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38.捕虜との晩餐
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「繁信さん、怪我をしているのではないですか?」
静香さんが俺の切り裂かれた脇腹を見てそう尋ねてきた。
そういえば浅く斬られたような気がする。
神酒も飲んでいないのでまだ怪我は治っていないはずなんだが。
脇腹にそっと触れると、ポロリとカサブタがはがれた。
そしてその下にはきれいなお肌が。
もう治ってる。
まさか神巻きタバコの力で自己治癒力も増幅されているのか?
ついに神酒いらずの身体になってしまったな。
まあ便利でいいじゃん。
もうどこまでも開き直るしかない。
神酒が必要なくなっても、飲むけどね。
美味しいから。
「大丈夫ですよ、静香さん。俺の神器は神酒ですよ?怪我は問題になりません」
「そ、そうでしたね。すみません、動転していました」
静香さんの顔は赤い。
おっさんは何も見ていないから気にしなくてもいいのに。
「それじゃあ、そろそろ行きますか」
「ああ、連れてイってくれ」
「はぁ、あたしもお世話になりまーす」
なぜだか気が重い。
まずは男爵のところにこの2人を連れて行かないとな。
「静香さん、すぐに戻りますから待っていてください」
「わかりました。いつまでも、お待ちしています」
そんなに待たせないって。
俺は2人を連れて転移した。
「ただいま戻りました」
「おや、シゲノブ殿そちらの方たちは?」
「ちょっと訳ありでして……」
俺は男爵に向こうでの経緯を説明し、勝手に連れてきてしまったことを謝った。
「そういうことでしたか。いえいえ、謝るようなことではありませんよ。戦力が増えるのは嬉しい限りです。しかしなんとも豪気なお嬢さんですな」
「いえ、妹共々これからお世話になります」
「こちらこそ」
とりあえずの顔合わせは済んだかな。
俺はもう一度連合国軍の本陣の中に転移する。
「繁信さん!」
静香さんが抱きついてくる。
こんな感じの人だったかな。
やはり捕虜になって、相当怖い思いをしたということだろうか。
それともおっさん好きなのかな。
おっさんはOLも女騎士も大好きだけども。
「戻りましょうか、王国騎士団陣営に」
「はい」
俺は静香さんをゴーレム馬の後ろに乗せて連合国軍の本陣を出た。
やけに静香さんの体温が近いような気がする。
ははーん、さてはおっさんに惚れてしまったな?
おっさんの妄想はもはや止まらない。
「戻りました」
「お疲れ様です」
マリステラ卿への説明や、残り2人の捕虜の引き取り交渉などをしていたらすっかり夜になってしまっていた。
腹も減って喉もカラカラだ。
男爵が冷えたビールを差し出してくれる。
たまりませんな。
まずは駆けつけ1杯というやつだ。
渇いた喉に喉越しのいいラガーを流し込めば疲れも吹っ飛ぶというもの。
今日の晩御飯はパエリアか。
これもパエリアと俺が勝手に呼んでいるだけの似た料理だ。
だが、これがまたビールに合う。
ラガービールというのは幅広い料理に合うというのが大きな魅力だ。
ついつい喉をごくごくと鳴らして飲み干してしまう。
「いい飲みっぷりですね、シゲノブ殿」
アンネローゼさんに褒められる。
彼女も酒を飲んでいるようで、少し頬が赤く染まって扇情的だ。
他の元捕虜の人たちも全員酒と料理を楽しんでくれているようだ。
白銀の髪と同色の狼耳を持つ狼獣人のルークさん。
白い翼と白金色の髪を持つ鳥人のウルリケさん。
この2人がマリステラ卿と交渉していただいてきた捕虜だ。
どちらも反抗的な人ではなくて助かった。
アンネローゼさんとも家同士でそこそこ親交があったみたいで、知らない仲ではないという話だ。
アンネローゼさんとついでにアマーリエは向こうでは貴族みたいな家柄だったようなので、一応侍従みたいな人がいたほうがいいと思ったんだ。
男爵にもケルビンさんが領地からついて来ているからね。
「でもお姉ちゃん、父様や母様は心配しているかもね」
