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12.神樹の実
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「とりあえず、タバコはこのまま売り出しても大丈夫そうですね」
「ええ、男爵もハワードさんも身体が軽くなったり走るのが速くなったりは本当に無いんですよね」
「私は神酒のおかげか多少腹回りが引っ込んだんで身体が軽いというのは少し感じますけれど、ハワードは普段から鍛えていたので全くそんな感じは無いそうです」
「そうですか。まあひとまずは安心ですかね」
商品の供給を俺に頼っているために永続的には無理なものの、少しでも領の産業にできそうな商売が立ち上がるところなのだ。
できることならば成功させたい。
全く、俺の選んだ神器は次々と問題を引き起こしてくれる。
しかし神巻きタバコのおかげで俺の防備という問題はとりあえず解決したのではないだろうか。
本気で動いたら音速超えるような人間を捕まえられる奴はたとえ異世界でもなかなかいないと思う。
あの後町の外に出て本気で走ってみたら、衝撃波が生じるほどのスピードで走ることができた。
服とか破れて大変だった。
それと男爵領の兵隊さんたちに混ざって武術の稽古も始めた。
どれだけすごい身体能力があろうとも、それが制御できない力であるなら使いこなすことはできない。
具体的には、相手を生かしたまま捕らえるとかそういう繊細な力加減ができない。
戦争のために呼ばれておいてなんだが、俺は人はできるかぎり殺したくないんだ。
別に命が大事だからとかそういう綺麗な理由ではなくて単純に嫌なだけだ。
人を殺すことをよく手を汚すなどと表現するが、全くその通りだと思う。
きっと一人でも殺してしまえば今までどおりの自分ではいられないだろう。
俺はずっとこれからも酒とタバコの好きな冴えない中年でいたいんだ。
だから、そんなことにはならないように武術を習っている。
不器用な俺だけど、稽古は意外に順調だ。
神巻きタバコは能力を増幅する神器であるからして、おそらく脳の働きも増幅されているのだと思う。
でなければ一度見ただけの動きが次の瞬間できるようになるはずがない。
一瞬俺に眠っていた武術の才能が開花したのかと思ったよ。
ここまで来るともはや超チートだ。
2つのアタリ神器を持つということがどういうことなのか思い知った。
そんなわけなので身の危険はあまり心配いらなくなったのではないだろうか。
あとは男爵が政治的にやりこめられるとかそっち方面の心配でもしていればいい。
タバコの販売で、うまいこと味方を増やしていってほしいと思う。
なにせこのタバコはこの国で吸われている最上級の葉巻よりも香りが上質だ。
高い葉巻がいくらくらいするのかわからないけれど、きっと俺の給料などでは買えないくらいの金額なのではないかと思う。
葉巻の原料となるタバコの葉はこのあたりの国では栽培されていないのだ。
海を挟んだ反対側の大陸から船で輸入しているという話なので、庶民にはとてもではないが手が出せない値段だろう。
そんな高級品の葉巻を上回る香りのタバコなら、他の貴族に贈り物をしたり優先的に売ったりして恩を売ることも夢ではない。
立ち回りは難しいので男爵には頑張ってもらわなくては。
今日は男爵の好きなブランデーでも一緒に飲もう。
「お、実がついたな」
植木鉢に植えられた神樹の実が、やっと実をつけた。
しかしなにか変わった実だ。
花が4つ付いていたが、そのすべてが異なった形の実になっている。
一番小さいのは最初に女神様にもらった神樹の実(小)の形。
小さなどんぐりのような形だ。
そして次に小さいのはさくらんぼのような形の実。
色はアメリカンチェリーに近いような赤黒い色。
ちょっとおいしそうじゃないか。
そして次に小さいのが栗のような形の木の実。
いがぐりではなく、木にいがぐりの中身が直接生ったみたいな不思議な形。
色は栗と同じこげ茶色。
どんぐりと一緒で生ではちょっと食べたくないな。
そして最後、一番大きな木の実だ。
