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39.内乱の兆し
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「うーむ、どうにもスクアード辺境伯以外の大貴族の動きがおかしいですね」
「どういうことですか?」
「前線に出ている兵の数が少ないんですよ」
地図を眺め、ウィスキーを舐めるように飲みながら俺と男爵は密談する。
大貴族の軍といえば、2万とか3万とかの大軍だ。
連合国軍と戦う上では主力になるような軍のはずだが。
各戦線に配置した俺の偵察用虫型ゴーレムの送ってくる映像を調べた結果、大貴族3人が最前線に配置している兵の数が著しく少ないことが分かったと男爵は言う。
「これは、内戦でも始める気なのかもしれません」
「こんな時にですか?」
「ええ。大貴族の狙いはおそらく他陣営の勇者でしょう。いえ、正確には他陣営の勇者の持つ神器ですかな」
「気付いたのですかね。勇者同士であれば神器が奪えるということに」
「おそらくは。最前線は最低限の兵で時間稼ぎをして、他陣営の勇者の持つ強力な神器さえ奪えればその後連合国軍などどうとでもできるとでも思っているのでしょう」
「私たちはどう動きますか?」
「どうしましょうかねぇ……」
男爵は腕を組んで悩みこむ。
俺もなんとなく腕を組んで悩んでいる風を装った。
脳の力が多少なりとも増幅されているとはいえ、元々の知識が少ないのだ。
国内が内乱になりそうなときにどうしたらいいのかなど、普通のサラリーマンだったおっさんはいくら考えても分からない。
やはりチートの力でゴリ押しするくらいしか思いつかないな。
しかし他陣営の勇者に俺以上のチート神器を持つ勇者がいないとも限らない。
そうなった場合、力のみによるゴリ押しでは返り討ちにされる可能性がある。
「いっそのこと、男爵領に帰りましょうか」
「え?」
「いや、もはや戦争どころではないでしょう。だから男爵領に帰って守りを固め、領内の繁栄に勤めませんか?
「私的にもその提案は非常に魅力的なのですが、いいのですか?一応今回の出兵は国王陛下の命令ですよ」
「まあいいんじゃないですかね。陛下なんてどうでも。私は貴族です。自領の利益が最優先に来てしかるべきですよ。封建国家などそんなものです。我々貴族は陛下に忠誠を誓っていますが、別に隷属しているわけではないですから」
なんだか日本の戦国時代みたいだ。
あの時代は面従腹背なんて当たり前だからな。
強いから従っているだけで、弱ったら後ろから叩き切るみたいなね。
実際この国のような国では、貴族は自領に帰れば王だ。
小さな国がたくさん集まってできている国。
それが封建国家なんだな。
そのうちの大きな3つの国が外敵を放置して、国内で戦う準備をしている。
おそらくこれから国内は大荒れになるだろう。
自領の安定のために努めるのは非難されるようなことではない。
よし、帰ろう。
すぐ帰ろう。
「じゃあ男爵、後で追いつきます」
「ええ、頼みました」
俺とアンネローゼさんは男爵と分かれて王都へと向かう。
俺たちは内戦の混乱に乗じて、獣人の奴隷を秘密裏に解放して回ることにしたのだ。
どうせ王国はこれから混乱の坩堝になるんだ。
せいぜい引っ掻き回してやろう。
解放した獣人たちは一度男爵領に連れて行き、船で連合国側に送る予定だ。
奴隷を手土産にと言うと語弊があるが、奴隷たちを向こうに送り届けるついでに男爵領と連合国で密約でも結べればと思っている。
男爵領と連合国は海で繋がっている。
しかし今までは交流らしい交流は無かった。
理由は男爵領沖の海域にある。
男爵領の海は、入り江を抜けると荒れに荒れる。
複雑な岩礁地帯もあり、大きな船は行き来できない。
