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33.捕虜

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「シゲノブ殿!?なぜここに」

「「シゲさん!!」」

 王国騎士団の指揮官、グレイス・マリステラ子爵は俺の訪問に大層驚いた。
 高校生コンビは泣きそうな顔をして、俺のほうを見る。
 俺は男爵の書状を見せてマリステラ卿に話を聞いた。

「ご助力感謝します。お恥ずかしい話なのですが……」

 マリステラ卿の話によれば、王国軍は砦の守りに3000を残して5000の兵で打って出たそうだ。
 勇者は静香さんとかえでちゃんが砦の守りに残った。
 その代わりに隼人君が攻撃側についていった。
 マリステラ卿は奇抜さは無いものの堅実な用兵で、魔族軍6000と互角の戦いを繰り広げ何人かの敵部隊長を捕虜にすることに成功したそうだ。
 捕虜を取ったのはこちらが先だったということか。
 では、静香さんは捕虜交換を目的として捕らえられたのだろうか。
 だとすれば交渉の余地はあるか。
 しかし砦の守りに就いていたはずの静香さんが、なぜ捕まってしまったのだろうか。

「お、俺のせいなんだよ!静香さんが捕まったのは、俺を助けるためだったんだ!!」

 隼人君は涙をぽろぽろこぼしながら俺にそう訴える。
 つられてかえでちゃんもぽろぽろ泣き出した。
 静香さんはまだ死んでないというのに、お通夜みたいな雰囲気だな。

「いえ、作戦を立てたのは私です。すべては指揮官である私の責任。敵軍深くまで入り込みすぎたのだ」

 人間同士の戦いならば、敵部隊長を捕らえればその部隊は瓦解したり戦意が低くなったりするだろう。
 しかし魔族は違った。
 烏合の衆とはなったが、魔族は人間の2倍から3倍の身体能力を持っているんだ。
 戦意を失わないというだけでも十分に脅威となった。
 魔族と人間の身体能力の違いやメンタリティの違いを読み間違ったマリステラ卿のミスというのは間違っていない。

「俺は殿で、敵の中に取り残されたところを静香さんが助けてくれたんだ。そんで、俺を逃がして敵に捕まっちゃったんだ」

 大体の話はわかった。
 あとは捕虜の中に向こうが交換しようとしている捕虜がいるのかどうかということか。
 死んでしまっていれば交渉は難航するだろう。
 捕虜を多少取り調べる必要がありそうだ。 

「それで、捕らえた捕虜はどこに?」

「地下牢に入れてあります」

 ああ、そういえばそんなものも作った記憶がある。
 上の建物を作ってしまった後に敵を捕らえるための牢屋が必要だと言われて、地下に作ったんだ。
 しかし地下牢と口に出すとなぜか後ろ暗いことのように思えるのはなぜだろうか。

「どんな人物を捕虜にしたんですか?」

「捕虜は3人ですな。狼のような耳と尻尾を持つ男、羽の生えた女、それと金の巻角を持つ女でした」

 なるほどわかった。
 魔族軍がどの捕虜を静香さんと交換しようとしているのか。
 
「ちなみに、巻角の女の髪は赤でしたか?」

「ええ、燃えるような赤髪でした」

 たぶん今魔族軍を指揮している女将校の血縁者だろうな。
 とりあえず会ってみるか。
 マリステラ卿の案内で地下牢に向かう。
 
「赤髪の女はこの房です」

「そうですか」

 牢は日本の刑務所を参考にして作ったので扉がある。
 俺はその扉をノックした。

「勝手に入ればいいでしょ……」

 少し気だるげな女の声が聞こえる。
 声の感じは若い。
 高校生のかえでちゃんと同じような年齢に感じさせる声だ。
 俺は扉を開けて中に入った。
 そこにいたのは魔族軍の女将校によく似た、16、7歳くらいの少女。
 確実に血縁関係はあるだろう。
 
「初めまして、俺はシゲノブ・キザキ。君の名前はなんていうのかな」

「おじさんが拷問官ってわけだ。言っとくけど、あたしは何も話す気はない。拷問しても無駄だから早く殺してくんないかな」

 話がかみ合わない。
 それに、気丈なことを言っているけどこの子さっきから足が震えてるんだよな。
 どうしたものか。
 あまり時間はかけたくないのだけどな。

「俺が拷問なんてしそうな顔に見えるかな」

「拷問はしそうにないけど、エッチなことはしそうな顔してる」

 俺は自分の顔を触ってみる。
 そんな顔してるかな。
 鼻の下を少し押し上げてみる。

「少しはマシになったね」

「それはありがとう。じゃあ君の名前を教えてくれるかな」

「いいよ。あたしの名前はアマーリエ・ベルタ。エルカザド連合国の下級騎士だよ」

 エルカザド連合国。
 それが魔族の国の国名か。
 魔族という言い方も良くないかな。

「君たちは人間とは違う種族のようだけど、呼び名とかはあるのかな」

「あたしたちは自分たちのことを獣人と呼んでいるかな。人間は魔族って呼ぶみたいだけど」

 獣人か。
 獣の因子を身体の一部に持つ人という意味かな。
 これからは獣人と呼んだほうが良さそうだな。

「君たちの国は、なぜ戦争を起こしたんだい?」

「人間の国があたしたちの国に来て国民を捕らえていくからじゃないか!あたしたちも我慢の限界だよ!!」

 一理ある。
 向こうの国に行って国民を奴隷として捕らえて連れてきていたとしたら、戦争の理由としては十分だ。
 まあそんなことだろうと思っていた。
 
「最後の質問だ。連合国軍の指揮官の女性とは、どういう関係?」

「あたしのお姉ちゃん」

 なるほど。
 知りたいことはすべて分かった。
 

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