それは木の実というよりも芋のような形をしていた。
小豆色をした小さめのさつまいものような木の実。
それがぶら下がっていた。
いったこれはどういう状態なのだろうか。
1本の木から4種類の木の実が生るなんて、摩訶不思議なこともあるもんだ。
個人的にはアメリカンチェリーみたいな木の実とさつまいもみたいな木の実を食べてみたいな。
俺はとりあえず一番大きなさつまいもみたいな木の実をもぎ取ってみる。
特別柔らかいわけでもなく、そのままさつまいものような感触だ。
思っていたのとは違う形状の木の実が生ったことで、俺は若干の嫌な予感は感じている。
今は現実逃避がしたいんだ。
このさつまいもみたいな木の実でも焼いて食べよう。
俺は部屋に付いている暖炉に火を入れる。
火打石の使い方もそろそろ慣れてきた。
でもすぐにタバコが吸いたいときにはやっぱりライターが欲しいとか思ってしまうんだよな。
あのどんぐりみたいな木の実を食べれば、リゼさんのように指先から火を出せるようになるのだろうか。
嫌だなぁ。
だって効果の欄に神不味いって書かれていた。
不味いと分かっているものを食べたくはないな。
このさつまいものような木の実はおいしそうだけどな。
種火が出来たところに、細い木をくべて火を大きくしていく。
男爵家の使用人さんが毎日持ってきてくれる薪は、よく乾いているのであっという間に火は大きくなる。
さて、適当に削った木の棒に刺して焼いてみよう。
俺は遠火でじっくりと炙っていった。
火が燃える様をじっと1時間ほど見つめていただろうか。
ジュクジュクと木の実の中から蜜があふれ出してきた。
これは絶対うまい。
俺は皮も剥かずにかぶりついた。
とろけるような上質の口溶け。
そして甘い。
こちらの世界に来て甘味なんて神酒から湧き出す甘い酒くらいしか口にしていない。
俺はあっという間に木の実を食べ尽くしてしまった。
よし、男爵に甘い作物を育てるように進言しに行こうかな。
『ぴろりろりん♪シゲノブは全ての特級魔法を使えるようになった』
頭の中にそんな音声が響いて俺は一気に現実に引き戻される。
やっぱり、木の実もアタリだったか。
「ええ、男爵もハワードさんも身体が軽くなったり走るのが速くなったりは本当に無いんですよね」
「私は神酒のおかげか多少腹回りが引っ込んだんで身体が軽いというのは少し感じますけれど、ハワードは普段から鍛えていたので全くそんな感じは無いそうです」
「そうですか。まあひとまずは安心ですかね」
商品の供給を俺に頼っているために永続的には無理なものの、少しでも領の産業にできそうな商売が立ち上がるところなのだ。
できることならば成功させたい。
全く、俺の選んだ神器は次々と問題を引き起こしてくれる。
しかし神巻きタバコのおかげで俺の防備という問題はとりあえず解決したのではないだろうか。
本気で動いたら音速超えるような人間を捕まえられる奴はたとえ異世界でもなかなかいないと思う。
あの後町の外に出て本気で走ってみたら、衝撃波が生じるほどのスピードで走ることができた。
服とか破れて大変だった。
それと男爵領の兵隊さんたちに混ざって武術の稽古も始めた。
どれだけすごい身体能力があろうとも、それが制御できない力であるなら使いこなすことはできない。
具体的には、相手を生かしたまま捕らえるとかそういう繊細な力加減ができない。
戦争のために呼ばれておいてなんだが、俺は人はできるかぎり殺したくないんだ。
別に命が大事だからとかそういう綺麗な理由ではなくて単純に嫌なだけだ。
人を殺すことをよく手を汚すなどと表現するが、全くその通りだと思う。
きっと一人でも殺してしまえば今までどおりの自分ではいられないだろう。
俺はずっとこれからも酒とタバコの好きな冴えない中年でいたいんだ。
だから、そんなことにはならないように武術を習っている。
不器用な俺だけど、稽古は意外に順調だ。
神巻きタバコは能力を増幅する神器であるからして、おそらく脳の働きも増幅されているのだと思う。
でなければ一度見ただけの動きが次の瞬間できるようになるはずがない。