「いい気味だ。父も母も私が連隊の隊長になってから金の勘定ばかりで醜く肥え太りおって。ベルタ家は武門だぞ。日々の鍛錬を怠るようになったらおしまいだ。せいぜい娘2人ともが捕虜になったと知って慌てふためけばいい」
「うーん、まあそうかもね。最近の父様母様はどこかおかしかったから。元に戻ってくれたらいいかもね」
娘の出世によって両親が変わってしまったか。
悲しい話だ。
さすがに娘2人とも捕虜になるというのは少し強すぎるショック療法かもしれないが、効果はあるかもな。
この姉妹にはしばらく男爵領陣営にいてもらいたいが、2度と連合国の土を踏ませないなどと鬼畜なことを言うつもりはない。
俺だって連合国に行ってみたいと思っているので、そのときには案内役が必要だ。
そう遠くないうちに両親にも会うことができるだろう。
それまでにまともに戻ってくれているといいのだけれど。
「それにしても、男爵領のお料理とお酒は美味しいね」
「ああ、素材の味がよく引き出されている。海産物も新鮮だ。このような内陸でどうやってこの鮮度を保っているんだ?」
「私たちの魔法によってです。この軍は全員が空間魔法を使えるのですよ」
「なんと!?」
俺の魔法に関係することだから、どう話そうか迷っていたら男爵が助け舟を出してくれた。
確かに全員が空間魔法を使えるのは嘘ではないが、海産物を保存しているのは俺の魔法によるものだ。
男爵領警備隊のみんなの魔法では異空間内の時間の経過を止めることはできないし、入る量も少なすぎる。
嘘の中に少しの真実を混ぜることが相手に信じ込ませる秘訣だというが、こういうことを言うのか。
言い方は悪いが、男爵は嘘が上手いな。
「このお酒はずいぶんと美味しいけど、男爵領で作ってるの?」
アマーリエの質問にもどう答えようか迷う。
王国内ではすでに俺の神器のことは広く知られていることだけれど、捕虜とはいえ元連合国陣営の人間に話してもいいことなのか。
これも男爵に判断を委ねよう。
「連合国の皆さんは、神器を持つ勇者様の話を知っていますか?」
男爵はどうやらすべてを話すことにしたようだ。
静香さんが俺の切り裂かれた脇腹を見てそう尋ねてきた。
そういえば浅く斬られたような気がする。
神酒も飲んでいないのでまだ怪我は治っていないはずなんだが。
脇腹にそっと触れると、ポロリとカサブタがはがれた。
そしてその下にはきれいなお肌が。
もう治ってる。
まさか神巻きタバコの力で自己治癒力も増幅されているのか?
ついに神酒いらずの身体になってしまったな。
まあ便利でいいじゃん。
もうどこまでも開き直るしかない。
神酒が必要なくなっても、飲むけどね。
美味しいから。
「大丈夫ですよ、静香さん。俺の神器は神酒ですよ?怪我は問題になりません」
「そ、そうでしたね。すみません、動転していました」
静香さんの顔は赤い。
おっさんは何も見ていないから気にしなくてもいいのに。
「それじゃあ、そろそろ行きますか」
「ああ、連れてイってくれ」
「はぁ、あたしもお世話になりまーす」
なぜだか気が重い。
まずは男爵のところにこの2人を連れて行かないとな。
「静香さん、すぐに戻りますから待っていてください」
「わかりました。いつまでも、お待ちしています」
そんなに待たせないって。
俺は2人を連れて転移した。
「ただいま戻りました」
「おや、シゲノブ殿そちらの方たちは?」
「ちょっと訳ありでして……」
俺は男爵に向こうでの経緯を説明し、勝手に連れてきてしまったことを謝った。
「そういうことでしたか。いえいえ、謝るようなことではありませんよ。戦力が増えるのは嬉しい限りです。しかしなんとも豪気なお嬢さんですな」
「いえ、妹共々これからお世話になります」
「こちらこそ」
とりあえずの顔合わせは済んだかな。
俺はもう一度連合国軍の本陣の中に転移する。
「繁信さん!」
静香さんが抱きついてくる。
こんな感じの人だったかな。
やはり捕虜になって、相当怖い思いをしたということだろうか。
それともおっさん好きなのかな。
おっさんはOLも女騎士も大好きだけども。
「戻りましょうか、王国騎士団陣営に」
「はい」
俺は静香さんをゴーレム馬の後ろに乗せて連合国軍の本陣を出た。
やけに静香さんの体温が近いような気がする。
ははーん、さてはおっさんに惚れてしまったな?
