締めた。

「うぉぉぉっ、今日こそ一矢報いてやるぞぃ!!」

「はぁ、そのセリフも10回以上聞いていますね……」

 彼らも恩人に武器を向けない義理くらいは持ち合わせているのか、拳で殴りかかってくる。
 水面を歩くための魔道具も持ってないのに、シーサーペントの死骸を足場にして起用に飛んだり跳ねたりする銀狼族。
 身体能力だけで言ったら、獣人の中でも随一なんだろうけどな。
 真正面から殴りかかってくる壮年の銀狼族に向かってクロスカウンターを決める。

「ごふっ、いいパンチじゃ……」

「それはどうも」

 俺に対して多数でかかるのは彼らの中では卑怯のうちに入らないのか、四方八方から飛び掛ってくる銀狼族を一人ずつ真正面から殴っていく俺。
 シーサーペントとの戦いを冷やかしていた周りの獣人たちも、いつしか俺と銀狼族の戦いを見物し始める。
 飛び入りで参加してくる者もいて、全員が動かなくなるまで俺は殴り続けた。
 脳筋ってホント面倒。



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