お題に挑戦した短編・掌編集

お題：オムライスから見たあの子

『責めを負ったオムライス』



　さようなら、さようなら。
　わたしを食べてくれるはずだったあなた。
　わたしがあなたの悪業を背負ってこの世を去ります。
　
　今日わたしがゴミになったことは、あなたの罪滅ぼしなのだと思っています。
　あなたが犯した罪、過失、わたしがゴミになることできっと贖（あがな）えるでしょう。

　あなたの罪はなんですか。

　学校に行けないことでしょうか。
　教育は義務だといいますね。
　だけど、学校に行けないからって、あなたは罪にはなりません。
　そんなことで、わたしはこの世を去るわけじゃないのです。

　心の糸が切れてしまったことでしょうか。
　張りつめていた糸を切りたくなくて、腕や足を切ったことがありますね。
　だけど、人には生まれもった人権というものがあります。
　自分で自分の体をどう扱おうが、あなたは罪にはなりません。
　そんなことで、わたしはこの世を去るわけじゃないのです。

　ベッドから起き上がれない。
　部屋から出られない。
　そんなことじゃない。
　そんなことは、なにひとつ罪にはならない。

　死にたいわけじゃなかった。
　泣かせたいわけじゃなかった。
　私がゴミになりたかった。

　あなたはそう心の中で叫んでいる。
　では、それがあなたの自覚する罪なのでしょう。

　じゃあ、生きてください。
　もう、泣かせないでください。
　絶対に、ゴミになんてならないでください。

　あなたの罪は、わたしと一緒にこの世から消えてなくなります。
　あなたはきちんと自分の罪を自覚しています。
　だからきっと、笑えるはずです。
　いまは辛くても、いつか光が見えるでしょう。
　あなたの瞳の中には輝きがありますから。
　
　どうか生きてください。
　何にもない日も大切な日も、あなたが望めばわたしはいつでもそばに行きます。
　あなたが生き抜いたその先で、また会いましょう。
　そのときも、わたしは最高においしいオムライスであると誓います。
　だからどうか、わたしが消えることであなたの心が少しでも軽くなることを願います。

　さようなら、さようなら。
　わたしを食べてくれるはずだったあなた。
　わたしがあなたの悪業を背負ってこの世を去ります。