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8.おっさん向きの神器
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「それでは、これからの流れを説明します」
「お願いします」
「まず各陣営は一度自国、自領へ帰ります。その後3か月間は勇者様たちの訓練などの準備期間です。3か月が経過したら各陣営に割り振られた前線に向かうことになります。ただ、我が陣営には前線が割り振られないと思いますので指示された街なり街道なりの警備に向かうということになるでしょう」
「なるほど、でもそんなに悠長にしていてもいいのですか?」
「ええ、ここ数か月間は戦線は膠着状態になっているようですからおそらく大丈夫でしょう。敵に動きがあれば準備期間が短縮される可能性はありますが」
「わかりました」
ということは、俺はこれから男爵の領に向かうことになるのか。
男爵の領には海があるらしいし、食べ物はおいしいかもしれないな。
幸いにも酒もタバコもあるんだ。
あとは食べ物さえおいしければ完璧だ。
海鮮をつまみに日本酒でも飲みたい気分になってきた。
「では私は他の方々にあいさつしてまいりますので、少々お待ちください」
男爵はそう言って小走りで他の貴族の面々や王国騎士団のお偉いさんにあいさつに向かった。
弱小貴族は大変そうだ。
しかしルーガル王国には男爵よりも貧しい貴族がまだまだいるという。
男爵はこの場に参加できるギリギリの貴族だったみたいだ。
一代限りの準騎士爵などを合わせるとルーガル王国にはかなりの数の貴族がいるようだ。
その多くは領地が村1つみたいな貴族というよりも地方の豪族に近い人たちみたいだけれどね。
やがてあいさつ回りが終わった男爵が帰ってくる。
「では行きましょうか」
俺は男爵の後ろについて石造りの回廊を歩いていく。
ここはルーガル王国の王城だったみたいだ。
他の国よりも陣営の数が多かったのも、貴族がたくさんいるという理由だけではなかったのだ。
ステルシア聖王国やムルガ共和国にもまだ多くの権力者がいるようだが、地理的理由やルーガル王国のスクアード辺境伯のように前線に詰めているなどの理由で来られなかった人も多いらしい。
「どうです?ルーガル王国の王城は400年前に建設されたんですよ」
男爵が前を進みながらあれやこれやと説明してくれる。
あちらこちらに高そうな甲冑や絵画などが飾られていて、確かに自慢できそうな城だ。
ただ少し広すぎるような気もする。
攻め込まれたときのためなのか、白の中の通路はかなり入り組んでいてすでにかなりの距離を歩いた気がする。
いつもならば軽く息が切れて足が痛くなってきてもおかしくはないのだが、今日は不思議となんともない。
タバコのドーピング効果だろうか。
体力の衰えたおっさんにはありがたい神器だ。
俺は素晴らしい美術品の数々を拝見しながら王城を歩く。
壁にかかった絵は鮮やかな青の絵の具で海が描かれている。
この国ではまだ晩年のピカソのような具象的な美的センスは開花していないようで、なんとか俺のような庶民でも良さの分かる写実的な絵ばかりだ。
この国を含んだ三国は今危機的状況にあるはずなのだけど、なんだか実感できないな。
おそらく召喚された日本人の中に、三国の置かれた状況を把握して危機感を抱いている人は少ないはずだ。
俺も実感は湧いていない。
それどころか、まるで夢でも見ているようで現実である実感も湧いてこない。
「でも、現実なんだよな」
壁に飾ってあった甲冑の冷たい触感が、これが現実であると教えてくれる。
「あ、触っちゃダメですよ。怒られちゃいますから」
「す、すみません」
美術館にも作品に触れないでくださいと書かれているというのに、つい子供のようなことをしてしまった。
あまりにもピカピカなので本当に金属なのか確かめてみたかったのだ。
しっかりと冷たい金属だった。
城で働く人が毎日磨いているのかもしれない。
「もうすぐ城門に出ます」
「そうですか」
その言葉通り、回廊は終わり建物の外に出る。
城の外周には見上げると首が痛くなるような高い城壁がそびえたっていた。
「あれが王都の第一城壁です。そこから一番街が広がっており、第二城壁を隔てて二番街が広がっています。第二城壁の外側にも街はあるのですが、その外側には背の低い柵しかありません。その代わり土地の値段や税金は安いです」
「なるほど」
一番外側の街の人たちはいざというとき守ってくれる壁がないのか。
平時ならいざ知らず、この情勢の中では二番街に引っ越す人も多いんだろうな。
男爵は城門で家紋の入った短剣を見せる。
門番は軽く頭を下げて開門した。
筋肉執事と人妻メイド、男爵と俺の4人しか門から出る人は居ないというのに、大きな門をいちいち開門するのは手間だろう。
しかし下級とはいえ仮にも貴族に小さな通用口から出てくださいというわけにもいかないのかもしれない。
貴族というのはめんどくさいことばかりだな。
「一度一番街の屋敷に向かいます。そこで馬車に乗り、王都を出発します。お疲れでしょうが我が領は王都からの距離では他国とそう変わらない距離がありますから移動を急がせていただきます」
「はい。それほど疲れていないので大丈夫です」
疲れていないというのは本当のことだった。
小さなことだけど、俺は神器の力を実感している。
神巻きタバコの力なのか、神酒の力なのかはわからないけれど体調がすごくいいのだ。
所有者の能力を増幅するというタバコが俺の疲労回復能力を増幅してくれているのか、はたまたすごく身体に良いという神酒の健康パワーで疲れが取れているのか。
2つの相乗効果という可能性も考えられる。
神器にはアタリとハズレがあるらしいが、俺にとってこの2つの神器は大アタリだと思う。
