80 / 80
はじまりの地 実績解除
3
しおりを挟む
「サクラの死にたくはないという気持ちはよくわかる。私も死にたくはなかったからな」
アリエノールが穏やかに笑う。
サクラの頬に手を伸ばして、そっと撫でてくる。
「だがそれは、民たちだって同じだろう。誰だって理不尽に死にたくはないのだ」
「……おっしゃる通りでございますわ」
サクラは両手をぎゅっと握り込んだ。
目を閉じて、この世界にきたときのことを思い出す。
「玉座を守るためには血を流さなければならないこともあろう。しかし、いまのこの世界の実情では、争いなど不要だと私は思っている」
アリエノールが優しくサクラの頬を撫でながら話をしている。
「そのうちに、五人の候補者のうちの誰かがお前に刺客を送ってくるだろう。否が応でも争うことになる」
サクラの頬を撫でるアリエノールの手が止まった。
サクラは目を開いて、目の前にいるアリエノールに視線を向ける。
「そのときにどう感じるかはお前に任せる。武力による制圧が必要だと思うのなら、そうすればいい。私に遠慮はいらない」
「残念ですが、わたしは王になりたいだなんてひとことも言っておりません。むしろ、アリエノールさまが王を望むのであれば、全力でお手伝いする所存です」
サクラは握っていた手を離した。
どことなく悲しそうな顔をして頬を撫でるアリエノールの手に、自分の手をそっと重ねる。
「サクラはそればかりだなあ。私は玉座を巡る争いにはかなり出遅れているのだぞ」
「それを言ったらわたしだって遅れています。あ、でも、王になりたくはないのですからね!」
「それもそうだな!」
アリエノールがガハハと笑う。
アリエノールはサクラの頬から手を離し、机の上に肘をついた。
「とにかく学べ。世界を知れ。そうすれば、自ずと答えはでよう」
そう言ったきり、アリエノールは黙り込む。
今日はもうこれ以上は話をするつもりがないらしい。
アリエノールが焦ってサクラに物事を教えるつもりはないのだということは、茶会を重ねるごとに気がついた。
会うたびに、少しずつ知識を分け与えてくれる。
サクラはすっかり冷え切ったお茶を飲み干した。
それから、空を見上げ、見えない大樹に願う。
──どうか、誰も死を恐れず、平和に暮らせる世界になりますように。
いつか王になりたいと願う日がくるのかもしれない。
いまはまだ、なにもわからない。
けれど、サクラはあらためて、この世界で生き抜く覚悟を決めた。
────────────────────────
こちらでお話は終了でございます。
最後までお付き合いくださった皆さま、ありがとうございます。
感謝の気持ちがお読みくださったお一人お一人にきちんと伝わっているといいなと、これを書きながら願っております。
本当に本当に、ありがとうございました!
こちらのお話は第17回ファンタジー小説大賞にエントリーしております。
ぜひ投票していただけたら嬉しいです。
何卒、投票を、よろしくお願いいたします。
切に、切に……!
感想もお待ちしております!
