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22.壁の拡張
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「やはり上級魔法は難しいですね」
「魔法陣が一気に複雑になりますからね。絵画でも描いている気分になってきますよ」
うるさい軍監との長々しい話も終わり、男爵と酒を酌み交わしながら魔法の話をする。
すでに壁の建設は終わり、20メートルほどの高さの外壁を築くことに成功した。
厚さは3メートルほどで、繋ぎ目の無いツルツルの壁だ。
爪を引っ掛ける隙間や出っ張りが無ければ、さすがの魔族でも登ってはこられないはず。
まだまだこれから内側の工事や壁の拡張工事はあるけれど、ひとまず見張りを立てて夜休めるだけの防備は築くことができた。
壁の周りには魔族の先遣隊と思われる1000人くらいの兵が終結していて、たまに矢が飛んでくる。
もっと拡張して矢も届かないほどの壁にしたいところだ。
「明日は私たちも築城に加わりましょうか」
「そうですね。そのためにも、上級の地魔法を練習しておきます」
男爵は上級までの実を食べているので、一応上級までの全ての魔法が使える。
だが、使いこなせるようになるにはそれなりの練習が必要だ。
俺は神巻きタバコによるブーストがあるので上達も早いが、男爵は結構苦戦しているようだ。
神巻きタバコの効果は神器所有者にしか作用しない。
俺にできるのはアドバイスと美味い酒、タバコを用意することだけだ。
今日の酒は白ワイン。
つまみは男爵領から空間収納に入れてたくさん持ってきた魚貝。
空間収納の中は時間が停止しているので、いつまでも新鮮なままなのだ。
今日はアクアパッツァにしてくれたみたいだ。
正確には俺がアクアパッツァと呼んでいるだけの男爵領の家庭料理だが。
色とりどりの野菜とイカや貝が飾るのは、中央に鎮座する鯛だ。
魚介から出た出汁やトマトの酸味、オリーブのやハーブの香り。
すべてが鯛のふっくらと柔らかな身に絡み、芸術品のような味を作り出している。
俺が男爵領の料理で一番好きなメニューだ。
きっと料理当番が俺に気を使って今日はこのメニューにしてくれたのだろう。
なんともありがたい。
この料理には酸味が強いすっきりとしたスペイン産の白ワインが良く合う。
男爵とふたり、終始無言で料理と酒を口に運ぶ。
本当に美味しいものを食べると無言になってしまう。
あとで料理当番にも白ワインを差し入れしておこう。
戦時中だから全員には酒を出せないのが心苦しい。
翌日。
今日も元気に土木作業。
魔族軍はどんどん集まって来ている。
すでに3000は超えているだろうか。
こちらは200だというのに、ずいぶんと本気じゃないか。
攻城戦は攻める側の兵数が3倍は必要だというが、その理屈ならばうちは200なので600いれば攻められる計算になるだろう。
それだけ1日で壁を建設した俺達を警戒しているのか。
昨日見せたゴーレムもまた、警戒を強めさせる要因になったのかもしれない。
さすがに外からわいわい矢を放たれたら落ち着いて築城できないから、俺は昨日歩兵型ゴーレムを400ばかり外に配置して矢を打たせないようにしていたのだ。
ゴーレムは走るか石の剣を振るくらいしかできないけれど、矢を撃たせないように牽制するだけならそれでも十分だった。
しかしゴーレムも数に入れられていたとしたら、向こうが3000も集めた理由も分からんでもない。
人間200とゴーレム400で600だから、3倍で1800。
ゴーレムはまだいると考えて、余裕をもって3000集めたのかも。
向こうとしてみてはここに砦を建設されるのは非常に困るだろう。
まだまだ集まってくるかもしれないな。
油断しないようにしつつ、建設を急ぐ。
「よし、こっちの壁は俺がやるよ」
