転生したら死にゲーの世界だったので、最初に出会ったNPCに全力で縋ることにしました。

黒蜜きな粉

文字の大きさ
上 下
66 / 80
協力 ダンジョンボス

しおりを挟む
 ──っひいいいい、これは恥ずかしすぎる!

 サクラの目の前には、自分に向かって跪くアリエノールの姿がある。
 サクラは頭の中に雷が落ちたのではないかというほどの衝撃が走った。

 おもわずあたりを見回してみるが、広場に雷を落としていたアリエノールは目の前にいる。
 もう雷なんて落ちてはこない。
 サクラは気恥ずかしさのあまり、自分の顔がどんどん赤くなるのがわかった。

「そんな、そのようなことはおやめください! お願いですから、立ってくださいませ。わたしにそんなことをなさらないでくださいいぃいい」

 サクラは必至になって、両手を大きく振る。
 それでもアリエノールは、サクラの前に跪いたままだった。

 アリエノールはサクラがいま訪れている城、大規模なダンジョンの大ボスだ。
 ダンジョンは、マップ全体に広がっているひらけたフィールドとは異なる。
 迷宮的、立体的なステージで、緻密に計算して設計されている。
 数多くの罠や、一筋縄ではいかない強さの敵が待ち受けているのだ。

 当然ながら、そうそう簡単には攻略できるわけがない。
 アリエノールは、そんな苦労して進んだ先に待ち構えている大ボスだ。

 ──普通に攻略していたら初めて出会うダンジョンの大ボスだもの。そりゃもうプレイヤーとしては、思い入れが深いキャラクターに決まっているじゃない!

 ほとんどのプレイヤーがはじめて出会う中ボスであるロークルが「ロー兄さん」と呼ばれていたように、アリエノールは「アリエノール姉さん」「姉御」などと呼ばれて親しまれていた。

 そんなアリエノールが目の前で自分に跪いている状況が、サクラには頭の中でうまく整理ができない。

「あ、あのほんと、わたしはそんな感じじゃないんですう!」

 どうしてこうなってしまったのだ。
 サクラは混乱しながら、再びクロビスに助けを求める。
 クロビスはサクラの様子に呆れたように鼻を鳴らして、肩をすくめた。

「……はあ。そりゃあなた、そんな格好をしていますしね」

「ねえ、お願いだからアリエノールさまを止めてよお! ほんとうに恥ずかしいから」

「さきほどは巡り神の信仰系魔法が付与された武器で戦っていらっしゃいましたしね。勘違いされてもしかたないのではないですか」

 クロビスはそう言って、諦めたように頭を横に振った。

 サクラはこのクロビスの言葉に、はっとさせられる。
 ようやく頭の中がすっきりとして、冷静に考えられるようになった。

「……ああ、そうか。パタの信仰派生って、巡り神の加護だわね」
 
 サクラが使用している武器。
 パタの信仰派生の特殊効果が発動している間、刃の部分に草の蔓が伸びてつぼみが芽吹き、花が咲く。
 そこへ蝶々が舞い、草が枯れてしまうとどこかへ飛び去ってしまう。

 まるで、生命の循環をあらわしているような演出である。
 それが巡り神の加護を表現しているのだということに、サクラはクロビスに指摘されるまで気がついていなかった。

「……うう、ただ自分の弱点を補うために、武器を信仰派生させたかっただけなのに。なんだかさ、どんどん自分で自分を神格化させていっているみたいで嫌だわ」

 サクラの目の前で跪いているアリエノールの目が、心なしか輝いているように見える。
 サクラが回復瓶で助けた警備兵たちのように、あたたかな春の訪れを知らせる神の一族を待っていたかのようだ。

「…………わたしでよろしければ、ご協力させてくださいませ」

 だからどうか立ち上がってください、サクラは心の中でつけ加える。
 サクラは腰をかがめると、アリエノールに向かって手を差し出した。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

竜の国のカイラ~前世は、精霊王の愛し子だったんですが、異世界に転生して聖女の騎士になりました~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
辺境で暮らす孤児のカイラは、人には見えないものが見えるために悪魔つき(カイラ)と呼ばれている。 同じ日に拾われた孤児の美少女ルイーズといつも比較されていた。 16歳のとき、神見の儀で炎の神の守護を持つと言われたルイーズに比べて、なんの神の守護も持たないカイラは、ますます肩身が狭くなる。 そんなある日、魔物の住む森に使いに出されたカイラは、魔物の群れに教われている人々に遭遇する。 カイラは、命がけで人々を助けるが重傷を負う。 死に瀕してカイラは、自分が前世で異世界の精霊王の姫であったことを思い出す。 エブリスタにも掲載しています。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話7話。

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...