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お題:オムライスから見たあの子

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『かくれんぼ』



 ぼくは知っている。
 これは「かくれんぼ」っていう遊びだよね。
 君はいま、お家の中に隠れているんだ。
 朝、お母さんに見つかってしまって、君は鬼になった。
 
 お昼になって、君はようやくぼくを探しに来てくれた。
 お弁当箱の中にいるぼく。
 見つかっちゃった。
 見つかっちゃったね。
 今度はぼくが君を探しに行かなくちゃ。

 だけどね、ぼくは動けないんだ。
 ぼくはね、オムライスだから。
 誰かに助けてもらわないと、君を探しにいけない。
 もどかしいな。
 早く君の姿を見つけに行きたいのに、どうしてぼくはここから動けないんだろう。

 困っていたら、お母さんがやってきた。
 なんだか怒っている。
 ぼくを見つけた途端、ぼくを暗くて臭い場所に放り投げた。

 もしかして、ぼくがちゃんと「かくれんぼ」をできなかったことに怒っているのかな。
 ごめんなさい。
 ちゃんとできなくて、ごめんなさい。
 君を探しに行ってあげられなくて、ごめんなさい。
 暗くて臭い場所で、ぼくは何度も謝罪の言葉を口にして泣いていた。

 夜中にこっそりやってきた君。
 泣いている僕を見つけた。
 見つかっちゃった。
 見つかっちゃったね。
 そうか、また君が鬼になっていたんだ。

 泣いている僕を見て、なぜか君も泣きそうになっている。
 ごめんなさい。
 どうして君が泣きそうになっているかわからない。
 ぼくがちゃんと「かくれんぼ」をできなかったら、君も怒っているのかな。

 ごめんなさい。
 どうか泣かないで。
 次にうまれてくるときは、ちゃんと君と遊べるように頑張るから。
 だから、泣かないで。
 ごめんなさい。ごめんなさい。
 
 ああ、どうして。
 ぼくのからだはこんなにも未熟なのだろう。
 ああ、どうして。
 ぼくの望みはかなわないのだろう。

 もしも許されるのなら。
 君のそばに立って、寄り添って、笑いあいたい。
 ただ、普通でありたいだけなんだ。
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