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協力 ダンジョンボス
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──っひいいいい、これは恥ずかしすぎる!
サクラの目の前には、自分に向かって跪くアリエノールの姿がある。
サクラは頭の中に雷が落ちたのではないかというほどの衝撃が走った。
おもわずあたりを見回してみるが、広場に雷を落としていたアリエノールは目の前にいる。
もう雷なんて落ちてはこない。
サクラは気恥ずかしさのあまり、自分の顔がどんどん赤くなるのがわかった。
「そんな、そのようなことはおやめください! お願いですから、立ってくださいませ。わたしにそんなことをなさらないでくださいいぃいい」
サクラは必至になって、両手を大きく振る。
それでもアリエノールは、サクラの前に跪いたままだった。
アリエノールはサクラがいま訪れている城、大規模なダンジョンの大ボスだ。
ダンジョンは、マップ全体に広がっているひらけたフィールドとは異なる。
迷宮的、立体的なステージで、緻密に計算して設計されている。
数多くの罠や、一筋縄ではいかない強さの敵が待ち受けているのだ。
当然ながら、そうそう簡単には攻略できるわけがない。
アリエノールは、そんな苦労して進んだ先に待ち構えている大ボスだ。
──普通に攻略していたら初めて出会うダンジョンの大ボスだもの。そりゃもうプレイヤーとしては、思い入れが深いキャラクターに決まっているじゃない!
ほとんどのプレイヤーがはじめて出会う中ボスであるロークルが「ロー兄さん」と呼ばれていたように、アリエノールは「アリエノール姉さん」「姉御」などと呼ばれて親しまれていた。
そんなアリエノールが目の前で自分に跪いている状況が、サクラには頭の中でうまく整理ができない。
「あ、あのほんと、わたしはそんな感じじゃないんですう!」
どうしてこうなってしまったのだ。
サクラは混乱しながら、再びクロビスに助けを求める。
クロビスはサクラの様子に呆れたように鼻を鳴らして、肩をすくめた。
「……はあ。そりゃあなた、そんな格好をしていますしね」
「ねえ、お願いだからアリエノールさまを止めてよお! ほんとうに恥ずかしいから」
「さきほどは巡り神の信仰系魔法が付与された武器で戦っていらっしゃいましたしね。勘違いされてもしかたないのではないですか」
クロビスはそう言って、諦めたように頭を横に振った。
サクラはこのクロビスの言葉に、はっとさせられる。
ようやく頭の中がすっきりとして、冷静に考えられるようになった。
「……ああ、そうか。パタの信仰派生って、巡り神の加護だわね」
サクラが使用している武器。
パタの信仰派生の特殊効果が発動している間、刃の部分に草の蔓が伸びてつぼみが芽吹き、花が咲く。
そこへ蝶々が舞い、草が枯れてしまうとどこかへ飛び去ってしまう。
まるで、生命の循環をあらわしているような演出である。
それが巡り神の加護を表現しているのだということに、サクラはクロビスに指摘されるまで気がついていなかった。
「……うう、ただ自分の弱点を補うために、武器を信仰派生させたかっただけなのに。なんだかさ、どんどん自分で自分を神格化させていっているみたいで嫌だわ」
サクラの目の前で跪いているアリエノールの目が、心なしか輝いているように見える。
サクラが回復瓶で助けた警備兵たちのように、あたたかな春の訪れを知らせる神の一族を待っていたかのようだ。
「…………わたしでよろしければ、ご協力させてくださいませ」
だからどうか立ち上がってください、サクラは心の中でつけ加える。
サクラは腰をかがめると、アリエノールに向かって手を差し出した。
サクラの目の前には、自分に向かって跪くアリエノールの姿がある。
サクラは頭の中に雷が落ちたのではないかというほどの衝撃が走った。
おもわずあたりを見回してみるが、広場に雷を落としていたアリエノールは目の前にいる。
もう雷なんて落ちてはこない。
サクラは気恥ずかしさのあまり、自分の顔がどんどん赤くなるのがわかった。
「そんな、そのようなことはおやめください! お願いですから、立ってくださいませ。わたしにそんなことをなさらないでくださいいぃいい」
サクラは必至になって、両手を大きく振る。
それでもアリエノールは、サクラの前に跪いたままだった。
アリエノールはサクラがいま訪れている城、大規模なダンジョンの大ボスだ。
ダンジョンは、マップ全体に広がっているひらけたフィールドとは異なる。
迷宮的、立体的なステージで、緻密に計算して設計されている。
数多くの罠や、一筋縄ではいかない強さの敵が待ち受けているのだ。
当然ながら、そうそう簡単には攻略できるわけがない。
アリエノールは、そんな苦労して進んだ先に待ち構えている大ボスだ。
──普通に攻略していたら初めて出会うダンジョンの大ボスだもの。そりゃもうプレイヤーとしては、思い入れが深いキャラクターに決まっているじゃない!
ほとんどのプレイヤーがはじめて出会う中ボスであるロークルが「ロー兄さん」と呼ばれていたように、アリエノールは「アリエノール姉さん」「姉御」などと呼ばれて親しまれていた。
そんなアリエノールが目の前で自分に跪いている状況が、サクラには頭の中でうまく整理ができない。
「あ、あのほんと、わたしはそんな感じじゃないんですう!」
どうしてこうなってしまったのだ。
サクラは混乱しながら、再びクロビスに助けを求める。
クロビスはサクラの様子に呆れたように鼻を鳴らして、肩をすくめた。
「……はあ。そりゃあなた、そんな格好をしていますしね」
「ねえ、お願いだからアリエノールさまを止めてよお! ほんとうに恥ずかしいから」
「さきほどは巡り神の信仰系魔法が付与された武器で戦っていらっしゃいましたしね。勘違いされてもしかたないのではないですか」
クロビスはそう言って、諦めたように頭を横に振った。
サクラはこのクロビスの言葉に、はっとさせられる。
ようやく頭の中がすっきりとして、冷静に考えられるようになった。
「……ああ、そうか。パタの信仰派生って、巡り神の加護だわね」
サクラが使用している武器。
パタの信仰派生の特殊効果が発動している間、刃の部分に草の蔓が伸びてつぼみが芽吹き、花が咲く。
そこへ蝶々が舞い、草が枯れてしまうとどこかへ飛び去ってしまう。
まるで、生命の循環をあらわしているような演出である。
それが巡り神の加護を表現しているのだということに、サクラはクロビスに指摘されるまで気がついていなかった。
「……うう、ただ自分の弱点を補うために、武器を信仰派生させたかっただけなのに。なんだかさ、どんどん自分で自分を神格化させていっているみたいで嫌だわ」
サクラの目の前で跪いているアリエノールの目が、心なしか輝いているように見える。
サクラが回復瓶で助けた警備兵たちのように、あたたかな春の訪れを知らせる神の一族を待っていたかのようだ。
「…………わたしでよろしければ、ご協力させてくださいませ」
だからどうか立ち上がってください、サクラは心の中でつけ加える。
サクラは腰をかがめると、アリエノールに向かって手を差し出した。
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