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お題:オムライスから見たあの子

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『おしゃべりオムライス』



 オムライスってね、日本が発祥なんだ。
 意外だったかな。
 僕ってこう見えて、日本人なの。
 僕とあなたはこんなに姿が違うけれど、意外なところに共通点があるでしょ。

 出身地はね、よく覚えていないんだ。
 大阪の心斎橋だったか、東京の銀座だったかな。
 たぶんどっちも正しいような気がするけれど、どっちだっていいさ。
 今の僕にとって、そんなことは小さなことだから。

 星つきホテルのレストランから、下町の洋食屋さん。
 1Kアパートのひと口コンロのキッチンから、分譲タワーマンションの広々としたシステムキッチンまで。
 どこにだって、僕はいる。
 
 ごめんね。
 たわいもない話に聞こえてしまったかな。
 だけど、もう少しだけおしゃべりをさせてほしい。

 僕はね、どんな場所にだって駆けつけられるって伝えたかったんだ。
 今日だってさ、あなたの家のキッチンにやってきたでしょ。
 だからね、僕にとって出身地なんて重要じゃない。
 そんなことは些細なことだよ。

 あなたは自分が何者であるのか、自分のルーツを知りたがっていたね。
 自分という存在が、どうして今ここで生きているのか。
 自分がどこから来て、これからどこへ行こうとしているのか。

 たしかに出身地は自分を構成する一つの要素だ。
 だけどさ、自分を作るものはそれが全てじゃない。
 そんなことを突き詰めて考えたって、望む答えはでないはずさ。
 だって、正解のある悩みじゃない。

 ああ、ごめんね。
 これは僕の考えだ。
 押しつけるつもりはなかったけれど、苦しめてしまったかな。
 僕の存在は君の心を傷つけてしまったみたいだ。
 三角コーナーにいる僕を見て、ゴミになりたいなんて言うくらいだものね。

 どうせ大切な人を傷つけてしまったと、後悔をしているんだろ。
 悔いることは良いことさ。
 心が動いている証拠なのだから。
 いっぱいいっぱい悩むといいよ。
 それがあなたにできる今を生きるってことじゃないかな。

 今日はあなたの心を僕が背負うよ。
 こういうのはね、持ちつ持たれつなんだ。
 傷をつけたっていいんだよ。
 だって、あなたはたくさん傷ついたでしょう。
 心の糸が切れるくらい、辛いことがあったんだよね。

 たくさん傷ついたから、今度はちょっぴりあなたが誰かを傷つける番なだけ。
 僕があなたに傷つけられる番だっただけさ。
 誰かに傷つけられて、誰かを傷つける。
 そんなのは当たり前のことで、深く考えることじゃない。
 誰も傷つけずに生きていけるなんて思うのは傲慢なんだってこと、いつか知ってほしいな。 

 気力がないなら、今はゆっくりやすみなさい。
 少し元気になったら、今度は僕があなたを傷つけにくるから。
 覚悟していて。
 僕はあなたみたいに優しくない。
 切り刻まれて、炎で焼かれても、僕は平気だから。
 何度だってあなたの前に姿をみせるよ。

 おいしいって、笑顔で言ってくれるまで。

 それじゃあ、またね。
 僕と会う日まで、せいぜい長生きしなよ。
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