残る一つの神器も、早く植木鉢にでも植えて育ててみたい。
つまみに最適なナッツ類が無限に出てくる神器にでもなってくれるかもな。
「お願いします」
「まず各陣営は一度自国、自領へ帰ります。その後3か月間は勇者様たちの訓練などの準備期間です。3か月が経過したら各陣営に割り振られた前線に向かうことになります。ただ、我が陣営には前線が割り振られないと思いますので指示された街なり街道なりの警備に向かうということになるでしょう」
「なるほど、でもそんなに悠長にしていてもいいのですか?」
「ええ、ここ数か月間は戦線は膠着状態になっているようですからおそらく大丈夫でしょう。敵に動きがあれば準備期間が短縮される可能性はありますが」
「わかりました」
ということは、俺はこれから男爵の領に向かうことになるのか。
男爵の領には海があるらしいし、食べ物はおいしいかもしれないな。
幸いにも酒もタバコもあるんだ。
あとは食べ物さえおいしければ完璧だ。
海鮮をつまみに日本酒でも飲みたい気分になってきた。
「では私は他の方々にあいさつしてまいりますので、少々お待ちください」
男爵はそう言って小走りで他の貴族の面々や王国騎士団のお偉いさんにあいさつに向かった。
弱小貴族は大変そうだ。
しかしルーガル王国には男爵よりも貧しい貴族がまだまだいるという。
男爵はこの場に参加できるギリギリの貴族だったみたいだ。
一代限りの準騎士爵などを合わせるとルーガル王国にはかなりの数の貴族がいるようだ。
その多くは領地が村1つみたいな貴族というよりも地方の豪族に近い人たちみたいだけれどね。
やがてあいさつ回りが終わった男爵が帰ってくる。
「では行きましょうか」
俺は男爵の後ろについて石造りの回廊を歩いていく。
ここはルーガル王国の王城だったみたいだ。
他の国よりも陣営の数が多かったのも、貴族がたくさんいるという理由だけではなかったのだ。
ステルシア聖王国やムルガ共和国にもまだ多くの権力者がいるようだが、地理的理由やルーガル王国のスクアード辺境伯のように前線に詰めているなどの理由で来られなかった人も多いらしい。
「どうです?ルーガル王国の王城は400年前に建設されたんですよ」
男爵が前を進みながらあれやこれやと説明してくれる。
あちらこちらに高そうな甲冑や絵画などが飾られていて、確かに自慢できそうな城だ。
ただ少し広すぎるような気もする。
攻め込まれたときのためなのか、白の中の通路はかなり入り組んでいてすでにかなりの距離を歩いた気がする。
いつもならば軽く息が切れて足が痛くなってきてもおかしくはないのだが、今日は不思議となんともない。
タバコのドーピング効果だろうか。
体力の衰えたおっさんにはありがたい神器だ。
俺は素晴らしい美術品の数々を拝見しながら王城を歩く。
壁にかかった絵は鮮やかな青の絵の具で海が描かれている。
この国ではまだ晩年のピカソのような具象的な美的センスは開花していないようで、なんとか俺のような庶民でも良さの分かる写実的な絵ばかりだ。
この国を含んだ三国は今危機的状況にあるはずなのだけど、なんだか実感できないな。
おそらく召喚された日本人の中に、三国の置かれた状況を把握して危機感を抱いている人は少ないはずだ。
俺も実感は湧いていない。
それどころか、まるで夢でも見ているようで現実である実感も湧いてこない。
「でも、現実なんだよな」
壁に飾ってあった甲冑の冷たい触感が、これが現実であると教えてくれる。
「あ、触っちゃダメですよ。怒られちゃいますから」
「す、すみません」
美術館にも作品に触れないでくださいと書かれているというのに、つい子供のようなことをしてしまった。
あまりにもピカピカなので本当に金属なのか確かめてみたかったのだ。
しっかりと冷たい金属だった。
城で働く人が毎日磨いているのかもしれない。
「もうすぐ城門に出ます」
「そうですか」
その言葉通り、回廊は終わり建物の外に出る。
城の外周には見上げると首が痛くなるような高い城壁がそびえたっていた。
「あれが王都の第一城壁です。そこから一番街が広がっており、第二城壁を隔てて二番街が広がっています。第二城壁の外側にも街はあるのですが、その外側には背の低い柵しかありません。その代わり土地の値段や税金は安いです」
「なるほど」
一番外側の街の人たちはいざというとき守ってくれる壁がないのか。
平時ならいざ知らず、この情勢の中では二番街に引っ越す人も多いんだろうな。
男爵は城門で家紋の入った短剣を見せる。
門番は軽く頭を下げて開門した。
筋肉執事と人妻メイド、男爵と俺の4人しか門から出る人は居ないというのに、大きな門をいちいち開門するのは手間だろう。
しかし下級とはいえ仮にも貴族に小さな通用口から出てくださいというわけにもいかないのかもしれない。
貴族というのはめんどくさいことばかりだな。
「一度一番街の屋敷に向かいます。そこで馬車に乗り、王都を出発します。お疲れでしょうが我が領は王都からの距離では他国とそう変わらない距離がありますから移動を急がせていただきます」
「はい。それほど疲れていないので大丈夫です」
疲れていないというのは本当のことだった。
小さなことだけど、俺は神器の力を実感している。
神巻きタバコの力なのか、神酒の力なのかはわからないけれど体調がすごくいいのだ。
所有者の能力を増幅するというタバコが俺の疲労回復能力を増幅してくれているのか、はたまたすごく身体に良いという神酒の健康パワーで疲れが取れているのか。
2つの相乗効果という可能性も考えられる。
神器にはアタリとハズレがあるらしいが、俺にとってこの2つの神器は大アタリだと思う。
残る一つの神器も、早く植木鉢にでも植えて育ててみたい。
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