お題に挑戦した短編・掌編集

黒蜜きな粉

文字の大きさ
上 下
26 / 63

お題:オムライスから見たあの子

しおりを挟む
『オムライスの懇願』


 あの子の視線が私を憐れんでいた。
 まるで、段ボールに詰められて捨てられた子猫に向けるもののよう。
 顔をゆがめて、目に涙を浮かべて、優しい人に拾われてねって、そんな風に言われているみたいだ。

 そんな目を向けるくらいなら、こちらを見ないでほしい。
 いっそのこと、かわいそうだとはっきり口に出したらどうなんだと叫びたい。
 不憫に思うのなら、その手で私を払いのければいい。
 床に落ちた私を踏みつけて、唾を吐いて、罵ればいいじゃないか。

 ほんの少し嬉しそうな顔をしたから、期待してしまったんだ。
 私を食べておいしいって言ってくれるんじゃないか。
 私を連れてどこかへいってくれるんじゃないかって思った。
 私が見たことのない景色を見せてくれるんじゃないかって、夢をみてしまうじゃないか。

 どうして私を食べくれないのだろう。
 むしゃむしゃと口いっぱいに頬張ってほしい。
 あなたの喉を通って、あなたの深くまでは入りこんで、あなたに溶かされてひとつになりたい。
 あなたの体の一部になって、ずっと一緒にいたいだけなんです。

 どうか私を口にしてほしい。
 ひとりきりになんてさせないと誓う。
 ここは寒い。
 暗い。
 もうなにも見えない。
 私をここに置いていかないでください。

 私ならあなたをひとりで苦しませたりしないから。
 ゴミになりたいなんて言わせないから。
 辛いなら私を噛み砕いていいから。
 自分の手足を切るのはもうやめてください。

 そばにいて。
 また私を見て目を輝かせてほしい。
 悲しい顔をしないで。
 おいしいって言って笑う、あなたの姿が見たいだけなんです。

 私の中にはたくさんの愛が詰まっている。
 ふわふわ優しく包み込んであげるから。
 だからどうか、私の愛を受け取ってください。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

古屋さんバイト辞めるって

四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。 読んでくださりありがとうございました。 「古屋さんバイト辞めるって」  おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。  学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。  バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……  こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか? 表紙の画像はフリー素材サイトの https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

妻への最後の手紙

中七七三
ライト文芸
生きることに疲れた夫が妻へ送った最後の手紙の話。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...