転生したら死にゲーの世界だったので、最初に出会ったNPCに全力で縋ることにしました。

黒蜜きな粉

文字の大きさ
上 下
72 / 80
協力 ダンジョンボス

しおりを挟む
「……そっか……。完全に、俺の負けってわけか……」

「呪いの蓄積で発狂状態になったとしても、あなたは魔法以外の元のステータスが低すぎだもの。真正面から攻撃を受けなければ、わたしなら簡単に距離を詰められるわ」

 攻撃を受けなければ。
 敵対相手に攻撃を与えられる間合いに入れるまでに、こちらの体力がわずかでも残っていれば、と言い換えてもいい。

「もちろん、こういう展開になってしまった場合の対策だって考えているわ。あなただっていろいろと対策を練っていたから、杖を二本も持っていたのよね?」

 奏多はステータスを極振りするようなタイプだ。
 ならば自分と同じく極振りするタイプが弱点に対する対策を念入りにすることくらい、理解していたはずだ。

 奏多がやけくそにならずに落ち着いていれば、サクラが左手に持っている武器の派生攻撃を使っていないことに気がついただろう。
 呪いは奏多自身に使うべきではなかったのだ。

 ──火事場の馬鹿力を使うために、奏多くんの体力は残りわずかだったはずだもの。ほんの少しだけダメージを与えることができれば、それで終わり。

 正直なところ、アリエノールの雷を一撃もらえればそれでよかった。
 仮に目の前まで近づくことができなくても、爆発の効果範囲は貯めたエネルギー分だけ広くなる。
 ダンジョンボスであるアリエノールの攻撃エネルギーが、弱いわけがないのだから。

「……だからってさ。五人で協力マルチプレイってのは、おかしいだろ。しかも、NPCと一緒ってさ。そんなのはさ、もうゲームじゃねえじゃん……」

「だって、ここはもうわたしにとっては現実だもの。ゲームのルールに縛られることはないわ」

 サクラの言葉に、奏多がはっと息をのんだ。

「……そっか。そうなのかな……? そうだったら、俺は……」

 奏多はかろうじて握っていた杖を手放した。
 カランと音を立てて、杖が広場を転がる。
 奏多は杖を手放したことで空いた両手で、顔を覆った。

「……ゲームだから。っこの世界はゲームだからさ、こんなになってもさ。痛みがさ、ないんじゃないの……?」

 大爆発に巻き込まれても両足でしっかりと立っていた奏多のからだが、ぐらりと大きく揺れた。
 彼はそのまま力なく地面に向かって倒れていく。
 
 せめて受け止めてあげよう。
 そう思ったサクラが一歩前に足を出すと、アリエノールに腕を掴まれる。
 ぐいっと力強く腕を引かれ、サクラはそれ以上は動けなかった。

「駄目だ。触れたら巻き込まれる」

「……でも、最後くらいは手を取ってあげたいから」

「絶対に駄目だ。その優しさは褒められたものではない」

 アリエノールはサクラの腰に腕をまわして抱き寄せると、翼を広げてその場から急いで離れる。
 サクラは地面に倒れ込んだ奏多を見つめながら、アリエノールに連れられるまま彼のもとを後にした。

 すると、すぐに奏多が倒れている周囲の地面がぐらぐらと揺れはじめた。
 奏多を囲むように地面がひび割れていく。

 サクラが何事かと思っているうちに、地面から巨大な木の根が生えてきた。


「──────っ⁉︎」

 サクラは目を背けたくなった。
 しかし、自分のしたことの結果なのだからと、唇を噛み締めながら見守った。

「異界からの訪問者がこの地を去るとき、その骸と魂は大樹に回収されるのだ。そばにいては巻き込まれるぞ」

 危ないところだったなと、アリエノールが無邪気に笑う。

 事切れた奏多のからだに、木の根がきつく巻きついていく。
 鈍い音が耳に届く。
 木の根が完全に奏多のからだを包み込んだ。
 すると、木の根は砂のように崩れはじめ、音もなく消えてしまった。
 木の根だけではない。
 奏多の姿が跡形もなく消え去っていた。

