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協力 ダンジョンボス
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「……そっか……。完全に、俺の負けってわけか……」
「呪いの蓄積で発狂状態になったとしても、あなたは魔法以外の元のステータスが低すぎだもの。真正面から攻撃を受けなければ、わたしなら簡単に距離を詰められるわ」
攻撃を受けなければ。
敵対相手に攻撃を与えられる間合いに入れるまでに、こちらの体力がわずかでも残っていれば、と言い換えてもいい。
「もちろん、こういう展開になってしまった場合の対策だって考えているわ。あなただっていろいろと対策を練っていたから、杖を二本も持っていたのよね?」
奏多はステータスを極振りするようなタイプだ。
ならば自分と同じく極振りするタイプが弱点に対する対策を念入りにすることくらい、理解していたはずだ。
奏多がやけくそにならずに落ち着いていれば、サクラが左手に持っている武器の派生攻撃を使っていないことに気がついただろう。
呪いは奏多自身に使うべきではなかったのだ。
──火事場の馬鹿力を使うために、奏多くんの体力は残りわずかだったはずだもの。ほんの少しだけダメージを与えることができれば、それで終わり。
正直なところ、アリエノールの雷を一撃もらえればそれでよかった。
仮に目の前まで近づくことができなくても、爆発の効果範囲は貯めたエネルギー分だけ広くなる。
ダンジョンボスであるアリエノールの攻撃エネルギーが、弱いわけがないのだから。
「……だからってさ。五人で協力マルチプレイってのは、おかしいだろ。しかも、NPCと一緒ってさ。そんなのはさ、もうゲームじゃねえじゃん……」
「だって、ここはもうわたしにとっては現実だもの。ゲームのルールに縛られることはないわ」
サクラの言葉に、奏多がはっと息をのんだ。
「……そっか。そうなのかな……? そうだったら、俺は……」
奏多はかろうじて握っていた杖を手放した。
カランと音を立てて、杖が広場を転がる。
奏多は杖を手放したことで空いた両手で、顔を覆った。
「……ゲームだから。っこの世界はゲームだからさ、こんなになってもさ。痛みがさ、ないんじゃないの……?」
大爆発に巻き込まれても両足でしっかりと立っていた奏多のからだが、ぐらりと大きく揺れた。
彼はそのまま力なく地面に向かって倒れていく。
せめて受け止めてあげよう。
そう思ったサクラが一歩前に足を出すと、アリエノールに腕を掴まれる。
ぐいっと力強く腕を引かれ、サクラはそれ以上は動けなかった。
「駄目だ。触れたら巻き込まれる」
「……でも、最後くらいは手を取ってあげたいから」
「絶対に駄目だ。その優しさは褒められたものではない」
アリエノールはサクラの腰に腕をまわして抱き寄せると、翼を広げてその場から急いで離れる。
サクラは地面に倒れ込んだ奏多を見つめながら、アリエノールに連れられるまま彼のもとを後にした。
すると、すぐに奏多が倒れている周囲の地面がぐらぐらと揺れはじめた。
奏多を囲むように地面がひび割れていく。
サクラが何事かと思っているうちに、地面から巨大な木の根が生えてきた。
「──────っ⁉︎」
サクラは目を背けたくなった。
しかし、自分のしたことの結果なのだからと、唇を噛み締めながら見守った。
「異界からの訪問者がこの地を去るとき、その骸と魂は大樹に回収されるのだ。そばにいては巻き込まれるぞ」
危ないところだったなと、アリエノールが無邪気に笑う。
事切れた奏多のからだに、木の根がきつく巻きついていく。
鈍い音が耳に届く。
木の根が完全に奏多のからだを包み込んだ。
すると、木の根は砂のように崩れはじめ、音もなく消えてしまった。
木の根だけではない。
奏多の姿が跡形もなく消え去っていた。
「ああして稀人はまた別の地へ旅立つのだぞ。見たことがなかったか?」
「……え、ええ」
「そうだったか。まあ、稀人の流れつく暗礁の森近くの我が領地だからこその光景かもしれないな」
つまり、あれが自分の末路なのかと、サクラは背筋がゾッとした。
──ベルヴェイクのやつ。この光景はわざとわたしに見せなかったわね。こんなの見せられたら、余計に引きこもりになるものね。
サクラはベルヴェイクに対して激しい憤りを覚える。
しかし、これが世界の仕組み、理だというのならば、ベルヴェイクに憤っていても仕方がない。
「ちなみに、稀人に殺された者にはごくたまに彼らの残滓があって、同じように大樹へと回収されてしまう。けして近づいては駄目だぞ」
小さな子供に言い聞かせるように、アリエノールが指を立ててサクラに話しかけてくる。
その目には涙がたまっているように見えた。