行き来できるのは、せいぜいが小さな漁船くらいだろう。
だから今までは海運は諦めていたのだが、警備隊全員が魔法を使えるようになった今なら岩礁だらけの荒海を越えることができるだろう。
ダメなら俺も手伝って海域の地形でも変えてしまえば良い。
そうすれば男爵領は無理して内陸から物を仕入れる必要も無くなる。
海運の拠点となれば港町も発展することだろう。
男爵領の選択肢は大きく広がることだろう。
なんなら王国から独立して都市国家としてやっていく道もある。
男爵はあまり大きな国を差配するような器には見えないが、小さな都市国家ならば十分にやりくりできるだけの手腕はあると思う。
まあそれもまだまだ先のことだ。
今は目の前のことだけを考えよう。
「んっ、ああっ」
「ちょっと変な声出さないでくださいよ」
王都の高い城壁を登るために俺はアンネローゼさんをおんぶしているのだが、背中のアンネローゼさんがさっきから艶めかしい声ばかり出して気が散る。
獣人の奴隷たちはきっと人間の俺のことを信用してはくれないだろうからアンネローゼさんを連れてきたのだが、失敗だっただろうか。
「すまない。振動が心地よくてな」
「変な汁とか付けないでくださいね」
「努力する」
本当にね。
俺は地面を踏みしめ、天高くジャンプした。
大きな石を積み上げて築かれた巨大な壁の上に到着した。
今夜は大きな月が出ていて、良い夜だ。
大きな2つの月。
これを見ているとやっぱりここは異世界なんだなと感じる。
元の世界の月と同じような大きさで同じような形、同じような模様。
しかし2つだ。
まあこれはこれで綺麗だな。
こんな夜には、月でも眺めながら日本酒でも飲みたいところだ。
たぶん今夜中には無理だろうけどな。
事前に虫型ゴーレムで調べた限り、獣人の奴隷は王国中に無数に存在している。
それをすべて解放するのだ。
とても今夜中に終わるとは思えない。
まあ、気長にやろうか。
俺は城壁の上から飛び降りた。
「あんっ」
「はぁ……」
やっぱりこの人置いてこようかな。
「どういうことですか?」
「前線に出ている兵の数が少ないんですよ」
地図を眺め、ウィスキーを舐めるように飲みながら俺と男爵は密談する。
大貴族の軍といえば、2万とか3万とかの大軍だ。
連合国軍と戦う上では主力になるような軍のはずだが。
各戦線に配置した俺の偵察用虫型ゴーレムの送ってくる映像を調べた結果、大貴族3人が最前線に配置している兵の数が著しく少ないことが分かったと男爵は言う。
「これは、内戦でも始める気なのかもしれません」
「こんな時にですか?」
「ええ。大貴族の狙いはおそらく他陣営の勇者でしょう。いえ、正確には他陣営の勇者の持つ神器ですかな」
「気付いたのですかね。勇者同士であれば神器が奪えるということに」
「おそらくは。最前線は最低限の兵で時間稼ぎをして、他陣営の勇者の持つ強力な神器さえ奪えればその後連合国軍などどうとでもできるとでも思っているのでしょう」
「私たちはどう動きますか?」
「どうしましょうかねぇ……」
男爵は腕を組んで悩みこむ。
俺もなんとなく腕を組んで悩んでいる風を装った。
脳の力が多少なりとも増幅されているとはいえ、元々の知識が少ないのだ。
国内が内乱になりそうなときにどうしたらいいのかなど、普通のサラリーマンだったおっさんはいくら考えても分からない。
やはりチートの力でゴリ押しするくらいしか思いつかないな。
しかし他陣営の勇者に俺以上のチート神器を持つ勇者がいないとも限らない。
そうなった場合、力のみによるゴリ押しでは返り討ちにされる可能性がある。
「いっそのこと、男爵領に帰りましょうか」
「え?」
「いや、もはや戦争どころではないでしょう。だから男爵領に帰って守りを固め、領内の繁栄に勤めませんか?