「お願いします」
魔族領側の壁は俺がひとりで作ることにする。
これで大勢の人員を他の作業に割くことができる。
壁の大きさの目標は高さ50メートル、幅20メートルだ。
これだけの壁があったら鉄壁の要塞になるだろう。
俺が使うのも基本的に他の人と変わらない、初級魔法の土壁だ。
しかし俺は特級魔法を使えるだけの魔力量を持っているために、何度も連続で土壁を使うことができるのだ。
俺が特級魔法を使えることは男爵以外には話していないので、他の人には勇者補正みたいなものだと思われている。
実際異世界人というのは魔力の量が多いみたいだし、嘘ではない。
俺は土壁を連続発動して、どんどん壁を高く分厚くしていく。
中に人が入って矢とか魔法とか撃てるように銃眼のようなものも付けたい。
あとトイレとかも無いといちいち壁から下りて用を足すことになって大変だろう。
そのためには下水排出管を取り付けないといけないし、下水の処理もしないと疫病とか発生するし。
そのあたりの細かいことは中級魔法以上でないとできないから俺がやるしかない。
下水の処理とかどうすればいんだ。
ファンタジーの世界だとスライムとかの生態が人間に都合よくできているんだけどな。
この世界にもスライムはいるが、凶悪な粘菌みたいなやつで結構危険なんだ。
あんなものに下水処置をさせたら尻が酸で焼け爛れてしまうだろう。
やっぱり発酵させて堆肥にするしかないな。
寄生虫が怖いから殺虫魔法を小まめにかけることを徹底させなくては。
手柄を奪いに来た貴族には細かい説明はしないけどね。
3時間ほどの作業で壁の拡張が完了する。
自分でも結構良い出来だと思う。
「これはすばらしいですね」
「あ、男爵。そっちも終わりましたか。お疲れ様です」
「ええ、ちょっと時間はかかってしまいましたけど。お疲れ様です」
男爵が自分の作業を終えて俺の壁を見に来てくれた。
やっぱりいい物が出来たときは人に見て欲しいものだ。
これは自慢できる出来だと思う。
また今日も、良い酒が飲めそうだ。
「魔法陣が一気に複雑になりますからね。絵画でも描いている気分になってきますよ」
うるさい軍監との長々しい話も終わり、男爵と酒を酌み交わしながら魔法の話をする。
すでに壁の建設は終わり、20メートルほどの高さの外壁を築くことに成功した。
厚さは3メートルほどで、繋ぎ目の無いツルツルの壁だ。
爪を引っ掛ける隙間や出っ張りが無ければ、さすがの魔族でも登ってはこられないはず。
まだまだこれから内側の工事や壁の拡張工事はあるけれど、ひとまず見張りを立てて夜休めるだけの防備は築くことができた。
壁の周りには魔族の先遣隊と思われる1000人くらいの兵が終結していて、たまに矢が飛んでくる。
もっと拡張して矢も届かないほどの壁にしたいところだ。
「明日は私たちも築城に加わりましょうか」
「そうですね。そのためにも、上級の地魔法を練習しておきます」
男爵は上級までの実を食べているので、一応上級までの全ての魔法が使える。
だが、使いこなせるようになるにはそれなりの練習が必要だ。
俺は神巻きタバコによるブーストがあるので上達も早いが、男爵は結構苦戦しているようだ。
神巻きタバコの効果は神器所有者にしか作用しない。
俺にできるのはアドバイスと美味い酒、タバコを用意することだけだ。
今日の酒は白ワイン。
つまみは男爵領から空間収納に入れてたくさん持ってきた魚貝。
空間収納の中は時間が停止しているので、いつまでも新鮮なままなのだ。
今日はアクアパッツァにしてくれたみたいだ。
正確には俺がアクアパッツァと呼んでいるだけの男爵領の家庭料理だが。
色とりどりの野菜とイカや貝が飾るのは、中央に鎮座する鯛だ。
魚介から出た出汁やトマトの酸味、オリーブのやハーブの香り。
すべてが鯛のふっくらと柔らかな身に絡み、芸術品のような味を作り出している。
