犬神と始める田舎暮らし

兎屋亀吉

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6話

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 倒木は1メートルほどの岩の上に倒れていて、半分くらいが切ってくれといわんばかりに浮き上がっている。
 チェンソー初心者の最初の獲物としてはちょうどいい。
 俺はとにかく安全にだけは気をつけて木にチェンソーを当てていった。
 ブレードの上側に当てると自分のほうに刃が返ってくるという動画サイトの先生のおどしにビビッた俺は、慎重に慎重をきしてブレードの下側でそっと触れるように木を切断する。
 倒木は中肉中背の俺の腹回りよりも少し太いくらいの広葉樹の木だ。
 思ったよりも木の材質が硬かったけれど、35ccのエンジンは唸りをあげてあっという間に切断してしまった。
 チェンソー楽しい。
 こんな硬い木があっという間に切れてしまうなんて、縄文時代の人がこの光景を見たら卒倒してしまいそうだ。
 俺は夢中で木を切った。
 倒木の浮き上がっている部分がなくなるまで切って、その後こんなにバラバラにしてどうするんだと我にかえった。
 バラバラにしてしまったものはしょうがない。
 綺麗に切れた丸太2個を残して後は薪にしよう。
 そうなるとまたホームセンターに行って薪割り用の斧を買ってこないとな。
 楽しくなってきたよ。




 またホームセンターでいるものいらないものを買い溜め、戻ってきた。
 もちろん本来の目的である薪割り用の斧も買ってきた。
 薪割りとか一回やってみたかったんだよ。
 今のところ薪ストーブがあるわけでもないし、焚き火で調理するわけでもないので薪なんて必要ないが、これから建造する家には巻きストーブか囲炉裏のどちらかもしくは両方を設置したいので今のうちに薪を割っておいても無駄にはならないだろう。
 薪はよく乾燥させないと煙が出る。
 半年から1年くらい乾燥させるのが一般的だそうだ。
 ならば早く割って乾燥させておかねば。
 といっても薪を乾燥させておく場所もまだこれから作るので単純に今薪を割る理由は割りたいからだが。
 男なら誰でも一度は薪割りをしてみたいと思うものなんだ。
 しょうがないよ。
 俺は平地に転がした丸太を一つ立て、その上にもう一つ丸太を乗せる。
 そして斧を振りかぶると、思い切り振り下ろした。
 カンッという音を立てて斧が丸太に刺さる。
 だが全く割れる気配はない。
 そもそも刃が5センチも食い込んでない。
 最初はこんなもんかと思って俺は斧を引き抜こうとぐっと力を加えてみるが、びくともしない。
 どうすんのこれ。
 斧抜けないんだけど。
 丸太ごと持ち上げるなんて絶対無理だし。
 困った俺はスマホで『斧 抜けない』と検索する。
 3件目に薪割りの達人という写真つきでわかりやすく薪割りを解説してくれているサイトが出てきた。
 これはありがたいとよく読んでみるが、どうにもこの写真の人はこんなに大きな丸太を割っていない。
 もう1周りか2周りは細い丸太だ。
 これはこの説明どおりにやっても割れない可能性が高い。
 最後のほうにどうしても割れない場合はチェンソーで細かくするのも一つの手だということが書いてあったが、それは本当に最終手段にしたい。
 薪が割りたいのであって、別に薪が欲しいわけじゃないのだ。
 情報収集だ。
 俺はいつもの動画投稿サイトで薪割り動画を検索する。
 けっこうたくさん出てきた。
 その中にはかなり巨大な丸太を割っている動画もあったが、それは金属のクサビをハンマーで打ち込むやり方だった。
 そのハンマーも1回柄が折れてたし。
 またホームセンターに丈夫なハンマーと金属のクサビも買いに行かないとダメかもしれない。
 俺はあきらめて薪割りは後日やることにして、今日はポストと雨避けだけを先に作ってしまうことにした。
 早く作らないと郵便屋さんが困るからね。
 幸いにも木材を切るための台に良さそうな丸太はできている。
 これを台にして木材を切った。
 やはりなにも無い場所で切るより遥かに切りやすい。
 こうして足りないものを一つ一つ手に入れながら生活を豊かにしていくのがこの生活の魅力だな。
 俺はぎーこぎーこと木材を切り、ウィンウィンとネジを打ち込んでポストと雨避けを作っていった。
 2時間ほどでとりあえずの完成だ。
 あとは明日、スプレーニスで仕上げるだけだ。
 出来上がった大きめの鳥の巣箱みたいな雨避けに、ポストを設置してみる。
 なかなか綺麗にできている。
 これならこれから2×4工法で家を建ててもそれなりに見られるものが建てられる気がしてきた。
 そんなに甘くはないかもしれないけれど、家が出来上がるまでには多少なりとも大工仕事がうまくなるだろう。
 俺はそう信じながら、表札を書いていった。
 今はプラスティックのプレートに油性マジックで『真田』と書くだけだけれど、いずれはこの表札も趣のある木の板を使ったいい感じのやつに代えていきたい。
 さて、いつになるやら。
 そんな俺の思考に答えるように小梅が一声キャンと鳴いた。
 
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