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お題:オムライスから見たあの子

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※ここからしばらく同じお題のお話が続きますが、すべて一話完結です。
 「オムライス」という楽曲を聴いて物語を書くお題となっておりました。



『オムライスちゃん』


「ひさしぶりだね!」

 目の前が急に明るくなった。
 まぶしさに目がくらみそうになったけれど、私は元気よくあいさつをした。

 目の前にはかわいい女の子。
 お弁当の蓋を手にしたまま、私を見つめている。

 私は明るく声をかけたつもりだったけれど、目の前の女の子からは返事がない。
 聞こえなかったのかな?
 私はもういちど大きな声であいさつをする。

「おはよう!」

 女の子がお弁当の蓋を開けたとき、ほんの少しだけ目を見開いた。
 笑った気がしたのに、気のせいだったのかな。
 今はとても悲しそうな顔をして、私をじっと見ている。

「そっか、もうおはようじゃないよね。こんにちはの時間かな?」

 私は笑いながら、おどけた調子で女の子へ声をかける。
 それでも女の子からの返事はない。

 そのまま目の前が暗くなった。
 お弁当の蓋が閉められてしまったのだ。

「……今日の私は、あんまりおいしそうじゃなかったのかな?」

 暗闇の中、私は自分に問いかけた。
 そういえば、いつも笑顔で私を作ってくれる人が、今日は泣いていた。

「いいえ! 私は絶対においしいわ。きっと玉ねぎが目にしみただけだよね」

 私は女の子がまた蓋を開けてくれるのを、待ち焦がれていた。
 
 

 次に目の前が明るくなったのは、ずいぶんと時間が経ったころ。
 私を作ってお弁当箱に詰めてくれた人、その人はまた泣いていた。
 泣いたまま、私を狭くて生臭い場所に放り込んだ。
 私は自分が捨てられてしまったのだと、すぐにわかった。

「今日は暑かったものね。長い時間リビングの机の上に置きっぱなしじゃ、さすがに食べられないわね」

 私は綺麗、とってもおいしい。
 女の子は私が好きだと言っていた。
 今日の私は、いつも通り綺麗だった。
 だから、絶対においしいはずだ。

 女の子に食べてもらいたかったな。
 おいしいって、言ってもらいたかった。
 私を口にしたあの子のかわいらしい笑顔がみたかったの。


 気がついたら、女の子が私をのぞき込んでいた。
 女の子は今にも泣きだしそうな顔をしている。

 そりゃそうよね。
 こんなに綺麗でおいしそうなオムライス、食べられなかったら悔しいわよね。
 悲しそうな顔をしているけれど、やっぱりこの子はかわいい。
 食べ物を粗末にしてしまったって、良心が痛むのね。

 大丈夫だよ。
 今日はたまたま気温が高かっただけだもの。
 明日なら机の上に置きっぱなしでも平気かもしれないわ。

 ……あ、でもやっぱり今度は冷蔵庫にしまいましょうね。
 私は冷たくなっても平気よ。電子レンジで温めればいいの。
 電子レンジで温められたって、私は綺麗なままだから。

 ……あ、でも蓋はちゃんと外してね。
 お弁当の蓋ってね、電子レンジ非対応のものが多いのよ。
 さすがの私でも、蓋が溶けちゃったら綺麗ではいられないわ。
  
 冗談よ、泣かないで。
 ゴミになりたいだなんて言わないで。
 食べ物を捨てるのはもったいないって思っちゃうわよね。
 とても悪いことだって、気にしちゃうよね。

 私はわかっているよ。
 あなたはとっても優しい子。
 こういうことで後ろめたくなってしまうくらい思いやりのある子だって。
 だからね、私はあなたに優しい気持ちになれるんだよ。

 生きていれば、たまにはこんな日だってあるわ。
 今の私はあなたから見ればゴミなのかもしれない。
 でもね、ちょっとだけ姿が変わってしまっただけなのよ。
 
 だからね、傷つかないで。
 ゴミだなんて言わないで。
 今度こそ私があなたにおいしいって言わせてあげる。
 笑顔にさせてみせるから。

 きっとまた、すぐに会えるわ。
 オムライスっておいしいの。
 あなたも知っているはずでしょ?
 すぐに食べたくなっちゃうの、わかっているんだから。

 ねえ知ってる? もうすぐ新玉ねぎの時期だね。
 新玉ねぎは甘いから、きっといつもより私はおいしくなれるはずだよ。
 楽しみにしていてね。

 今度はすぐに食べてね。
 ちゃんとおなかを空かせておいて。
 大丈夫よ、生きてるだけでおなかは空くから。
 あなたがおなかを空かせたら、私はいつだって傍にいくわ。

 私はいつでもあなたの心の中にいるよ。
 おなかが空いたら思い出してね。
 あなたの心の中で、私は綺麗に輝いているから。
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