スライムを出すだけのゴミスキルだと思ったけど妖精や精霊はこのドロドロが好きみたいです

兎屋亀吉

文字の大きさ
1 / 10

1.異世界転移

しおりを挟む
 いつもの通勤時間、いつもの満員電車、いつも通りつり革に両手をしっかり握りつけいざという時の保険を周囲にアピールする。
 しかしこの態勢は腕2本分のスペースを空けることになるので周囲からの圧迫は増し、ノーガードのあばら骨には隣のサラリーマンの鞄の金具が食い込む。
 たまにOLや女子高生と密着できてちょっとだけうれしい時もあるが、それは裏を返せば痴漢で訴えられるリスクと直面するということでもある。
 いくら両手でつり革をつかんで触ってないアピールをしたところで、息子が反応してしまったら訴えられる可能性は高い。
 たとえ反応していなかったとしても、下半身を押し付けてきたとか言われるだけでも俺のちっぽけな人生は吹き飛んでしまうことだろう。
 運転手付きの車で出社するまで出世したいとまでは思わないけれど、満員電車に乗る必要のない地位くらいまではなってみたいものだ。
 しかしよく考えたら俺が今年の春から働いている会社は、課長クラスになっても人によっては電車通勤しているんだった。
 俺なんてたぶん頑張っても40年かかって係長くらいが関の山だろう。
 この満員電車とも長い付き合いになりそうだ。
 そんなことを考えながら隣のサラリーマンの鞄の金具から逃れようと身じろぎしていると、突然いつになく電車が揺れた。
 急ブレーキの音もする。

「おいおい、事故か?」

「勘弁してくれよ」

「おわっ」

 周囲からの文句の声とともに揺れは大きくなり、ついには立っていられないほどになる。
 上に下にシェイクされてもはやどちらが上なのかもわからない。
 車内はまさに阿鼻叫喚で、悲鳴や怒号が吹き荒れる地獄と化した。
 照明は明滅し、意識も途切れ途切れになった。
 押しつぶされ、頭をぶつけ、蹴られた。
 ああ、やっぱ満員電車は最低だな。
 そんな思考を最後に俺は完全に意識を失った。






 なんだか夢を見ていた気がする。
 昔の夢だ。
 俺の実家は忍術を教える道場をしていた。
 怪しい道場ではなくれっきとした古武術の一種だ。
 近頃は某忍者漫画のおかげで道場の門下生も増えて商売は繁盛していた。
 大学まで行かせてもらえたのもひとえに岸〇先生のおかげと言えるだろう。
 そんな忍術道場の息子である俺は、小さい頃から父と祖父と一緒に稽古をしてきた。
 そんなに厳しい人たちではなかったから漫画のような修行をしてきたわけではないけれど、夏休みには実家の裏山で野営訓練と称したキャンプをした覚えがある。
 そんな楽しかったあの夏、みたいな夢を見ていた気がする。
 大人になってから子供のころの夏のこととかを思い出すと無性に叫びたいような気分になるときがあるが、今がその時だ。
 なぜ夏でもないのにこんな夢を見るのか。
 目をつぶったまま息をゆっくり吸い込むとその理由がだんだんわかってきた。
 この匂い、あの夏の匂いだ。
 少し湿り気を帯びた緑の匂い。
 森の匂いだ。
 ぱちりと目を開き完全に意識が覚醒した。

「森!?」

 起きたら森だったってそんな状況あるか?
 たまに酔っ払いの自慢話でどこどこで寝てたとか起きたらどこどこだったとか聞くが、俺は生憎と酒には強い体質なので前後不覚に陥った経験が全くない。
 そもそも酒なんて飲んでないし、最後の記憶は満員電車だ。
 そういえばなんか事故か何かが起こった気がするが、どうなったのだろうか。

「まさかあの世ってことはないだろう?」

 周囲を見回すと俺と同じように多くの人が横たわっていた。
 どうやらこんな状況になっているのは自分ひとりではないようで少しだけ安心した。
 しかしなんか見覚えあるなこの顔ぶれ。
 あの満員電車に乗ってた同じ車両の乗客じゃないか?