「私的にもその提案は非常に魅力的なのですが、いいのですか?一応今回の出兵は国王陛下の命令ですよ」
「まあいいんじゃないですかね。陛下なんてどうでも。私は貴族です。自領の利益が最優先に来てしかるべきですよ。封建国家などそんなものです。我々貴族は陛下に忠誠を誓っていますが、別に隷属しているわけではないですから」
なんだか日本の戦国時代みたいだ。
あの時代は面従腹背なんて当たり前だからな。
強いから従っているだけで、弱ったら後ろから叩き切るみたいなね。
実際この国のような国では、貴族は自領に帰れば王だ。
小さな国がたくさん集まってできている国。
それが封建国家なんだな。
そのうちの大きな3つの国が外敵を放置して、国内で戦う準備をしている。
おそらくこれから国内は大荒れになるだろう。
自領の安定のために努めるのは非難されるようなことではない。
よし、帰ろう。
すぐ帰ろう。
「じゃあ男爵、後で追いつきます」
「ええ、頼みました」
俺とアンネローゼさんは男爵と分かれて王都へと向かう。
俺たちは内戦の混乱に乗じて、獣人の奴隷を秘密裏に解放して回ることにしたのだ。
どうせ王国はこれから混乱の坩堝になるんだ。
せいぜい引っ掻き回してやろう。
解放した獣人たちは一度男爵領に連れて行き、船で連合国側に送る予定だ。
奴隷を手土産にと言うと語弊があるが、奴隷たちを向こうに送り届けるついでに男爵領と連合国で密約でも結べればと思っている。
男爵領と連合国は海で繋がっている。
しかし今までは交流らしい交流は無かった。
理由は男爵領沖の海域にある。
男爵領の海は、入り江を抜けると荒れに荒れる。
複雑な岩礁地帯もあり、大きな船は行き来できない。
行き来できるのは、せいぜいが小さな漁船くらいだろう。
だから今までは海運は諦めていたのだが、警備隊全員が魔法を使えるようになった今なら岩礁だらけの荒海を越えることができるだろう。
ダメなら俺も手伝って海域の地形でも変えてしまえば良い。
そうすれば男爵領は無理して内陸から物を仕入れる必要も無くなる。
海運の拠点となれば港町も発展することだろう。
男爵領の選択肢は大きく広がることだろう。
なんなら王国から独立して都市国家としてやっていく道もある。
男爵はあまり大きな国を差配するような器には見えないが、小さな都市国家ならば十分にやりくりできるだけの手腕はあると思う。
まあそれもまだまだ先のことだ。
今は目の前のことだけを考えよう。
「んっ、ああっ」
「ちょっと変な声出さないでくださいよ」
王都の高い城壁を登るために俺はアンネローゼさんをおんぶしているのだが、背中のアンネローゼさんがさっきから艶めかしい声ばかり出して気が散る。
獣人の奴隷たちはきっと人間の俺のことを信用してはくれないだろうからアンネローゼさんを連れてきたのだが、失敗だっただろうか。
「すまない。振動が心地よくてな」
「変な汁とか付けないでくださいね」
「努力する」
本当にね。
俺は地面を踏みしめ、天高くジャンプした。
大きな石を積み上げて築かれた巨大な壁の上に到着した。
今夜は大きな月が出ていて、良い夜だ。
大きな2つの月。
これを見ているとやっぱりここは異世界なんだなと感じる。
元の世界の月と同じような大きさで同じような形、同じような模様。
しかし2つだ。
まあこれはこれで綺麗だな。
こんな夜には、月でも眺めながら日本酒でも飲みたいところだ。
たぶん今夜中には無理だろうけどな。
事前に虫型ゴーレムで調べた限り、獣人の奴隷は王国中に無数に存在している。
それをすべて解放するのだ。
とても今夜中に終わるとは思えない。
まあ、気長にやろうか。
俺は城壁の上から飛び降りた。
「あんっ」
「はぁ……」
やっぱりこの人置いてこようかな。
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