「ああして稀人はまた別の地へ旅立つのだぞ。見たことがなかったか?」

「……え、ええ」

「そうだったか。まあ、稀人の流れつく暗礁の森近くの我が領地だからこその光景かもしれないな」

 つまり、あれが自分の末路なのかと、サクラは背筋がゾッとした。

 ──ベルヴェイクのやつ。この光景はわざとわたしに見せなかったわね。こんなの見せられたら、余計に引きこもりになるものね。

 サクラはベルヴェイクに対して激しい憤りを覚える。
 しかし、これが世界の仕組み、理だというのならば、ベルヴェイクに憤っていても仕方がない。

「ちなみに、稀人に殺された者にはごくたまに彼らの残滓があって、同じように大樹へと回収されてしまう。けして近づいては駄目だぞ」

 小さな子供に言い聞かせるように、アリエノールが指を立ててサクラに話しかけてくる。
 その目には涙がたまっているように見えた。
 サクラは怒りの感情を、心の奥にしまい込む。

「──はい。ご忠告痛み入ります。しかと心得ましたわ」
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

竜の国のカイラ~前世は、精霊王の愛し子だったんですが、異世界に転生して聖女の騎士になりました~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
辺境で暮らす孤児のカイラは、人には見えないものが見えるために悪魔つき(カイラ)と呼ばれている。 同じ日に拾われた孤児の美少女ルイーズといつも比較されていた。 16歳のとき、神見の儀で炎の神の守護を持つと言われたルイーズに比べて、なんの神の守護も持たないカイラは、ますます肩身が狭くなる。 そんなある日、魔物の住む森に使いに出されたカイラは、魔物の群れに教われている人々に遭遇する。 カイラは、命がけで人々を助けるが重傷を負う。 死に瀕してカイラは、自分が前世で異世界の精霊王の姫であったことを思い出す。 エブリスタにも掲載しています。

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

転生しても山あり谷あり!

tukisirokou
ファンタジー
「転生前も山あり谷ありの人生だったのに転生しても山あり谷ありの人生なんて!!」 兎にも角にも今世は “おばあちゃんになったら縁側で日向ぼっこしながら猫とたわむる!” を最終目標に主人公が行く先々の困難を負けずに頑張る物語・・・?

転生リンゴは破滅のフラグを退ける

古森真朝
ファンタジー
 ある日突然事故死してしまった高校生・千夏。しかし、たまたまその場面を見ていた超お人好しの女神・イズーナに『命の林檎』をもらい、半精霊ティナとして異世界で人生を再スタートさせることになった。  今度こそは平和に長生きして、自分の好きなこといっぱいするんだ! ――と、心に誓ってスローライフを満喫していたのだが。ツノの生えたウサギを見つけたのを皮切りに、それを追ってきたエルフ族、そのエルフと張り合うレンジャー、さらに北の王国で囁かれる妙なウワサと、身の回りではトラブルがひっきりなし。  何とか事態を軟着陸させ、平穏な暮らしを取り戻すべく――ティナの『フラグ粉砕作戦』がスタートする! ※ちょっとだけタイトルを変更しました(元:転生リンゴは破滅フラグを遠ざける) ※更新頑張り中ですが展開はゆっくり目です。のんびり見守っていただければ幸いです^^ ※ただいまファンタジー小説大賞エントリー中&だいたい毎日更新中です。ぜひとも応援してやってくださいませ!!

契約師としてクランに尽くしましたが追い出されたので復讐をしようと思います

夜納木ナヤ
ファンタジー
 ヤマトは異世界に召喚された。たまたま出会った冒険者ハヤテ連れられて冒険者ギルドに行くと、召喚師のクラスを持っていることがわかった。その能力はヴァルキリーと契約し、力を使えるというものだ。  ヤマトはハヤテたちと冒険を続け、クランを立ち上げた。クランはすぐに大きくなり、知らないものはいないほどになった。それはすべて、ヤマトがヴァルキリーと契約していたおかげだった。それに気づかないハヤテたちにヤマトは追放され…。

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した元日本人ノエルは、父の急死によりエトワール伯爵家を継承することになった。 亡くなった父はギャンブルに熱中し莫大な借金をしていた。 さらに借金を国王に咎められ、『王国貴族の恥!』と南方の辺境へ追放されてしまう。 南方は魔物も多く、非常に住みにくい土地だった。 ある日、猫獣人の騎士現れる。ノエルが女神様から与えられた生産スキル『マルチクラフト』が覚醒し、ノエルは次々と異世界にない商品を生産し、領地経営が軌道に乗る。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

処理中です...