上 下
8 / 205

8.おっさん向きの神器

しおりを挟む
「それでは、これからの流れを説明します」

「お願いします」

「まず各陣営は一度自国、自領へ帰ります。その後3か月間は勇者様たちの訓練などの準備期間です。3か月が経過したら各陣営に割り振られた前線に向かうことになります。ただ、我が陣営には前線が割り振られないと思いますので指示された街なり街道なりの警備に向かうということになるでしょう」

「なるほど、でもそんなに悠長にしていてもいいのですか?」

「ええ、ここ数か月間は戦線は膠着状態になっているようですからおそらく大丈夫でしょう。敵に動きがあれば準備期間が短縮される可能性はありますが」

「わかりました」

 ということは、俺はこれから男爵の領に向かうことになるのか。
 男爵の領には海があるらしいし、食べ物はおいしいかもしれないな。
 幸いにも酒もタバコもあるんだ。
 あとは食べ物さえおいしければ完璧だ。
 海鮮をつまみに日本酒でも飲みたい気分になってきた。

「では私は他の方々にあいさつしてまいりますので、少々お待ちください」

 男爵はそう言って小走りで他の貴族の面々や王国騎士団のお偉いさんにあいさつに向かった。
 弱小貴族は大変そうだ。
 しかしルーガル王国には男爵よりも貧しい貴族がまだまだいるという。
 男爵はこの場に参加できるギリギリの貴族だったみたいだ。
 一代限りの準騎士爵などを合わせるとルーガル王国にはかなりの数の貴族がいるようだ。
 その多くは領地が村1つみたいな貴族というよりも地方の豪族に近い人たちみたいだけれどね。
 やがてあいさつ回りが終わった男爵が帰ってくる。
 
「では行きましょうか」

 俺は男爵の後ろについて石造りの回廊を歩いていく。
 ここはルーガル王国の王城だったみたいだ。
 他の国よりも陣営の数が多かったのも、貴族がたくさんいるという理由だけではなかったのだ。
 ステルシア聖王国やムルガ共和国にもまだ多くの権力者がいるようだが、地理的理由やルーガル王国のスクアード辺境伯のように前線に詰めているなどの理由で来られなかった人も多いらしい。

「どうです?ルーガル王国の王城は400年前に建設されたんですよ」

 男爵が前を進みながらあれやこれやと説明してくれる。
 あちらこちらに高そうな甲冑や絵画などが飾られていて、確かに自慢できそうな城だ。
 ただ少し広すぎるような気もする。
 攻め込まれたときのためなのか、白の中の通路はかなり入り組んでいてすでにかなりの距離を歩いた気がする。
 いつもならば軽く息が切れて足が痛くなってきてもおかしくはないのだが、今日は不思議となんともない。
 タバコのドーピング効果だろうか。
 体力の衰えたおっさんにはありがたい神器だ。
 俺は素晴らしい美術品の数々を拝見しながら王城を歩く。
 壁にかかった絵は鮮やかな青の絵の具で海が描かれている。
 この国ではまだ晩年のピカソのような具象的な美的センスは開花していないようで、なんとか俺のような庶民でも良さの分かる写実的な絵ばかりだ。
 この国を含んだ三国は今危機的状況にあるはずなのだけど、なんだか実感できないな。
 おそらく召喚された日本人の中に、三国の置かれた状況を把握して危機感を抱いている人は少ないはずだ。
 俺も実感は湧いていない。
 それどころか、まるで夢でも見ているようで現実である実感も湧いてこない。
 
「でも、現実なんだよな」

 壁に飾ってあった甲冑の冷たい触感が、これが現実であると教えてくれる。
 
「あ、触っちゃダメですよ。怒られちゃいますから」

「す、すみません」

 美術館にも作品に触れないでくださいと書かれているというのに、つい子供のようなことをしてしまった。
 あまりにもピカピカなので本当に金属なのか確かめてみたかったのだ。
 しっかりと冷たい金属だった。
 城で働く人が毎日磨いているのかもしれない。

「もうすぐ城門に出ます」

「そうですか」

 その言葉通り、回廊は終わり建物の外に出る。
 城の外周には見上げると首が痛くなるような高い城壁がそびえたっていた。
 
「あれが王都の第一城壁です。そこから一番街が広がっており、第二城壁を隔てて二番街が広がっています。第二城壁の外側にも街はあるのですが、その外側には背の低い柵しかありません。その代わり土地の値段や税金は安いです」

「なるほど」

 一番外側の街の人たちはいざというとき守ってくれる壁がないのか。
 平時ならいざ知らず、この情勢の中では二番街に引っ越す人も多いんだろうな。
 男爵は城門で家紋の入った短剣を見せる。
 門番は軽く頭を下げて開門した。
 筋肉執事と人妻メイド、男爵と俺の4人しか門から出る人は居ないというのに、大きな門をいちいち開門するのは手間だろう。
 しかし下級とはいえ仮にも貴族に小さな通用口から出てくださいというわけにもいかないのかもしれない。
 貴族というのはめんどくさいことばかりだな。
 
「一度一番街の屋敷に向かいます。そこで馬車に乗り、王都を出発します。お疲れでしょうが我が領は王都からの距離では他国とそう変わらない距離がありますから移動を急がせていただきます」

「はい。それほど疲れていないので大丈夫です」

 疲れていないというのは本当のことだった。
 小さなことだけど、俺は神器の力を実感している。
 神巻きタバコの力なのか、神酒の力なのかはわからないけれど体調がすごくいいのだ。
 所有者の能力を増幅するというタバコが俺の疲労回復能力を増幅してくれているのか、はたまたすごく身体に良いという神酒の健康パワーで疲れが取れているのか。
 2つの相乗効果という可能性も考えられる。
 神器にはアタリとハズレがあるらしいが、俺にとってこの2つの神器は大アタリだと思う。
 残る一つの神器も、早く植木鉢にでも植えて育ててみたい。
 つまみに最適なナッツ類が無限に出てくる神器にでもなってくれるかもな。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

【旧作改訂】イレギュラー召喚で神器をもらえませんでした。だけど、勝手に付いてきたスキルがまずまず強力です

とみっしぇる
ファンタジー
途中で止まった作品のリメイクです。 底辺冒険者サーシャは、薬草採取中に『神器』を持つ日本人と共に危険な国に召喚される。 サーシャには神器が見当たらない。増えていたのは用途不明なスキルがひとつだけ。絶体絶命のピンチを切り抜けて、生き延びられるのか。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

生産性厨が異世界で国造り~授けられた能力は手から何でも出せる能力でした~

天樹 一翔
ファンタジー
 対向車線からトラックが飛び出してきた。  特に恐怖を感じることも無く、死んだなと。  想像したものを具現化できたら、もっと生産性があがるのにな。あと、女の子でも作って童貞捨てたい。いや。それは流石に生の女の子がいいか。我ながら少しサイコ臭して怖いこと言ったな――。  手から何でも出せるスキルで国を造ったり、無双したりなどの、異世界転生のありがちファンタジー作品です。  王国? 人外の軍勢? 魔王? なんでも来いよ! 力でねじ伏せてやるっ!  感想やお気に入り、しおり等々頂けると幸甚です!    モチベーション上がりますので是非よろしくお願い致します♪  また、本作品は小説家になろう、エブリスタ、カクヨムで公開している作品となります。  小説家になろうの閲覧数は170万。  エブリスタの閲覧数は240万。また、毎日トレンドランキング、ファンタジーランキング30位以内に入っております!  カクヨムの閲覧数は45万。  日頃から読んでくださる方に感謝です!

強奪系触手おじさん

兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

処理中です...