それでは、失礼いたします。
2024/09/26
────────────────────────
アリエノールが穏やかに笑う。
サクラの頬に手を伸ばして、そっと撫でてくる。
「だがそれは、民たちだって同じだろう。誰だって理不尽に死にたくはないのだ」
「……おっしゃる通りでございますわ」
サクラは両手をぎゅっと握り込んだ。
目を閉じて、この世界にきたときのことを思い出す。
「玉座を守るためには血を流さなければならないこともあろう。しかし、いまのこの世界の実情では、争いなど不要だと私は思っている」
アリエノールが優しくサクラの頬を撫でながら話をしている。
「そのうちに、五人の候補者のうちの誰かがお前に刺客を送ってくるだろう。否が応でも争うことになる」
サクラの頬を撫でるアリエノールの手が止まった。
サクラは目を開いて、目の前にいるアリエノールに視線を向ける。
「そのときにどう感じるかはお前に任せる。武力による制圧が必要だと思うのなら、そうすればいい。私に遠慮はいらない」
「残念ですが、わたしは王になりたいだなんてひとことも言っておりません。むしろ、アリエノールさまが王を望むのであれば、全力でお手伝いする所存です」
サクラは握っていた手を離した。
どことなく悲しそうな顔をして頬を撫でるアリエノールの手に、自分の手をそっと重ねる。
「サクラはそればかりだなあ。私は玉座を巡る争いにはかなり出遅れているのだぞ」
「それを言ったらわたしだって遅れています。あ、でも、王になりたくはないのですからね!」
「それもそうだな!」
アリエノールがガハハと笑う。
アリエノールはサクラの頬から手を離し、机の上に肘をついた。
「とにかく学べ。世界を知れ。そうすれば、自ずと答えはでよう」
そう言ったきり、アリエノールは黙り込む。
今日はもうこれ以上は話をするつもりがないらしい。
アリエノールが焦ってサクラに物事を教えるつもりはないのだということは、茶会を重ねるごとに気がついた。
会うたびに、少しずつ知識を分け与えてくれる。
サクラはすっかり冷え切ったお茶を飲み干した。
それから、空を見上げ、見えない大樹に願う。
──どうか、誰も死を恐れず、平和に暮らせる世界になりますように。
いつか王になりたいと願う日がくるのかもしれない。
いまはまだ、なにもわからない。
けれど、サクラはあらためて、この世界で生き抜く覚悟を決めた。
────────────────────────
こちらでお話は終了でございます。
最後までお付き合いくださった皆さま、ありがとうございます。
感謝の気持ちがお読みくださったお一人お一人にきちんと伝わっているといいなと、これを書きながら願っております。
本当に本当に、ありがとうございました!
こちらのお話は第17回ファンタジー小説大賞にエントリーしております。
ぜひ投票していただけたら嬉しいです。
何卒、投票を、よろしくお願いいたします。
切に、切に……!
感想もお待ちしております!
それでは、失礼いたします。
2024/09/26
────────────────────────
52
お気に入りに追加
240
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(14件)
あなたにおすすめの小説
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
勇者パーティーを追い出された大魔法導士、辺境の地でスローライフを満喫します ~特Aランクの最強魔法使い~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
クロード・ディスタンスは最強の魔法使い。しかしある日勇者パーティーを追放されてしまう。
勇者パーティーの一員として魔王退治をしてくると大口叩いて故郷を出てきた手前帰ることも出来ない俺は自分のことを誰も知らない辺境の地でひっそりと生きていくことを決めたのだった。
誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?
伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します
小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。
そして、田舎の町から王都へ向かいます
登場人物の名前と色
グラン デディーリエ(義母の名字)
8才
若草色の髪 ブルーグリーンの目
アルフ 実父
アダマス 母
エンジュ ミライト
13才 グランの義理姉
桃色の髪 ブルーの瞳
ユーディア ミライト
17才 グランの義理姉
濃い赤紫の髪 ブルーの瞳
コンティ ミライト
7才 グランの義理の弟
フォンシル コンドーラル ベージュ
11才皇太子
ピーター サイマルト
近衛兵 皇太子付き
アダマゼイン 魔王
目が透明
ガーゼル 魔王の側近 女の子
ジャスパー
フロー 食堂宿の人
宝石の名前関係をもじってます。
色とかもあわせて。
乙女ゲームに悪役転生な無自覚チートの異世界譚
水魔沙希
ファンタジー
モブに徹していた少年がなくなり、転生したら乙女ゲームの悪役になっていた。しかも、王族に生まれながらも、1歳の頃に誘拐され、王族に恨みを持つ少年に転生してしまったのだ!
