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34.捕虜交換の交渉

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「なんと!赤髪の魔族が敵指揮官の妹!?」

「ええ、おそらくそれが静香さんが捕虜にとられた理由でしょう」

「では、彼女と捕虜交換でシズカ殿が返してもらえる可能性が高いということですな」

 マリステラ卿は胸をなでおろす。
 静香さんは王国騎士団の最高戦力と言っても過言ではない。
 兵糧運搬も半分を神の冷蔵庫が担っていた。
 王国騎士団陣営にとって、彼女がいなくなった痛手は相当に大きかったのだろう。

「では、赤髪の女性と静香さんの捕虜交換を目標として交渉するということでよろしいですね?」

「ええ、よろしくお願いします」

 交渉は俺が担当する。
 敵軍と理性的に話ができそうな人が王国騎士団に存在しないためだ。
 マリステラ卿ですら敵軍を前にすると熱くなってしまうようだから、俺が行く以外にないだろう。
 本当は俺が向こうの本陣に潜入して静香さんを奪還してくるのが最善なのだろうけど、向こうで特に危害を加えられていない様子なので交渉する方向でいきたいと思う。
 俺の神器の力は隠せるならば隠したほうがいいし、王国側が勝ちすぎるのも良くない。
 エルカザド連合国が戦争を仕掛けてきた理由を聞いて、心情的にはあちらに味方したい気分だ。
 他2人の捕虜も向こうに返してやりたいような気持ちになるが、勝手に返すわけにもいかない。
 実際こちらにとって静香さんの存在は捕虜1人の価値よりも高い。
 しかし向こうにとってもアマーリエ・ベルタの価値は高いだろう。
 マリステラ卿に女将校とアマーリエの関係を話さなければよかったかな。
 そうすれば捕虜3人と静香さんを交換する条件でも首を縦に振ったかもしれない。
 今更言っても仕方ない。
 他2人の捕虜は後でどうにかしよう。
 
「では私は捕虜を連れて、敵本陣に向かいます」





「え、連合国軍に戻れるの!?やったぁ!!」

「あくまでも捕虜交換の交渉がうまくまとまればだよ」

「わかってるって」

 本当だろうか。
 この子はなんというか、軍人にはあまり向いてないような気がするんだよな。
 単純にまだ子供なだけかもしれないが。
 
「じゃあ行くよ。おとなしくして、俺の後ろをついてきて。言っとくけど俺はこう見えて結構強いからね。君が暴れたら縄で縛らなきゃいけなくなるから」

「はーい!」

 はぁ、やりづらい。
 俺はアマーリエをゴーレム馬に乗せる。
 タンデムシートを取り付けてあるから乗りやすいはずだ。

「うわぁ、なにこれ。馬?だけど生き物の気配じゃないよ?うぇ、なんかお尻がネバネバ」

「ちょっと、暴れないで。このネバネバがお尻を固定してくれるんだから」

 ネバネバの利便性が分からないとは、やはりまだまだ子供だな。
 俺はアマーリエの前に乗り、ゴーレムの腹を軽く蹴る。

「わっ、動いた。なにこれすごい!!」

 耳元で騒がれると耳がキンキンする。
 身体も密着してさすがのおっさんもドキドキしちゃうよ。
 年頃の娘さんがおっさんに身体を密着させるなんて、満員電車だったら軽く警戒するところだ。
 しかしここはゴーレム馬の上だ。
 若い子の温もりを楽しませていただこうか。
 
「すごい、速いね。実家のお父様の馬よりも速いよ!」

 砦を出てから敵軍に矢を射かけられてもたまらないのでかなり飛ばしている。
 大体時速80キロくらいは出ているだろうか。
 サラブレットのトップスピードよりも速いだろう。
 元の世界の一般的な馬では、このスピードで走り続けることはまず不可能だろう。
 ゴーレム馬は魔石さえ補充してやれば、その身が砕け散るまでそのままのスピードで走り続けることが可能だ。
 ちょっと血統がいいだけのそのへんの馬と比べてもらっては困るな。

「あ、本陣が見えてきた。お姉ちゃ~ん、おーい」

 うるさくてかなわない。
 おっさんは若者のその無駄なハイテンションがいまいち理解できないよ。
 これから捕虜交換の交渉だよ?

「ちょっと静かにね。これ以上騒いだら縄で縛るからね」

「……………………」

 アマーリエは必死に口を手で押さえる。
 素直でよろしい。
 アマーリエを後ろに乗せたゴーレム馬が本陣に近づくにつれ、敵軍は騒然となる。
 捕虜交換をするにしても、こちらが単身でアマーリエを連れて本陣に来るとは思っていなかったのだろう。
 静香さんのためにも面倒なやり取りはなるべく省きたかったためにこんな手段をとったが、果たして向こうがどう出てくるか。
 木で作られた柵の外側に浅い掘りがあるだけの本陣だ。
 ゴーレム馬でも助走があれば飛び越えられないことはないが。

「連合国東部方面軍第六連隊指揮官のアンネローゼ・ベルタだ!我が隊本陣に何用で参られたのか!用件を述べられよ!」

 本陣の中からアマーリエによく似た赤髪に金の巻角の女性が出てきた。
 どうやら話もできずに攻撃されるというようなことはないらしい。

「あ、お姉ちゃーん!」

 アマーリエは空気も読まずに姉に向かって大きく手を振る。
 しかし当のアンネローゼさんはギロリと鋭い眼差しで妹をにらむ。
 アマーリエはまた余計なことをしゃべってしまったことに気づいたのか、自分から口を両手で押さえて黙り込んだ。
 俺は軽くため息をつき、ここに来た用向きを告げる。

「私は王国軍の使者で、シゲノブ・キザキと申します。この度は捕虜交換の交渉
に参りました」

「ほう?」
 
 アンネローゼさんは獰猛な顔でニヤリと笑った。
 美人っていうのはどんなヤバい顔でもそれなりに絵になるのだから、卑怯だと思った。



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