転生したら死にゲーの世界だったので、最初に出会ったNPCに全力で縋ることにしました。

黒蜜きな粉

文字の大きさ
上 下
62 / 80
侵入 プレイヤー

しおりを挟む
 サクラが短剣の攻撃を避けるために、反っていたからだを元に戻したとき。
 魔法使いの男は、サクラから距離を取ろうとバックステップをしている最中だった。

「……そっか、まだ諦めてくれない感じかな」

「まいりましたなんて言った覚えないけど?」

「たしかに言ってないね。油断しちゃったかもっ──⁉」

 サクラが言い終えるよりも先に、重力弾が飛んでくる。

 大樹の小枝を二つ以上持ち歩くことはできない。
 なぜなら、希少なアイテムのため、周回するときにいくつも引き継げるようなものではないからだ。

 ──もうこっちの攻撃を完璧に防げるアイテムは持っていないはず。なら、パタの特殊派生攻撃を当てられる間合いにさえ入れれば体力は削りきれるはず、だけど……。

 サクラは飛んできた重力弾をジャストガードする。
 そこからモーションをつなげて攻撃に派生、カウンターを決めた。

「──っぐう! クソ、この距離で届くのかよ」

「届いちゃうんだなあ。まだ信仰属性の特殊効果が切れてなかったから」

 ちゃんと見なきゃだめだよ、サクラはそう言いながら、右手に握っているパタを魔法使いの男の前に突き出した。
 その瞬間、刃の部分に巻きついていた草の蔓が枯れて、砂のようにサラサラと崩れ落ちる。
 剣の周囲を飛んでいた蝶々も、どこかへと飛び去っていった。

 属性を付与させた武器による特殊攻撃は、効果を発動させれば永続的に使えるというわけではない。
 90秒間という制約はあるが、ここぞというときに使うには十分すぎる時間だ。

「──クソクソクソクソ! その武器を信仰派生させて使ってる奴なんか見たことねえっつの! アホみてえな属性派生させやがって」

「なんでよー。お花と蝶々でかわいいじゃない! たしかにマッチした相手にお祭り派生ってバカにされたことはあったけどさ」

「……いってえ、マジで痛い……。おまえ、ふざけんなよ!」

 ガードからカウンターへ繋がる派生攻撃を使用すると、スタミナを大幅に消耗する。
 だが、成功させると通常の剣の攻撃よりも威力が強くなり、射程も伸びる。
 その上、サクラのパタは信仰属性の特殊効果を発動させていた状態だった。

 通常のカウンターの場合、1.5倍射程が伸びる。
 しかし、武器の特殊効果が発動中にかぎり、通常時の2倍の長さが攻撃射程となるのだ。

 バックステップで魔法使いの男との距離は多少あったものの、十分に攻撃の届く範囲だった。

「わたしはふざけてなんかいないよ。たぶんさ、ゲームのときと違って、あんまり血を流しすぎるのはよくないと思うのよね」

 サクラはカウンターで魔法使いの男の右肩を剣で貫いた。
 男は右手で杖を持っていたからだ。
 
 ──人殺しなんて勘弁してほしいし。杖が持てなくなれば、戦意なんてすぐになくなるでしょ。

 サクラはそう考えて、あえてカウンターを右肩にあてた。
 これがゲームなら、確実に急所を狙って命を取りにいった。
 
「……うう、痛い……。なんでこんなに痛いんだよー」

 魔法使いの男が涙声で訴えながら、がくりと地面に膝をついた。
 男の右肩からは大量の血が流れ出ている。

 右手はぶらりとしていて、なんとか繋がっているという状態だった。
 自分でやったこととはいえ、サクラは目を背けたくなってしまう。

「あなた、回復薬は持っていないの?」

「……俺がここに来て、もう、一年だぞ。そんなのは、とっくに使い切った……」

「一年もここで暮らしていたの⁉ じゃあクラフトする時間だってあったんじゃないの?」

「……材料を、取りに行くのだって……、命だけだろうが。だったら、回復魔法の方が安全、だからな……」

「それもそうね。魔法職ならその方が安全かもしれない」

 サクラは魔法使いの男の言い分に納得して、剣を鞘にしまう。
 男は息も絶え絶えに話している。
 戦意を喪失させる、その目的はすでに達していると判断した。
 サクラは魔法使いの男の前にしゃがみ込むと、アイテム鞄の中に手を入れた。

「わたしはね、ここに来てまだ3か月なんだ。できたら死にたくはないし、先輩としてこの世界の話を聞かせてもらいたいなと思うのだけど、どうかな?」

 魔法使いの男はサクラの問いかけに、少し怪訝そうな顔をした。
 だが、右肩が痛むのか下を向いてため息をつく。

「…………っかな、た。俺の名前、奏多かなたって、言うんだ……」

「そう、奏多くんっていうのね。もしかして日本人? このゲーム、日本の会社が作ったやつだったもんね」

 名前を聞いた途端、親近感がわいてしまう。
 サクラは回復瓶の蓋をあけて、奏多の口元に押し当てた。



 次の瞬間、目を開けていられないくらい眩しい光が辺りを包む。
 からだに激痛が走り、サクラは目を見開いた。
 
「さすがにゼロ距離で魔法を発動させたら、ガードも回避も無理っしょ」

 サクラの攻撃による右肩の怪我が治った奏多が、ニヤニヤ笑いながら立ち上がる。

「マジでおばさん油断しすぎ。さっきから何度も俺のこと殺せたのに見逃してさ。ちょっと舐めすぎじゃない?」

 奏多はサクラのからだに突き刺さっている杖を、ゆっくりと引き抜いた。
 杖の先端が青白く輝いている。
 彼はサクラの首筋に青白く輝く杖の先端を押し当てて、声をあげて笑う。

「あはははははは! さっきアンタは回復瓶は残り一本って言ってたよなあ。じゃあこれでマルチ報酬のアイテムゲットできんじゃね?」
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

私、平凡ですので……。~求婚してきた将軍さまは、バツ3のイケメンでした~

玉響なつめ
ファンタジー
転生したけど、平凡なセリナ。 平凡に生まれて平凡に生きて、このまま平凡にいくんだろうと思ったある日唐突に求婚された。 それが噂のバツ3将軍。 しかも前の奥さんたちは行方不明ときたもんだ。 求婚されたセリナの困惑とは裏腹に、トントン拍子に話は進む。 果たして彼女は幸せな結婚生活を送れるのか? ※小説家になろう。でも公開しています

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

【完結】転生したらもふもふだった。クマ獣人の王子は前世の婚約者を見つけだし今度こそ幸せになりたい。

金峯蓮華
ファンタジー
デーニッツ王国の王太子リオネルは魅了の魔法にかけられ、婚約者カナリアを断罪し処刑した。 デーニッツ王国はジンメル王国に攻め込まれ滅ぼされ、リオネルも亡くなってしまう。 天に上る前に神様と出会い、魅了が解けたリオネルは神様のお情けで転生することになった。 そして転生した先はクマ獣人の国、アウラー王国の王子。どこから見ても立派なもふもふの黒いクマだった。 リオネルはリオンハルトとして仲間達と魔獣退治をしながら婚約者のカナリアを探す。 しかし、仲間のツェツィーの姉、アマーリアがカナリアかもしれないと気になっている。 さて、カナリアは見つかるのか? アマーリアはカナリアなのか? 緩い世界の緩いお話です。 独自の異世界の話です。 初めて次世代ファンタジーカップにエントリーします。 応援してもらえると嬉しいです。 よろしくお願いします。

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

処理中です...