俺が男爵領の料理で一番好きなメニューだ。
きっと料理当番が俺に気を使って今日はこのメニューにしてくれたのだろう。
なんともありがたい。
この料理には酸味が強いすっきりとしたスペイン産の白ワインが良く合う。
男爵とふたり、終始無言で料理と酒を口に運ぶ。
本当に美味しいものを食べると無言になってしまう。
あとで料理当番にも白ワインを差し入れしておこう。
戦時中だから全員には酒を出せないのが心苦しい。
翌日。
今日も元気に土木作業。
魔族軍はどんどん集まって来ている。
すでに3000は超えているだろうか。
こちらは200だというのに、ずいぶんと本気じゃないか。
攻城戦は攻める側の兵数が3倍は必要だというが、その理屈ならばうちは200なので600いれば攻められる計算になるだろう。
それだけ1日で壁を建設した俺達を警戒しているのか。
昨日見せたゴーレムもまた、警戒を強めさせる要因になったのかもしれない。
さすがに外からわいわい矢を放たれたら落ち着いて築城できないから、俺は昨日歩兵型ゴーレムを400ばかり外に配置して矢を打たせないようにしていたのだ。
ゴーレムは走るか石の剣を振るくらいしかできないけれど、矢を撃たせないように牽制するだけならそれでも十分だった。
しかしゴーレムも数に入れられていたとしたら、向こうが3000も集めた理由も分からんでもない。
人間200とゴーレム400で600だから、3倍で1800。
ゴーレムはまだいると考えて、余裕をもって3000集めたのかも。
向こうとしてみてはここに砦を建設されるのは非常に困るだろう。
まだまだ集まってくるかもしれないな。
油断しないようにしつつ、建設を急ぐ。
「よし、こっちの壁は俺がやるよ」
「お願いします」
魔族領側の壁は俺がひとりで作ることにする。
これで大勢の人員を他の作業に割くことができる。
壁の大きさの目標は高さ50メートル、幅20メートルだ。
これだけの壁があったら鉄壁の要塞になるだろう。
俺が使うのも基本的に他の人と変わらない、初級魔法の土壁だ。
しかし俺は特級魔法を使えるだけの魔力量を持っているために、何度も連続で土壁を使うことができるのだ。
俺が特級魔法を使えることは男爵以外には話していないので、他の人には勇者補正みたいなものだと思われている。
実際異世界人というのは魔力の量が多いみたいだし、嘘ではない。
俺は土壁を連続発動して、どんどん壁を高く分厚くしていく。
中に人が入って矢とか魔法とか撃てるように銃眼のようなものも付けたい。
あとトイレとかも無いといちいち壁から下りて用を足すことになって大変だろう。
そのためには下水排出管を取り付けないといけないし、下水の処理もしないと疫病とか発生するし。
そのあたりの細かいことは中級魔法以上でないとできないから俺がやるしかない。
下水の処理とかどうすればいんだ。
ファンタジーの世界だとスライムとかの生態が人間に都合よくできているんだけどな。
この世界にもスライムはいるが、凶悪な粘菌みたいなやつで結構危険なんだ。
あんなものに下水処置をさせたら尻が酸で焼け爛れてしまうだろう。
やっぱり発酵させて堆肥にするしかないな。
寄生虫が怖いから殺虫魔法を小まめにかけることを徹底させなくては。
手柄を奪いに来た貴族には細かい説明はしないけどね。
3時間ほどの作業で壁の拡張が完了する。
自分でも結構良い出来だと思う。
「これはすばらしいですね」
「あ、男爵。そっちも終わりましたか。お疲れ様です」
「ええ、ちょっと時間はかかってしまいましたけど。お疲れ様です」
男爵が自分の作業を終えて俺の壁を見に来てくれた。
やっぱりいい物が出来たときは人に見て欲しいものだ。
これは自慢できる出来だと思う。
また今日も、良い酒が飲めそうだ。
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