おっさんの妄想はもはや止まらない。
「戻りました」
「お疲れ様です」
マリステラ卿への説明や、残り2人の捕虜の引き取り交渉などをしていたらすっかり夜になってしまっていた。
腹も減って喉もカラカラだ。
男爵が冷えたビールを差し出してくれる。
たまりませんな。
まずは駆けつけ1杯というやつだ。
渇いた喉に喉越しのいいラガーを流し込めば疲れも吹っ飛ぶというもの。
今日の晩御飯はパエリアか。
これもパエリアと俺が勝手に呼んでいるだけの似た料理だ。
だが、これがまたビールに合う。
ラガービールというのは幅広い料理に合うというのが大きな魅力だ。
ついつい喉をごくごくと鳴らして飲み干してしまう。
「いい飲みっぷりですね、シゲノブ殿」
アンネローゼさんに褒められる。
彼女も酒を飲んでいるようで、少し頬が赤く染まって扇情的だ。
他の元捕虜の人たちも全員酒と料理を楽しんでくれているようだ。
白銀の髪と同色の狼耳を持つ狼獣人のルークさん。
白い翼と白金色の髪を持つ鳥人のウルリケさん。
この2人がマリステラ卿と交渉していただいてきた捕虜だ。
どちらも反抗的な人ではなくて助かった。
アンネローゼさんとも家同士でそこそこ親交があったみたいで、知らない仲ではないという話だ。
アンネローゼさんとついでにアマーリエは向こうでは貴族みたいな家柄だったようなので、一応侍従みたいな人がいたほうがいいと思ったんだ。
男爵にもケルビンさんが領地からついて来ているからね。
「でもお姉ちゃん、父様や母様は心配しているかもね」
「いい気味だ。父も母も私が連隊の隊長になってから金の勘定ばかりで醜く肥え太りおって。ベルタ家は武門だぞ。日々の鍛錬を怠るようになったらおしまいだ。せいぜい娘2人ともが捕虜になったと知って慌てふためけばいい」
「うーん、まあそうかもね。最近の父様母様はどこかおかしかったから。元に戻ってくれたらいいかもね」
娘の出世によって両親が変わってしまったか。
悲しい話だ。
さすがに娘2人とも捕虜になるというのは少し強すぎるショック療法かもしれないが、効果はあるかもな。
この姉妹にはしばらく男爵領陣営にいてもらいたいが、2度と連合国の土を踏ませないなどと鬼畜なことを言うつもりはない。
俺だって連合国に行ってみたいと思っているので、そのときには案内役が必要だ。
そう遠くないうちに両親にも会うことができるだろう。
それまでにまともに戻ってくれているといいのだけれど。
「それにしても、男爵領のお料理とお酒は美味しいね」
「ああ、素材の味がよく引き出されている。海産物も新鮮だ。このような内陸でどうやってこの鮮度を保っているんだ?」
「私たちの魔法によってです。この軍は全員が空間魔法を使えるのですよ」
「なんと!?」
俺の魔法に関係することだから、どう話そうか迷っていたら男爵が助け舟を出してくれた。
確かに全員が空間魔法を使えるのは嘘ではないが、海産物を保存しているのは俺の魔法によるものだ。
男爵領警備隊のみんなの魔法では異空間内の時間の経過を止めることはできないし、入る量も少なすぎる。
嘘の中に少しの真実を混ぜることが相手に信じ込ませる秘訣だというが、こういうことを言うのか。
言い方は悪いが、男爵は嘘が上手いな。
「このお酒はずいぶんと美味しいけど、男爵領で作ってるの?」
アマーリエの質問にもどう答えようか迷う。
王国内ではすでに俺の神器のことは広く知られていることだけれど、捕虜とはいえ元連合国陣営の人間に話してもいいことなのか。
これも男爵に判断を委ねよう。
「連合国の皆さんは、神器を持つ勇者様の話を知っていますか?」
男爵はどうやらすべてを話すことにしたようだ。
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