転生したら死にゲーの世界だったので、最初に出会ったNPCに全力で縋ることにしました。

黒蜜きな粉

文字の大きさ
上 下
64 / 80
協力 ダンジョンボス

しおりを挟む
 広場全体が、轟音と共にひっきりなしに揺れている。
 サクラがクロビスに回復魔法をかけられている間、広場には何度も赤い雷が落ちてきていた。
 
「……っく! ここまでアリエノールさまがご乱心していらっしゃるのは珍しいな」

「そりゃあ、大事な大事な腹心の部下がやられちゃ黙ってられないだろうさ!」

 警備兵の二人が、広場の上空をみつめている。
 雷が周囲に落ちてくる様子を眺めながら、苦笑いを浮かべていた。

「だからって限度があるだろ! 誰がコレを片付けると思ってんだよ」

「この戦いのあとの心配をするなんて、お前はずいぶんと余裕だなあ」

 警備兵の二人は、落雷ごとに巻き起こる突風で吹き飛ばされてくる広場の石畳みを、剣で叩き落としている。
 そうやって、落雷による被害からサクラとクロビスを守ってくれていた。


「……本当に、こんなに取り乱すなんてアリエノールさまらしくない。我らが主らしく堂々となさっていてほしいものですね」

 クロビスが大きく息を吐きながらぼやいた。
 回復魔法の詠唱を終えたクロビスは、仮面を外して大量の汗を拭っている。

「治療ありがとう。おかげですっかり良くなったわ」

 サクラはゆっくりとからだを起こすと、肩で息をしているクロビスに礼を言った。
 サクラが微笑みかけると、クロビスは汗を拭っていた手を止めて仮面をつけなおす。

「良くなっていただかないと困ります。これで私の魔力はほぼ空になりましたから。次はためらわずにあの男を仕留めてくださいね」

「……ええ。あなたの魔力がからだの中に入り込んできたおかげで、いますごく心があたたかくて安定してるの。覚悟が決まった」

「それはとても喜ばしいことかもしれませんが、その言い回しはやめてください。邪念がうまれてしまいます」

 真面目な声色で言うクロビスに、サクラは呆れた顔をしてため息をついた。

「……はあ、魔力が空とか言ったくせにさ。けっこう調子よさそうじゃない?」

「いいえ、馬鹿力のあなたと違って私は繊細なのですよ。言葉には気をつけてください」

 仮面で顔を隠されてしまったが、クロビスは馬鹿にするように笑っている気がする。
 サクラは頬を膨らませて拗ねたふりをしてみせた。


 すると、空から声が聞こえた。

「なんだ、治療の時間くらい稼いでやろうとわざわざ来てやったのに。礼もなくじゃれ合い始めるとはいい身分だな、クロビス?」

 空から人が降ってきた。
 いや、正確には人ではない。
 人型ではあるが、種族でいえば竜人だ。

「私が頼んだことではございません。アリエノールさまご自身のご判断でしょう?」

「憎まれ口が叩けるなら、もうよいな」

 背中に生えた翼を羽ばたかせながら、広場に降り立つ美しい女性。
 この城の主、領主のアリエノールが姿をあらわした。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

私、平凡ですので……。~求婚してきた将軍さまは、バツ3のイケメンでした~

玉響なつめ
ファンタジー
転生したけど、平凡なセリナ。 平凡に生まれて平凡に生きて、このまま平凡にいくんだろうと思ったある日唐突に求婚された。 それが噂のバツ3将軍。 しかも前の奥さんたちは行方不明ときたもんだ。 求婚されたセリナの困惑とは裏腹に、トントン拍子に話は進む。 果たして彼女は幸せな結婚生活を送れるのか? ※小説家になろう。でも公開しています

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

【完結】転生したらもふもふだった。クマ獣人の王子は前世の婚約者を見つけだし今度こそ幸せになりたい。

金峯蓮華
ファンタジー
デーニッツ王国の王太子リオネルは魅了の魔法にかけられ、婚約者カナリアを断罪し処刑した。 デーニッツ王国はジンメル王国に攻め込まれ滅ぼされ、リオネルも亡くなってしまう。 天に上る前に神様と出会い、魅了が解けたリオネルは神様のお情けで転生することになった。 そして転生した先はクマ獣人の国、アウラー王国の王子。どこから見ても立派なもふもふの黒いクマだった。 リオネルはリオンハルトとして仲間達と魔獣退治をしながら婚約者のカナリアを探す。 しかし、仲間のツェツィーの姉、アマーリアがカナリアかもしれないと気になっている。 さて、カナリアは見つかるのか? アマーリアはカナリアなのか? 緩い世界の緩いお話です。 独自の異世界の話です。 初めて次世代ファンタジーカップにエントリーします。 応援してもらえると嬉しいです。 よろしくお願いします。

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

処理中です...