「やっぱりあの世?いやいやまさか……」

 あの世っていうのは河原があってその向こう側だと聞いている。
 ここはどうやら深い森の中のようだけど、川のようなものはどこにも見当たらない。
 よってここはあの世ではない。

「うっ、なんだここ……」

「なにこれ」

「なんなんだよ」

 どうやら周囲に倒れていた人たちが起きはじめたらしい。
 三人寄れば文殊の知恵というし、これだけ人がいればこの状況に心当たりがある人もいるかもしれない。
 どうでもいいけど文殊ってなんなんだろうな。
 なんだか気になりだしたら止まらない。
 俺はスーツのポケットに入っていたスマホを取り出し、検索エンジンを立ち上げるがインターネット接続ができないと表示される。
 右上の回線を確認すると圏外と表示されている。
 ここはいったいどこの森なんだろうか。
 俺のスマホは少し古めの機種だが大手携帯会社のもので、どこの田舎に行っても道路付近なら大体繋がるはずだ。
 圏外ということは車道が近くにないということだろう。
 俺はこの状況で会社に行かなきゃとか思えるほど社畜精神が染みついていないので、とりあえず家に帰りたいな。
 しかし道路が近くに無くてスマホも繋がらないとなると現在地の確認とかどうしたらいいんだろうな。
 太陽の位置とか星の方角とか、そういうのに詳しい人がいればわかるものなんだろうか。
 自衛隊の人とかいないかな。

「なあ、これってあれだよな」

「ああ、あれだよ」

「こんなのあれに決まってるだろ?」

「「「異世界転移キターーーーーー!!!」」」

 俺が自衛隊員を探してキョロキョロ見回していると、3人の高校生が突然叫びだした。
 ここにいた全員がびくりと肩を震わせて3人の高校生の方を見る。
 3人はガリ眼鏡、普通眼鏡、ぽっちゃり眼鏡といういかにも陰の者という見た目をしており、注目されることには慣れていないのか周りを見回して顔を赤くしている。
 しかしあの3人、確か異世界転移とか言ってたな。
 最近よく書店のラノベ売り場で見かけるフレーズだ。
 俺は二次元作品といえばお礼も兼ねて全巻新品で買った岸〇先生の忍者漫画と、その元アシスタントが作画を担当しているという続編しか知らないが、最近結構異世界ものが来ているくらいの知識はある。
 たぶんどこにでもいる普通の高校生とかが異世界に行ってなんやかんやする話なのだろう。
 え、それがキターーーーーってことはここは異世界だとあの3人は思ったわけ?
 そんなことがありえるんだろうか。
 そういえば変人物理学者が言ってたっけな。
 あり得ないなんてあり得ない。
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜

ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。 その一員であるケイド。 スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。 戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。 それでも彼はこのパーティでやって来ていた。 彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。 ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。 途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。 だが、彼自身が気付いていない能力があった。 ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。 その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。 自分は戦闘もできる。 もう荷物持ちだけではないのだと。 見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。 むしろもう自分を卑下する必要もない。 我慢しなくていいのだ。 ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。 ※小説家になろう様でも連載中

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

他人の寿命が視える俺は理を捻じ曲げる。学園一の美令嬢を助けたら凄く優遇されることに

千石
ファンタジー
【第17回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞】 魔法学園4年生のグレイ・ズーは平凡な平民であるが、『他人の寿命が視える』という他の人にはない特殊な能力を持っていた。 ある日、学園一の美令嬢とすれ違った時、グレイは彼女の余命が本日までということを知ってしまう。 グレイは自分の特殊能力によって過去に周りから気味悪がられ、迫害されるということを経験していたためひたすら隠してきたのだが、 「・・・知ったからには黙っていられないよな」 と何とかしようと行動を開始する。 そのことが切っ掛けでグレイの生活が一変していくのであった。 他の投稿サイトでも掲載してます。 ※表紙の絵はAIが生成したものであり、著作権に関する最終的な責任は負いかねます。

処理中です...