サクラは怒りの感情を、心の奥にしまい込む。
「──はい。ご忠告痛み入ります。しかと心得ましたわ」
「呪いの蓄積で発狂状態になったとしても、あなたは魔法以外の元のステータスが低すぎだもの。真正面から攻撃を受けなければ、わたしなら簡単に距離を詰められるわ」
攻撃を受けなければ。
敵対相手に攻撃を与えられる間合いに入れるまでに、こちらの体力がわずかでも残っていれば、と言い換えてもいい。
「もちろん、こういう展開になってしまった場合の対策だって考えているわ。あなただっていろいろと対策を練っていたから、杖を二本も持っていたのよね?」
奏多はステータスを極振りするようなタイプだ。
ならば自分と同じく極振りするタイプが弱点に対する対策を念入りにすることくらい、理解していたはずだ。
奏多がやけくそにならずに落ち着いていれば、サクラが左手に持っている武器の派生攻撃を使っていないことに気がついただろう。
呪いは奏多自身に使うべきではなかったのだ。
──火事場の馬鹿力を使うために、奏多くんの体力は残りわずかだったはずだもの。ほんの少しだけダメージを与えることができれば、それで終わり。
正直なところ、アリエノールの雷を一撃もらえればそれでよかった。
仮に目の前まで近づくことができなくても、爆発の効果範囲は貯めたエネルギー分だけ広くなる。
ダンジョンボスであるアリエノールの攻撃エネルギーが、弱いわけがないのだから。
「……だからってさ。五人で協力マルチプレイってのは、おかしいだろ。しかも、NPCと一緒ってさ。そんなのはさ、もうゲームじゃねえじゃん……」
「だって、ここはもうわたしにとっては現実だもの。ゲームのルールに縛られることはないわ」
サクラの言葉に、奏多がはっと息をのんだ。
「……そっか。そうなのかな……? そうだったら、俺は……」
奏多はかろうじて握っていた杖を手放した。
カランと音を立てて、杖が広場を転がる。
奏多は杖を手放したことで空いた両手で、顔を覆った。
「……ゲームだから。っこの世界はゲームだからさ、こんなになってもさ。痛みがさ、ないんじゃないの……?」
大爆発に巻き込まれても両足でしっかりと立っていた奏多のからだが、ぐらりと大きく揺れた。
彼はそのまま力なく地面に向かって倒れていく。
せめて受け止めてあげよう。
そう思ったサクラが一歩前に足を出すと、アリエノールに腕を掴まれる。
ぐいっと力強く腕を引かれ、サクラはそれ以上は動けなかった。
「駄目だ。触れたら巻き込まれる」
「……でも、最後くらいは手を取ってあげたいから」
「絶対に駄目だ。その優しさは褒められたものではない」
アリエノールはサクラの腰に腕をまわして抱き寄せると、翼を広げてその場から急いで離れる。
サクラは地面に倒れ込んだ奏多を見つめながら、アリエノールに連れられるまま彼のもとを後にした。
すると、すぐに奏多が倒れている周囲の地面がぐらぐらと揺れはじめた。
奏多を囲むように地面がひび割れていく。
サクラが何事かと思っているうちに、地面から巨大な木の根が生えてきた。
「──────っ⁉︎」
サクラは目を背けたくなった。
しかし、自分のしたことの結果なのだからと、唇を噛み締めながら見守った。
「異界からの訪問者がこの地を去るとき、その骸と魂は大樹に回収されるのだ。そばにいては巻き込まれるぞ」
危ないところだったなと、アリエノールが無邪気に笑う。
事切れた奏多のからだに、木の根がきつく巻きついていく。
鈍い音が耳に届く。
木の根が完全に奏多のからだを包み込んだ。
すると、木の根は砂のように崩れはじめ、音もなく消えてしまった。
木の根だけではない。
奏多の姿が跡形もなく消え去っていた。
「ああして稀人はまた別の地へ旅立つのだぞ。見たことがなかったか?」
「……え、ええ」
「そうだったか。まあ、稀人の流れつく暗礁の森近くの我が領地だからこその光景かもしれないな」
つまり、あれが自分の末路なのかと、サクラは背筋がゾッとした。
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しかし、これが世界の仕組み、理だというのならば、ベルヴェイクに憤っていても仕方がない。
「ちなみに、稀人に殺された者にはごくたまに彼らの残滓があって、同じように大樹へと回収されてしまう。けして近づいては駄目だぞ」
小さな子供に言い聞かせるように、アリエノールが指を立ててサクラに話しかけてくる。
その目には涙がたまっているように見えた。
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「──はい。ご忠告痛み入ります。しかと心得ましたわ」
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