おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉

文字の大きさ
上 下
32 / 205

32.女騎士のピンチ

しおりを挟む
 勇者同士であれば神器は奪えるという事実が判明したが、現状でできることは少ない。
 今は俺達男爵領軍に与えられたロードスの町の治安維持という任務に専念しよう。
 今日も元気に男爵領警備隊のみんなは町で悪漢を取り締まる。

『きさまら、噂の男爵軍の連中か。フレデリックをやったからっていい気になるんじゃねーぜ!!』

『『『雷弾!』』』

『あばばばばばば』

『アニキ!てめーら、アニキをよくも!魔法が使えるのはてめーらだけじゃねーぜ!!ファイアボーール!!』

『『『土壁!』』』

『くそっ俺の攻撃が通らねえ!かくなる上は、直接殴ってやるよ!!』

『『『泥沼!』』』

『ぐばっ。ぺっぺっ、なんだこれ。地面が突然泥に』

『『『雷弾!』』』

『あばばばばばば』

 先日作られた臨時作戦本部は治安維持部隊司令室に名前を変え、壁に掛けられた鏡には町の様子が映し出され続けている。
 警備隊のみんなも部隊を4つに分けて交代勤務にすることによって、十分な休息が取れている。
 非常に充実した日々だ。
 あの後男爵の元にはウィンコット伯からの抗議の使者などが来たようだが、スクアード辺境伯からの書状などを見せたらあっさりと引いていった。
 向こうも分かってはいたのだろうが、貴族というのは面子や体面を気にするところがあるから一度は抗議をしておかないと弱腰だと思われるとでも思ったのだろう。
 ツッパッた高校生じゃあるまいし。
 俺などはこの町を今まで放置していたことのほうが、よっぽど体面が悪いような気がするのだけどな。
 治安維持の任期が終わる頃には、小奇麗でさっぱりとした町に生まれ変わっていることだろう。
 ウィンコット伯にはスクアード辺境伯からこの町に対する苦言をつらつらと書き綴った書状が届く手筈になっているので、今後はもっと治安維持にも力を入れることだろう。
 そういえば兵舎で身を寄せ合っていた子供たちだが、男爵領へと連れて行くことになった。
 この町もこれから少しずつ変わっていくのだろうが、子供たちは今困窮しているのだ。
 今のこの町には、子供たちを救済するような施設は無い。
 置いておくのは忍びないので、男爵領に連れて帰り孤児院で生活してもらうこととなった。
 男爵領は食料だけは供給過多なので孤児院でも美味しいご飯が食べられるだろう。
 すべてが順調に思えた。

『くっ、殺せ……』

 クロト湿原を偵察中の虫型ゴーレムからそんな音声が届くまでは。

『この者を捕虜とする』

 そう宣言したのは魔族軍の将校。
 真っ赤な髪を後ろで一括りにした大柄な女だ。
 身長は180センチはあろうか。
 その身体つきは筋肉質で、スポーツ選手のように引き締まった肉体をしている。
 耳の後ろの辺りからは金色の巻角が生えており、その女が魔族であることを証明している。
 それ以外はいたって普通の人間となんら変わらない姿の女だった。

『捕虜になどなるつもりは無い。殺せ!』

 そう叫ぶのは王国騎士団所属の勇者、篠原静香さんだ。
 白銀に輝く鎧が良く似合うきつめの黒髪美人。
 しかし今はその鎧も脱がされ、薄い鎧下の上から縄がかけられている。
 むっちりとした女性的な身体のラインが出てしまって、非常に扇情的だ。
 しかしじっくりと眺めている場合ではない。
 すぐに助けに行かなくては。
 
「男爵、少しいいですか?」

「はい、なんでしょう?」

 俺は男爵に静香さんが陥ってしまっている現状を伝える。
 
「それは大変なことですな。すぐにマリステラ卿への書状を書きます」

「おねがいします」

 助けに向かうにも、静香さんが所属している王国騎士団という頭を飛び越えて助けにいくことはできない。
 めんどうなことだ。
 マリステラ卿ならば大丈夫だと思うが、もし救出の許可が出なかった場合は独断専行も辞さない覚悟だ。
 静香さんには色々とお世話になった。
 なるべく早く助け出したい。
 この世界には倫理もなにもあったものじゃない。
 戦時協定も無いし、捕虜にどんなことが行われるかわからない。
 男爵がペンを走らせる時間さえも惜しく感じる。
 偵察用虫型ゴーレムからの映像はずっと送られてきているので、向こうの状況は分かっているのだけどね。
 まだそれほど悲惨なことにはなっていないが、馬に荷物のように載せられているし扱いが結構乱暴なので油断はできない。
 幸いなのは向こうの将校が女なことだろうか。
 同じ女としての慈悲などはあまり期待できないかもしれないが、本人が女には興味がないことが救いだ。
 しかし魔族は言ってはなんだが、脳筋だ。
 捕虜を取って身代金などを要求するようなタイプには見えないのだけどな。
 なぜ魔族軍は捕虜など取ったのだろうか。
 そもそもなんで静香さんは捕まってしまったのだろうか。
 虫型ゴーレムに録画機能は無い。
 俺もたまに戦場を覗いていて、たまたま静香さんが捕まっている状況を目にしただけなのでいまいち現状が掴めない。
 まずは男爵の書状が書け次第、王国騎士団本陣に状況を確認しに行くのが先決かな。
 
「シゲノブ殿、書けました。こちらをマリステラ卿に。ロードスの町のことは心配なさらなくても大丈夫です。お気をつけて行ってきてください」

「ありがとうございます。では少し行ってきます」

 俺はクロト湿原に建造された砦の近くに転移した。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スキル【アイテムコピー】を駆使して金貨のお風呂に入りたい

兎屋亀吉
ファンタジー
異世界転生にあたって、神様から提示されたスキルは4つ。1.【剣術】2.【火魔法】3.【アイテムボックス】4.【アイテムコピー】。これらのスキルの中から、選ぶことのできるスキルは一つだけ。さて、僕は何を選ぶべきか。タイトルで答え出てた。

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

強奪系触手おじさん

兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

処理中です...