おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉

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5.各陣営2

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「最後はムルガ共和国にございます。ムルガ共和国は合議制の国で、陣営は10に分かれております。共和国議員の中でも特に力の強い10名がそれぞれこの場に来ておるようでございます」

 合議制の国か。
 各陣営の思惑が一番交錯してそうな国だ。
 
「共和国はとても裕福な国ですから待遇の面では一番良いかもしれません。共和国議員も一応は選挙によって選ばれるものですが、今回来ている議員はどの議員も親の代から議員をやってきたような人物ばかりですから地盤も固いです」

 金のある国っていうのはやっぱり魅力的だよな。
 けど待遇が良いってだけで選ぶと後で後悔するのは会社選びの基本だからな。
 重要なのは仕事内容と職場の雰囲気だ。
 
「各国の軍隊の規模はどんな感じなのですか?基本的に自国の国境線を守るということになっているのでしょうか」

「軍隊の規模もやはり裕福なムルガ共和国が一番大きいです。全軍で大体20万くらいでしょうか。次に我がルーガル王国ですかね。数は12万といったところ。最後がステルシア聖王国です。数は8万ほどだと聞いておりますね。各国の動き方は今のところまだ決まっていないのですよ」

 とにかく今は召喚勇者を勧誘することに専念して、作戦はその神器の力を吟味してからということかな。
 となると各国の役割がちょっと予想ができないな。
 あまり前線を引っ張るような国には付きたくないんだけどな。

「ただ、各国の得意な兵科というものもございますのでおおよその予想でしたらわかります。例えば我が国の王国騎士団でいえば、騎兵と重装歩兵の育成に力を入れております。ステルシア聖王国はなんといっても回復魔法を使える者の数が他の国とは段違いでございます。ムルガ共和国は弓兵の育成に長けております」

 話を聞くうちにルーガル王国の騎士団だけは無いような気がしてきた。
 きつい訓練を施されて重装歩兵として前線へ送り出される未来しか見えない。
 さすがに神器の力を発揮できない場所に配属されるとは思わないけれど。
 俺なんて戦闘向きの神器を持っていないから重装歩兵に仕立て上げられても普通の中年以下の力しか発揮できないぞ。
 
「どうでしたでしょうか?少しは参考になればいいのですが」

「ありがとうございました。ちょっと色々と話を聞いてみようと思います」

 俺はエドガーさんの元を離れ、各陣営を見て回る。
 すでに多くの召喚者たちがどの陣営についていくのか決めているようで、和やかに談笑している人たちもいる。
 旗を降ろしている人たちも出始めているな。
 いくら権力者であっても無限に金があるわけではないから雇える人の数にも限りがあるのは当然だ。
 十分な数の召喚勇者を自陣に雇い入れることができた陣営は帰り支度でもしているのだろう。
 ここにも出遅れた弊害が出てきてしまった。
 召喚者側からしてみれば条件がいいところが良いに決まっている。
 おそらく今定員に達して旗を降ろしている陣営は待遇的に他よりも良かったのだろう。
 俺は多少の焦りを感じながら各陣営の条件が書かれた看板を見ていく。

「衣食住完備、1か月金貨150枚。美人のメイド付き……」

 なかなか露骨な宣伝文句だ。
 しかしそんな感じの謳い文句が多いな。
 衣食住完備はうれしいし美人のメイドにも興味はあるが、金貨150枚というのが多いのか少ないのかわからない。
 一番ひと月の報酬が少ないのがあの旗を切り取られてしまっているルーガル王国の下級貴族のところか。
 そこはひと月金貨30枚という金額だった。
 俺は別に普通に生活できるだけの報酬がもらえればそれでいい。
 逆に好待遇のところに行ってしまうと、逃げたくなったときに申し訳なくなってしまう。
 薄給でこき使われていれば後ろ足で砂をかけても良心の呵責が少なく済む。
 俺は青い顔で作り笑いを浮かべている下級貴族の陣営の話を聞いてみることにした。
 
「すみません、お話をお聞きしてもよろしいですか?」

「どうぞどうぞ、こちらへお座りください」

 下級貴族の年齢は俺よりも10くらい上、アラフィフくらいだろうか。
 俺以外の人間は誰もこの陣営の話を聞きに来ていないようで、少し怖いくらいの作り笑顔で席を勧められる。
 他の陣営は若くて綺麗なメイドさんやイケメンの執事がお茶を淹れたりしているのだが、ここの陣営は少し歳がいっている。
 メイドさんの年齢は30そこそこで十分に美人だと思うのだが、なんというかちょっとジャンルが違うというか。
 どう見ても人妻メイドだ。
 執事も30は過ぎていそうな焼けた肌と白い歯が印象的なガテン系である。

「どうぞ……」

 お茶の出し方がちょっと商売女っぽい。
 あえて後ろに回ってお茶を差し出すことによって、俺の背中にメイドさんの身体が密着していい匂いが鼻腔をくすぐる。
 あざといなぁ。
 俺はお礼を言ってお茶に口を付けた。
 お茶は紅茶のようだったが、やけに渋味が強い。
 身体にはよさそうだ。
 
「我が領は何もないような辺鄙なところです。町が一つと村が3つの小さな領ですよ。今回の件で急遽見目のいいメイドと執事を探したのですが、しっかりとした教育を受けている者という条件で探した結果が娼館の経営者と漁業組合の組合長しか見つからなかったような領です」

 俺は人妻メイドさんと筋肉執事さんにチラリと目をやる。
 人妻メイドさんは色っぽい顔でにこりと笑い、筋肉執事さんは執事服をパツンパツンにしながらポージングして歯をキラリと光らせる。
 俺は即座に目を逸らした。
 なかなか個性的な領じゃないか。
 この色気のある人たちを目当てに話を聞きにくる人もいそうなものだが。

「うちは報酬も安いのです。月に金貨30枚といえば、一般的な家庭よりは少し多いですがそこまででもない。ルーガル王国の一般家庭の平均月収は金貨25枚くらいです。衣食住完備の金貨30枚ならば、多少の贅沢はできるでしょうがそれだけです。他の国や貴族とは比べ物にもなりません」

 俺はその程度でも十分なのだけどな。
 給料もそこまで薄給というわけではないのは分かったし、職場の雰囲気もこのメイドと執事で大体つかめた。
 あとは仕事内容だな。

「私共の強みとしては、それほど戦力として重要視されていないことくらいしかありません。我が領の兵数は200ほどですからものの数には数えられていないのです。そのために戦時中の街の警備などを手伝ったりする程度の仕事しか割り振られません。比較的安全なのだけが売りですかね」

 それは結構魅力的な条件だ。
 急に力を手に入れてしまった若者などはどうかわからないけれど、おっさんはわざわざ先陣切って戦いたいとは思わない。
 この陣営はなかなか俺向きかもしれないな。

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