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お題:入道雲
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『雷三日』
私の住んでいた田舎では「雷三日」という言葉をよく耳にした。
これは言葉のままの意味で、雷は発生すると三日ぐらい続くということ。
いちど雷が鳴り出すと、たいてい翌日、翌々日と夕立がくる。
「……あ、入道雲だ。今日何日目だっけ?」
「二日目だね。風向き的にあと30分くらいしたらこっちにきて鳴りだすかもね」
なんて会話が学生のころから日常的に行われていた。
そのため、私は地元を出て、この雷三日が通じないことに驚いた。
なにより、夏に毎日のように雷が鳴らないことに衝撃を受けた。
「あ、あの雲なんだっけ。雷が鳴るやつじゃん。やだな、これから雨が降るのかな?」
「入道雲、積乱雲ってやつだね。あの感じならまだしばらく雨は降らないよ」
「すご、なんでそんなことわかるの? もしかしてお天気キャスター志望?」
「……んなわけあるか。これくらいでお天気キャスター目指せるなら、うちの地元の人間テレビ局に殺到しちゃうよ」
大学進学のために上京した最初の夏、友人とこんな会話をしたことを覚えている。
雷三日。
これにはちゃんと理由がある。
雷が発生しやすくなるのは、上空の大気が不安定なとき。
夏場は気圧配置が変わりにくいため、上空の寒気が去るまで三日程度かかることが多い。
そのため、地上と上空の温度差が大きくなっていちど積乱雲が発生してしまうと、三日ほど雷が鳴り続けてしまうのだ。
私の地元では農業が盛んにおこなわれていた。
この時期は田植えが終わった直後である上に、夏野菜の時期であるから雷雨に敏感にならざるを得ないのだろう。
天気に詳しくなるのは日々の生活の知恵、その程度のものなのだ。
「うーん、この後はどうしよっか。この間オープンしたっていう駅前のカフェに行く?」
友人と映画を見に来た。
午後いちばんの時間の映画が終わったのは、ちょうど小腹がすく三時前。
私は映画館のあるショッピングセンターの窓から空を見上げる。
「もうすぐゲリラ豪雨がきそうだね。駅前のカフェは諦めて、近くのカフェにすぐ入ったほうがいいかも」
「でたー! お天気お姉さん。わかった、近くのカフェをさくっと調べるね」
大学での私のあだ名はお天気お姉さん。
晴れ女とか、雨女とか、そういわれるならまだしも、お天気お姉さんは恥ずかしい。
「ねえ、構内ならいいけどさ。外でお天気お姉さんはやめてって」
「あはは、いいじゃんいいじゃん。特技なんだから自慢していいんだよ」
友人はそう笑ってから、スマホで見つけた近くのカフェに向かって歩き出した。
私はその後をため息をついてから笑って追いかけた。
入道雲を見ると思い出す、学生時代の何気ない日常。
私の住んでいた田舎では「雷三日」という言葉をよく耳にした。
これは言葉のままの意味で、雷は発生すると三日ぐらい続くということ。
いちど雷が鳴り出すと、たいてい翌日、翌々日と夕立がくる。
「……あ、入道雲だ。今日何日目だっけ?」
「二日目だね。風向き的にあと30分くらいしたらこっちにきて鳴りだすかもね」
なんて会話が学生のころから日常的に行われていた。
そのため、私は地元を出て、この雷三日が通じないことに驚いた。
なにより、夏に毎日のように雷が鳴らないことに衝撃を受けた。
「あ、あの雲なんだっけ。雷が鳴るやつじゃん。やだな、これから雨が降るのかな?」
「入道雲、積乱雲ってやつだね。あの感じならまだしばらく雨は降らないよ」
「すご、なんでそんなことわかるの? もしかしてお天気キャスター志望?」
「……んなわけあるか。これくらいでお天気キャスター目指せるなら、うちの地元の人間テレビ局に殺到しちゃうよ」
大学進学のために上京した最初の夏、友人とこんな会話をしたことを覚えている。
雷三日。
これにはちゃんと理由がある。
雷が発生しやすくなるのは、上空の大気が不安定なとき。
夏場は気圧配置が変わりにくいため、上空の寒気が去るまで三日程度かかることが多い。
そのため、地上と上空の温度差が大きくなっていちど積乱雲が発生してしまうと、三日ほど雷が鳴り続けてしまうのだ。
私の地元では農業が盛んにおこなわれていた。
この時期は田植えが終わった直後である上に、夏野菜の時期であるから雷雨に敏感にならざるを得ないのだろう。
天気に詳しくなるのは日々の生活の知恵、その程度のものなのだ。
「うーん、この後はどうしよっか。この間オープンしたっていう駅前のカフェに行く?」
友人と映画を見に来た。
午後いちばんの時間の映画が終わったのは、ちょうど小腹がすく三時前。
私は映画館のあるショッピングセンターの窓から空を見上げる。
「もうすぐゲリラ豪雨がきそうだね。駅前のカフェは諦めて、近くのカフェにすぐ入ったほうがいいかも」
「でたー! お天気お姉さん。わかった、近くのカフェをさくっと調べるね」
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「ねえ、構内ならいいけどさ。外でお天気お姉さんはやめてって」
「あはは、いいじゃんいいじゃん。特技なんだから自慢していいんだよ」
友人はそう笑ってから、スマホで見つけた近くのカフェに向かって歩き出した。
私はその後をため息をついてから笑って追いかけた。
入道雲を見ると思い出す、学生時代の何気ない日常。
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