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お題:オムライスから見たあの子
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『転生を繰り返しているオムさん』
『──っし、わたしよ! 助けにきたわ』
わたしを見つめる少女に向かって、勢いよく声をかけた。
少女からの返事はない。
当たり前だ。
今のわたしはオムライスなのだ。
しかも、すでにオムライスとしての役目を終えているといっても過言ではない。
とうに製作者によって三角コーナーに捨てられた。
ゴミになってしまっているのだから。
『もう! どうにかしてこの少女とコミュニケーションをとらなくちゃなのに』
わたしは必死になって体を動かそうとする。
しかし、オムライスの体とはなんだろう。
そんなことを考えておろおろしている間に、少女がいまにも泣き出しそうな顔でささやいた。
「……私がゴミになりたかった」
その瞬間、わたしの体に衝撃が走る。
『いけないわお嬢さん! そんな自分を卑下してはいけない』
慌てて叫ぶように言ったが、当然ながら少女に声は届かない。
わたしはオムライス。
正確にいうと、わたしの名はオム・ラ・イス。
かつてこの世界に存在したイスという都市に住んでいた、オムというれっきとした元人間だ。
『毎度のことながら、こんな体でどうやって人助けなんてしろってのよ』
イスという都市は本当にすごかった。
なにがすごかったって、そりゃもうなにもかもだ。
なにせ都市を支配していた男が不思議な力を使って富を築き上げていたのだから。
不思議な力ってなんだそれと思うかもしれない。
馬鹿なことを言っていると呆れてしまうかもしれないが、本当に不思議な力を使っていた。
わたしを人の姿から食べ物に変えてしまい、なおかつ未来へ送ってしまうくらいには不思議な力だ。
たしか、妖精の力とか言う人もいたけれど、真相はもうわからない。
わからないから、わたしはその力を盗んで自分でも使ってみようと思ったのだ。
『まさか、盗みがみつかって呪いをかけられるなんて……』
力を盗めばわたしも金持ちになれると思った。
遊んで暮らせるようになりたいと願っただけなのに、気がつけば未来に飛ばされていた。
──はるか未来、とある国でオムライスという食べ物が生まれる。お前の名と似たその食べ物として、誰かの心を救えば元の人間の姿に戻してやる。
イスを支配していた不思議な力を使う男は、笑いながらわたしにそう言った。
あの男は楽しんでいる。
いまもきっと不思議な力を使って、どこかからわたしを見ているのだろう。
わたしが人ではないものに姿を変えさせられ、慌てふためいているのをあざ笑っているのだ。
『……まったく、無茶ぶりすぎるのよ。くやしいけど今回も駄目ね。いまにも意識が途切れそうだわ』
わたしがこの家で目覚めたとき。
おそらく目の前の少女の母親だろう、穏やかな笑顔でわたしを作っていた。
それがどうしたことか、泣きながら家を出て行ってしまったのだ。
この家はなにかしらの問題を抱えている。
ならば、オムライスとしてわたしができることはないか。
お弁当箱の中であれこれと作戦を考えていたはずだった。
『……そうだ。たしかお昼すぎにわたしを見つけたこの子が、目を輝かせて……』
わたしを見つけたときに嬉しそうな顔をした少女。
それなのに、いまはとても苦しそうな顔をしている。
『……わたしが話すことができたなら、いくらでも相談に乗ってあげるのになあ……』
いつかわたしがこの家に、再びオムライスとしてやってくることができたら。
今度こそ目の前の少女の心を救ってあげたい。
おいしいって笑わせてあげる。
わたしはイスの秘宝を盗もうとした女。
こんな少女の心ひとつくらい、簡単に救ってみせる。
『絶対ぜったいに、笑わせてあげる。そして、わたしは人間にもどってみせるんだから!』
キッチンの三角コーナーの中で、わたしは最後の声をあげて意識を失った。
『──っし、わたしよ! 助けにきたわ』
わたしを見つめる少女に向かって、勢いよく声をかけた。
少女からの返事はない。
当たり前だ。
今のわたしはオムライスなのだ。
しかも、すでにオムライスとしての役目を終えているといっても過言ではない。
とうに製作者によって三角コーナーに捨てられた。
ゴミになってしまっているのだから。
『もう! どうにかしてこの少女とコミュニケーションをとらなくちゃなのに』
わたしは必死になって体を動かそうとする。
しかし、オムライスの体とはなんだろう。
そんなことを考えておろおろしている間に、少女がいまにも泣き出しそうな顔でささやいた。
「……私がゴミになりたかった」
その瞬間、わたしの体に衝撃が走る。
『いけないわお嬢さん! そんな自分を卑下してはいけない』
慌てて叫ぶように言ったが、当然ながら少女に声は届かない。
わたしはオムライス。
正確にいうと、わたしの名はオム・ラ・イス。
かつてこの世界に存在したイスという都市に住んでいた、オムというれっきとした元人間だ。
『毎度のことながら、こんな体でどうやって人助けなんてしろってのよ』
イスという都市は本当にすごかった。
なにがすごかったって、そりゃもうなにもかもだ。
なにせ都市を支配していた男が不思議な力を使って富を築き上げていたのだから。
不思議な力ってなんだそれと思うかもしれない。
馬鹿なことを言っていると呆れてしまうかもしれないが、本当に不思議な力を使っていた。
わたしを人の姿から食べ物に変えてしまい、なおかつ未来へ送ってしまうくらいには不思議な力だ。
たしか、妖精の力とか言う人もいたけれど、真相はもうわからない。
わからないから、わたしはその力を盗んで自分でも使ってみようと思ったのだ。
『まさか、盗みがみつかって呪いをかけられるなんて……』
力を盗めばわたしも金持ちになれると思った。
遊んで暮らせるようになりたいと願っただけなのに、気がつけば未来に飛ばされていた。
──はるか未来、とある国でオムライスという食べ物が生まれる。お前の名と似たその食べ物として、誰かの心を救えば元の人間の姿に戻してやる。
イスを支配していた不思議な力を使う男は、笑いながらわたしにそう言った。
あの男は楽しんでいる。
いまもきっと不思議な力を使って、どこかからわたしを見ているのだろう。
わたしが人ではないものに姿を変えさせられ、慌てふためいているのをあざ笑っているのだ。
『……まったく、無茶ぶりすぎるのよ。くやしいけど今回も駄目ね。いまにも意識が途切れそうだわ』
わたしがこの家で目覚めたとき。
おそらく目の前の少女の母親だろう、穏やかな笑顔でわたしを作っていた。
それがどうしたことか、泣きながら家を出て行ってしまったのだ。
この家はなにかしらの問題を抱えている。
ならば、オムライスとしてわたしができることはないか。
お弁当箱の中であれこれと作戦を考えていたはずだった。
『……そうだ。たしかお昼すぎにわたしを見つけたこの子が、目を輝かせて……』
わたしを見つけたときに嬉しそうな顔をした少女。
それなのに、いまはとても苦しそうな顔をしている。
『……わたしが話すことができたなら、いくらでも相談に乗ってあげるのになあ……』
いつかわたしがこの家に、再びオムライスとしてやってくることができたら。
今度こそ目の前の少女の心を救ってあげたい。
おいしいって笑わせてあげる。
わたしはイスの秘宝を盗もうとした女。
こんな少女の心ひとつくらい、簡単に救ってみせる。
『絶対ぜったいに、笑わせてあげる。そして、わたしは人間にもどってみせるんだから!』
キッチンの三角コーナーの中で、わたしは最後の声をあげて意識を失った。
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