そんな運命なんてクソくらえだ!前世ではモブに徹していたんだから、この悪役かなりの高いスペックを持っているから、それを活用して、なんとか生き残って、前世ではできなかった事をやってやるんだ!!
最近よくある乙女ゲームの悪役転生ものの話です。
だんだんチート(無自覚)になっていく主人公の冒険譚です(予定)です。
チートの成長率ってよく分からないです。
初めての投稿で、駄文ですが、どうぞよろしくお願いいたします。
会話文が多いので、本当に状況がうまく伝えられずにすみません!!
あ、ちなみにこんな乙女ゲームないよ!!という感想はご遠慮ください。
あと、戦いの部分は得意ではございません。ご了承ください。
あいつに無理矢理連れてこられた異世界生活
mio
ファンタジー
なんやかんや、無理矢理あいつに異世界へと連れていかれました。
こうなったら仕方ない。とにかく、平和に楽しく暮らしていこう。
なぜ、少女は異世界へと連れてこられたのか。
自分の中に眠る力とは何なのか。
その答えを知った時少女は、ある決断をする。
長い間更新をさぼってしまってすいませんでした!
へっぽこ召喚士は、モフモフ達に好かれやすい〜失敗したら、冷酷騎士団長様を召喚しちゃいました〜
翠玉 結
ファンタジー
憧れの召喚士になったミア・スカーレット。
ただ学園内でもギリギリで、卒業できたへっぽこな召喚士。
就職先も中々見当たらないでいる中、ようやく採用されたのは魔獣騎士団。
しかも【召喚士殺し】の異名を持つ、魔獣騎士団 第四部隊への配属だった。
ヘマをしないと意気込んでいた配属初日早々、鬼畜で冷酷な団長に命じられるまま召喚獣を召喚すると……まさかの上司である騎士団長 リヒト・アンバネルを召喚してしまう!
彼らの秘密を知ってしまったミアは、何故か妙に魔獣に懐かれる体質によって、魔獣達の世話係&躾係に?!
その上、団長の様子もどこかおかしくて……?
「私、召喚士なんですけどっ……!」
モフモフ達に囲まれながら、ミアのドタバタな生活が始まる…!
\異世界モフモフラブファンタジー/
毎日21時から更新します!
※カクヨム、ベリーズカフェでも掲載してます。
社畜おっさんは巻き込まれて異世界!? とにかく生きねばなりません!
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はユアサ マモル
14連勤を終えて家に帰ろうと思ったら少女とぶつかってしまった
とても人柄のいい奥さんに謝っていると一瞬で周りの景色が変わり
奥さんも少女もいなくなっていた
若者の間で、はやっている話を聞いていた私はすぐに気持ちを切り替えて生きていくことにしました
いや~自炊をしていてよかったです
異世界居酒屋さわこさん細腕繁盛記
鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)
ファンタジー
陸奥さわこ 3*才独身
父が経営していた居酒屋「酒話(さけばなし)」を父の他界とともに引き継いで5年
折からの不況の煽りによってこの度閉店することに……
家賃の安い郊外へ引っ越したさわこだったが不動産屋の手違いで入居予定だったアパートはすでに入居済
途方にくれてバス停でたたずんでいたさわこは、そこで
「薬草を採りにきていた」
という不思議な女子に出会う。
意気投合したその女性の自宅へお邪魔することになったさわこだが……
このお話は
ひょんなことから世界を行き来する能力をもつ酒好きな魔法使いバテアの家に居候することになったさわこが、バテアの魔法道具のお店の裏で居酒屋さわこさんを開店し、異世界でがんばるお話です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
完結おめでとうございます!
ありがとうございました。。。
ありがとうございます!
最後までお付き合いいただき感謝感激です
本当にありがとうございました!
こんばんは!コメントありがとうございます
脳筋です。何卒よろしくお願いいたします!
失礼いたします
こんばんは!コメントありがとうございます
はい、何卒よろしくお願いいたします
失礼いたします