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お題:オムライスから見たあの子
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『オムライスの怒り』
私は怒っている。
私がリビングの机の上に置かれてから、かれこれ二時間が過ぎた。
あの子のために、お母さんが泣きながら作ってくれたおいしい私。
そんな私を一人ぼっちにさせるなんて、絶対に許せない。
お母さんは、わざわざお弁当箱に私を詰めてくれた。
その意味を、きちんと考えて欲しい。
ただ食べてもらいたいだけなら、そんな手間をかけたりしないってわかるはず。
私にはたくさんの記憶がある。
私の体を作り上げているもの。
鶏もも肉、玉ねぎ、卵、ごはん、牛乳……。
細かい調味料をいれたらもっとたくさん。
この家にやってくるまでの間に、かかわってきた人や物の思い出が、私の中には詰まっている。
お弁当箱が用意されているのを見たとき、今度はどこへ行ってどんな出会いがあるのか。
そんな風に期待してしまった私は悪くない。
一人の時間が長くなればなるほど、怒りがふくらんでくる。
鶏の面倒を見てくれていたおじさんに、玉ねぎを作ってくれたおばさん、お米を育ててくれたお兄さんに、牛の世話をしてくれていたお姉さん。
私がこれまで出会ってきた人たち。
みんなみんな、一生懸命だった。
朝早くに起きて、汗水たらして必死に生きていたよ。
そうして生まれた私の大切な体の一部。
それをあの子はちらりと見ただけで、さっさといなくなった。
そんなことが許せるわけない。許しちゃいけない。
鼻息荒く怒ってやると決意していたのに、次に私のもとへやってきたのはお母さん。
お母さんは小さくため息をついて、私をキッチンの三角コーナーへ投げ捨てた。
私は生ゴミまみれになってしまった。
だけど、それは仕方がないこと。
私がお弁当箱に詰められて二時間が過ぎ、三時間経ち、いつの間にか太陽が地平線の彼方へ消えていった。
その長い長い時間の間に、私は少しずつ朽ちていた。
とてもじゃないけれど、今の私は誰かが口にできる状態じゃなかった。
みんな、みんなごめんね。
ごめんなさい。
おいしくなってねって、育ててくれたのに。
おいしいって言ってもらいなさいって、送り出してくれたのに。
私、おいしく食べてもらえなかった。
ゴミになっちゃった。
あんなに愛情深く育ててくれたのに。
許してもらえないよね。
みんなの努力が無駄になっちゃった。
こんなはずじゃなかった。
こんな風になりたくはなかった。
どうして私、ゴミになってしまったのかな。
ゴミになった私。
汚いな、臭いな。
こんな姿みんなには見せられないよ。
……ああ、そろそろ意識がなくなりそうだ。
悔しい、悲しい。
お弁当の蓋を開けたあのとき、どこへ行けなくてもいいから食べてくれたら良かったのにな。
夜遅くになって、あの子がキッチンにやってきた。
私は最後の力を振り絞って、あの子をにらみつける。
怒ってやるつもりだったのに、もうそんな気力もない。
あまりに情けなくて、私は絶望感に包まれていた。
そんな私を見ているあの子の顔は、みっともなく歪んでいた。
私以上に悲観した顔をしている。
そんな表情をされたら、何も言えない。
恨み言なんてどこかへいってしまった。
ねえ、あなたも悔しいの?
胸が苦しいの?
それとも、悲しくてたまらないのかな?
いまの私にはその気持ちがわかってしまう。
そうだね。きっと感情のやり場がないんだ。
どうか生きて。
あなたは私の分も長生きしてください。
生きて生きて、次に会うオムライスには「おいしい」って言ってあげてほしい。
きっとふわふわの卵で、あなたの心を優しく包んでくれるから。
私は怒っている。
私がリビングの机の上に置かれてから、かれこれ二時間が過ぎた。
あの子のために、お母さんが泣きながら作ってくれたおいしい私。
そんな私を一人ぼっちにさせるなんて、絶対に許せない。
お母さんは、わざわざお弁当箱に私を詰めてくれた。
その意味を、きちんと考えて欲しい。
ただ食べてもらいたいだけなら、そんな手間をかけたりしないってわかるはず。
私にはたくさんの記憶がある。
私の体を作り上げているもの。
鶏もも肉、玉ねぎ、卵、ごはん、牛乳……。
細かい調味料をいれたらもっとたくさん。
この家にやってくるまでの間に、かかわってきた人や物の思い出が、私の中には詰まっている。
お弁当箱が用意されているのを見たとき、今度はどこへ行ってどんな出会いがあるのか。
そんな風に期待してしまった私は悪くない。
一人の時間が長くなればなるほど、怒りがふくらんでくる。
鶏の面倒を見てくれていたおじさんに、玉ねぎを作ってくれたおばさん、お米を育ててくれたお兄さんに、牛の世話をしてくれていたお姉さん。
私がこれまで出会ってきた人たち。
みんなみんな、一生懸命だった。
朝早くに起きて、汗水たらして必死に生きていたよ。
そうして生まれた私の大切な体の一部。
それをあの子はちらりと見ただけで、さっさといなくなった。
そんなことが許せるわけない。許しちゃいけない。
鼻息荒く怒ってやると決意していたのに、次に私のもとへやってきたのはお母さん。
お母さんは小さくため息をついて、私をキッチンの三角コーナーへ投げ捨てた。
私は生ゴミまみれになってしまった。
だけど、それは仕方がないこと。
私がお弁当箱に詰められて二時間が過ぎ、三時間経ち、いつの間にか太陽が地平線の彼方へ消えていった。
その長い長い時間の間に、私は少しずつ朽ちていた。
とてもじゃないけれど、今の私は誰かが口にできる状態じゃなかった。
みんな、みんなごめんね。
ごめんなさい。
おいしくなってねって、育ててくれたのに。
おいしいって言ってもらいなさいって、送り出してくれたのに。
私、おいしく食べてもらえなかった。
ゴミになっちゃった。
あんなに愛情深く育ててくれたのに。
許してもらえないよね。
みんなの努力が無駄になっちゃった。
こんなはずじゃなかった。
こんな風になりたくはなかった。
どうして私、ゴミになってしまったのかな。
ゴミになった私。
汚いな、臭いな。
こんな姿みんなには見せられないよ。
……ああ、そろそろ意識がなくなりそうだ。
悔しい、悲しい。
お弁当の蓋を開けたあのとき、どこへ行けなくてもいいから食べてくれたら良かったのにな。
夜遅くになって、あの子がキッチンにやってきた。
私は最後の力を振り絞って、あの子をにらみつける。
怒ってやるつもりだったのに、もうそんな気力もない。
あまりに情けなくて、私は絶望感に包まれていた。
そんな私を見ているあの子の顔は、みっともなく歪んでいた。
私以上に悲観した顔をしている。
そんな表情をされたら、何も言えない。
恨み言なんてどこかへいってしまった。
ねえ、あなたも悔しいの?
胸が苦しいの?
それとも、悲しくてたまらないのかな?
いまの私にはその気持ちがわかってしまう。
そうだね。きっと感情のやり場がないんだ。
どうか生きて。
あなたは私の分も長生きしてください。
生きて生きて、次に会うオムライスには「おいしい」って言ってあげてほしい。
きっとふわふわの卵で、あなたの心を優しく包んでくれるから。
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