一瞬俺に眠っていた武術の才能が開花したのかと思ったよ。
ここまで来るともはや超チートだ。
2つのアタリ神器を持つということがどういうことなのか思い知った。
そんなわけなので身の危険はあまり心配いらなくなったのではないだろうか。
あとは男爵が政治的にやりこめられるとかそっち方面の心配でもしていればいい。
タバコの販売で、うまいこと味方を増やしていってほしいと思う。
なにせこのタバコはこの国で吸われている最上級の葉巻よりも香りが上質だ。
高い葉巻がいくらくらいするのかわからないけれど、きっと俺の給料などでは買えないくらいの金額なのではないかと思う。
葉巻の原料となるタバコの葉はこのあたりの国では栽培されていないのだ。
海を挟んだ反対側の大陸から船で輸入しているという話なので、庶民にはとてもではないが手が出せない値段だろう。
そんな高級品の葉巻を上回る香りのタバコなら、他の貴族に贈り物をしたり優先的に売ったりして恩を売ることも夢ではない。
立ち回りは難しいので男爵には頑張ってもらわなくては。
今日は男爵の好きなブランデーでも一緒に飲もう。
「お、実がついたな」
植木鉢に植えられた神樹の実が、やっと実をつけた。
しかしなにか変わった実だ。
花が4つ付いていたが、そのすべてが異なった形の実になっている。
一番小さいのは最初に女神様にもらった神樹の実(小)の形。
小さなどんぐりのような形だ。
そして次に小さいのはさくらんぼのような形の実。
色はアメリカンチェリーに近いような赤黒い色。
ちょっとおいしそうじゃないか。
そして次に小さいのが栗のような形の木の実。
いがぐりではなく、木にいがぐりの中身が直接生ったみたいな不思議な形。
色は栗と同じこげ茶色。
どんぐりと一緒で生ではちょっと食べたくないな。
そして最後、一番大きな木の実だ。
それは木の実というよりも芋のような形をしていた。
小豆色をした小さめのさつまいものような木の実。
それがぶら下がっていた。
いったこれはどういう状態なのだろうか。
1本の木から4種類の木の実が生るなんて、摩訶不思議なこともあるもんだ。
個人的にはアメリカンチェリーみたいな木の実とさつまいもみたいな木の実を食べてみたいな。
俺はとりあえず一番大きなさつまいもみたいな木の実をもぎ取ってみる。
特別柔らかいわけでもなく、そのままさつまいものような感触だ。
思っていたのとは違う形状の木の実が生ったことで、俺は若干の嫌な予感は感じている。
今は現実逃避がしたいんだ。
このさつまいもみたいな木の実でも焼いて食べよう。
俺は部屋に付いている暖炉に火を入れる。
火打石の使い方もそろそろ慣れてきた。
でもすぐにタバコが吸いたいときにはやっぱりライターが欲しいとか思ってしまうんだよな。
あのどんぐりみたいな木の実を食べれば、リゼさんのように指先から火を出せるようになるのだろうか。
嫌だなぁ。
だって効果の欄に神不味いって書かれていた。
不味いと分かっているものを食べたくはないな。
このさつまいものような木の実はおいしそうだけどな。
種火が出来たところに、細い木をくべて火を大きくしていく。
男爵家の使用人さんが毎日持ってきてくれる薪は、よく乾いているのであっという間に火は大きくなる。
さて、適当に削った木の棒に刺して焼いてみよう。
俺は遠火でじっくりと炙っていった。
火が燃える様をじっと1時間ほど見つめていただろうか。
ジュクジュクと木の実の中から蜜があふれ出してきた。
これは絶対うまい。
俺は皮も剥かずにかぶりついた。
とろけるような上質の口溶け。
そして甘い。
こちらの世界に来て甘味なんて神酒から湧き出す甘い酒くらいしか口にしていない。
俺はあっという間に木の実を食べ尽くしてしまった。
よし、男爵に甘い作物を育てるように進言しに行こうかな。
『ぴろりろりん♪シゲノブは全ての特級魔法を使えるようになった』
頭の中にそんな音声が響いて俺は一気に現実に引き戻される。
やっぱり、木の実もアタリだったか。
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