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お題:星空小説

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『星空と音楽』


「プラネタリウムコンサート?」
「そうそう。癒されるからオススメだよ」

 友人に誘われたプラネタリウムで行われるコンサート。
 私はプラネタリウムになんて興味はない。
 ましてや、そこで音楽を聴くなんて訳がわからない。
 一ミリも関心が持てなかったが、どうしてもと言われて参加した。

「けっこう人がいるんだね」
「そうだよ。チケット取るの大変だったんだから」
「……だったら誘うのは私じゃなくて、彼氏とかにしたらよかったのに」
「なにを言いますか。大切な友達だから声かけたの」

 入り口には、チケット完売・当日券なし、の看板が出ていて驚いた。
 そんな私は会場内に入ってますます驚愕することになる。

「な、なんか想像していたプラネタリウムじゃない」
「興味ない人は知らないよね。最近のプラネタリウムってどこもこんな感じだよ」

 子どもの頃、遠足で連れてこられたプラネタリウムとは様子がまるで違う。
 記憶の中のプラネタリウムは、隣の人と肩がつきそうなくらい椅子がぎっちりと並んでいた。 
 しかし、実際に目の前にある座席はまったく別物だ。
 ゆったりと腰掛けて落ち着けそうなリクライニング席が並んでいるのだ。

「今日はリクライニング席だけど、前の方にはがっつりごろごろできるソファ席もあるんだよ」
「うわ、本当だ。あんなのもう家じゃん」
「いいよねぇ。いつかあそこの席のチケット取りたいんだよ」

 友人はうきうきと声を弾ませながら自分の席についた。
 私も隣の席について背もたれにからだを預ける。
 柔らかすぎず硬すぎず、リクライニングの椅子にからだがすっと沈む。

 からだが座席に沈んだと同時に、私は軽い眠気に襲われた。
 最近、私生活がバタバタしていた。
 座った途端、からだにズンとなにかがのしかかってきたような気がする。
 心に靄(もや)がかかってしまったようで、気持ちも沈んでいく。

 すぐに司会が出てきた。
 今日のプラネタリウムで上映される夜空の説明。
 それが終わると演奏者が出てきて挨拶。
 それらの声が睡眠を邪魔する雑音に聞こえる。
 連れてきてくれた友人には悪いが、これは上映がはじまったら寝てしまうなと思った。

「……………………っ⁉」

 心配は杞憂だった。
 プラネタリウムの上映がはじまり、優しい音楽が流れる。
 眠気なんて吹っ飛んだ。
 
 きらきらと輝く美しい星空。
 ゆるやかに流れる優しい音楽。

 出てきたのは涙だった。
 私は静かに泣きながら、ただじっと満天の星空を見上げていた。



「…………どうだった?」

 プラネタリウムコンサートが終わった。
 友人と黙ったまま会場の外に出る。
 そのまま駅まで歩いて、ホームに並んで立ち止まった瞬間に声をかけられた。
 私は口を閉じたまま、うんうんと力強く頷いた。

「よかったよかった。最近つらそうだったからさ。今日は気持ちよく眠れそうかな?」

 友人の穏やかな微笑みに、私はまた涙を流しそうになる。

「……っ、ありがとう」

 私が涙をこらえた笑顔でお礼を言うと、友人は歯を見せて笑った。
 
 これが私とプラネタリウム、美しい星空と優しい音楽の物語のはじまり。
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