上 下
43 / 205

43.混沌とする王国内

しおりを挟む
「王家からの使者である!門を開けよ!!」

 男爵領の境界に築かれた城壁。
 そこを通行するための門はたったひとつだけ。
 そんな門の前で先ほどから喚きまわる数人の人間達。
 実は彼らは今日初めて訪れたわけではない。
 1週間ほど前に初めて訪れ、その時は男爵が居なかったので俺の判断で追い返した。
 しかしそれから毎日のように門の前で騒ぎ立てている。
 迷惑な人たちだ。
 どうせ男爵が勝手に持ち場を離れたとか、貴族たちが裏切ったので助けてくれだとか、そんな内容だろう。
 今、王国内は結構めちゃくちゃなのだ。
 俺が奴隷を助けるために何人か国の重要人物を殺したことも原因のひとつなのだろうが、混乱の最も大きな理由は王国四大貴族のうちの3人が互いに争っているからだろう。
 誰が明かしたのか、すでに勇者同士であれば神器を奪うことが可能なことが広く知られてしまっている。
 貴族たちは3人の大貴族の派閥に分かれて勇者と神器の奪い合いを始めた。
 そのせいで連合国軍にずいぶん深くまで攻め込まれている前線もあるくらいだ。
 これはまずいと国王の直属の陣営である騎士団が止めに入ったのだが、静香さんというアタリ神器を持つ勇者を陣営に抱える騎士団も争いに無関係ではいられない。
 大貴族と中小貴族、王国騎士団が混ざり合わさってすったもんだしている。
 はぁ、乱世乱世。
 静香さんのもとにはまだ偵察用虫型ゴーレムを置いてあるので、何かあったらまた駆けつけることはできる。
 後は放置だ。
 いちいち構ってられん。
 あと、俺も一応神酒というアタリ神器を持つ勇者という認識をされているので、貴族が軍勢を率いて男爵領にやってきたりもする。
 まあ壁に阻まれて何もできずに帰るんだけどね。
 たまに勇者が来たりするのでその時は一度だけ降伏勧告をして、その後ネバネバにして帰す。
 一人狂った奴がいて、そいつだけは殺した。
 そいつはどこに隠していたのか、俺の把握できていなかった獣人奴隷を突き出してきて目の前で拷問し始めたから残念ながら死んでもらった。
 一見虫も殺しそうにないような優男に見えたのだけれど、人っていうのは分からんものだ。
 あんな奴が何食わぬ顔して電車の同じ車両に乗っていたということなのだから、薄ら寒い。
 現代日本の闇を垣間見た気がした。
 それで、そいつが持っていた神器は2つしかなかった。
 1つは水精の短剣。
 これは水を操る力を持つ短剣のようだ。
 そしてもうひとつは神のスマホ。
 俺も思わず、ん?となった。
 スマホはスマホじゃなかったのか、と。
 しかしこのスマホ、使ってみると確かに他のスマホとは違うことがよく分かる。
 他のスマホにできることはもちろんできるが、このスマホにはその他にも段違いの機能があった。
 まず、他の神器所有者の位置がすべて分かる。
 更に、持っている神器の能力や本人の性格、日本での経歴などもすべて書かれたプロフィールが見られる。
 そして極めつけはこちらに来てからの生活をすべて動画で見ることができるのだ。
 今現在のリアルタイム映像もある。
 ぞっとするような性能の神器だ。
 たくさんあったスマホの中にすごいアタリが入っていたものだ。
 それも最悪の奴の手に渡っていた。
 しかしこれを持っていた奴はなぜ俺を狙おうと思ったのだろうか。
 自分で言うのもなんだが、俺は勇者の中でもトップクラスの戦闘力を持っている。
 スマホの力で他の奴等の神器を見ても、もらった神器すべてが明確なアタリだった奴は他にいない。
 確かにその分俺から神器を奪うことができれば収穫はでかいが、なぜ奪えると思ったのかな。
 つい先日王国中の獣人奴隷を解放したばかりだから、それを見て獣人奴隷を盾にすればいけるとでも思ったのかもしれない。
 まあ実際片目を潰されたしな。
 神酒ですぐに治ったけど。
 神のスマホには、俺でも知らない俺の弱点が記されていた。
 それが眼球への攻撃だ。
 神器を用いた全力の攻撃ならば、俺の眼球は耐えられないということが分かった。
 すぐに瞼を閉じたら奴の突き込んだ水精の短剣が抜けなくなって、その後は成す術もなく死んでいったんだけど。
 あいつが間抜けでよかった。
 弱点があるのなら、気をつけて戦えばいいだけの話だからね。
 ちなみに奴が2つしか神器を持っていなかったのは、3つ目が神樹の実のように使ったら無くなってしまうタイプの神器だったからだ。
 スマホに書いてあった奴の3つ目の神器は古の魔導書(火)だ。
 これは開くだけで初級から上級までの火魔法をすべて使えるようになるという神器だった。
 開いたら魔導書は燃えて灰になってしまうようだ。
 どの道俺には必要のない神器だったので惜しくもないが。
 死ぬ間際になにやら魔法を発動しようとしている気配はあったけれど、あの発動スピードを見るにあまり練習はしていなかったみたいだな。
 本当に何がしたかったのか。
 俺は水精の短剣を具現化し、日に透かしてみる。
 刃の部分が水晶かなにかでできているかのように透き通った美しい短剣だ。
 ちょっとスマホの能力はぞっとするので、実質これだけが戦利品かな。
 能力的には魔法で代用できるのでべつに大したものじゃないが、美術品としてはこれは素晴らしい。
 
「こらぁ!聞いておるのか!!門を開けよと言っておるだろうが!!」

 国王の使者だと言う人物は体力の続く限り騒ぎ続ける。
 喉強いな。
 しかしもう1週間もここで騒ぎ続けられている。
 いい加減にうんざりしてくる。
 俺と一緒に壁の上に詰めている警備隊の面々もなんともいえない顔だ。
 この近くには獣人さんたちを保護している区域もあるから、ちょっとそっちからも苦情が来ているんだよな。

「とりあえず、水でも撒いておくか」

 俺は手に持った水精の短剣を一振りして、使者殿たちの頭上だけに雨を降らせた。
 早く帰ってくれないかな。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

スキル【アイテムコピー】を駆使して金貨のお風呂に入りたい

兎屋亀吉
ファンタジー
異世界転生にあたって、神様から提示されたスキルは4つ。1.【剣術】2.【火魔法】3.【アイテムボックス】4.【アイテムコピー】。これらのスキルの中から、選ぶことのできるスキルは一つだけ。さて、僕は何を選ぶべきか。タイトルで答え出てた。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

ゴミスキルでもたくさん集めればチートになるのかもしれない

兎屋亀吉
ファンタジー
底辺冒険者クロードは転生者である。しかしチートはなにひとつ持たない。だが救いがないわけじゃなかった。その世界にはスキルと呼ばれる力を後天的に手に入れる手段があったのだ。迷宮の宝箱から出るスキルオーブ。それがあればスキル無双できると知ったクロードはチートスキルを手に入れるために、今日も薬草を摘むのであった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

処理中です...