58 / 65
侵入 プレイヤー
3
しおりを挟む
油断していた。
プレイヤーならば、ここでクロビスと対立するはずがないと思い込んでいた。
「────っふざけんなあああああああああ!」
サクラは一瞬で魔法使いの男との距離をつめた。
クロビスから杖を引き抜いた魔法使いの男めがけて、おもいきり剣を叩き込む。
だが、一気に距離をつめたとはいえ、広場の入り口からでは遠すぎた。
魔法使いの男はサクラの突進に気がつき、ぎりぎりのところで攻撃をかわす。
男が身に着けていたローブの生地が、サクラの攻撃ですぱっと切れた。
魔法使いの男は、慌ててサクラから距離をとる。
遠距離攻撃特化の純魔法ビルドの魔法使いだ。
近距離戦闘特化の脳筋ビルドのサクラであれば、そのまますぐにあとを追えば殺せたかもしれない。
しかし、サクラはクロビスを放ってはおけなかった。
体制を崩してゆっくりと地面に倒れていく彼のからだを、抱きしめるようにして受けとめた。
「──おっと! ちょっとあなた大丈夫、なわけないか」
サクラは慌ててクロビスのからだをしっかりと支える。
そのままそっと丁寧に地面へ寝かせると、声をかけた。
「生きてる? まだ生きてるよね⁉︎」
「………………っ、サクラ、さん…………?」
「ああ、しゃべらなくていいから。とりあえずさっさとコレを飲んで。話はそれからにしましょう」
サクラはアイテム鞄の中から回復瓶を取り出すと、すぐに蓋をあけてクロビスの口に突っ込んだ。
クロビスのお腹のあたりには、魔法使いの男に刺されてできた大きな穴があった。
その穴があっという間にふさがり、クロビスは深くため息をついた。
「……はあ、あなたこんな規格外の回復薬を持っていたのですか?」
「残念だけど、その規格外の回復薬はあと一本しかないのよねえ」
「それならば私などには使わずに、とっておいたらよかったではないですか。貴重な品をいただいても、私はなにもお返しできませんよ?」
「そういうわけにはいかないでしょ。悪態つけるならもう平気ね」
上半身を起こしたクロビスを見て、サクラはほっと胸を撫でおろす。
そのまま彼の肩に額を擦りつけると、大きく息を吸った。
クロビスはよほどこの場に慌てて駆けつけてきたのだろう。
少し汗くさい匂いがした。
「……生きてて安心した。あなたのこと、頼りにしてるんだから……」
「そりゃどうも、ありとうございます。おかげさまでございますよ」
「それにね、わたしのことを拝みだしたり、女神さまだとか言い出さなくてよかったわ」
「……どうしました? 頭がおかしくなりましたか」
「なってないもん。……よし、チャージ完了!」
サクラは気持ちを切り替えて立ち上がる。
そんなサクラの様子を、クロビスは顔をしかめて見つめていた。
サクラはクロビスに背を向けると、魔法使いの男に視線を向ける。
サクラに視線をむけられた魔法使いの男は、すっと杖を構えた。
しかし、サクラは武器を構えずに背筋を伸ばすと、相手に向かって片手をあげた。
「こんにちは!」
サクラは元気よく相手に向かって挨拶をする。
途端に、魔法使いの男の顔色が変わった。
彼は構えていた杖をおろすと、ぴしっと背筋を伸ばした。
「こんにちは」
魔法使いの男は両手を前にして、腰を90度にまげてお辞儀をした。
それを見て、サクラの顔色も変わる。
──挨拶のジェスチャーをしたら、ご丁寧に挨拶を返してくれる。対人戦闘経験ありのマルチプレイヤー確定だわね。
このゲームはソロプレイが基本となる。
しかし、オンラインに接続時のみ、最大4人でのゲームプレイが可能だった。
──だけど、複数人でマルチ攻略中にかぎり、それを妨害するために他プレイヤーが敵対者として侵入してくるのよね。それで、対峙したときにこうして挨拶を交わすのが暗黙のルールみたいになっていたの。
侵入は他プレイヤーの世界に入り込み、対戦するオンラインマルチプレイの一種だ。
決められた場所に決められた装備で配置されているモブ敵とは違い、多種多様なビルドを組んだ相手と思いがけず戦うことになる。
とっさの判断力が求められることになるのだ。
それに慣れたプレイヤーであればあるほど、当然ながら対人戦闘スキルが高い。
──マルチ経験なしのプレイヤーだったらよかったのになあ。対人戦闘の心得があるプレイヤー相手だと、戦闘が長引きそうだわ。
やっぱり回復瓶はあるだけ持ってくればよかったと、サクラはほんの少しだけ後悔した。
プレイヤーならば、ここでクロビスと対立するはずがないと思い込んでいた。
「────っふざけんなあああああああああ!」
サクラは一瞬で魔法使いの男との距離をつめた。
クロビスから杖を引き抜いた魔法使いの男めがけて、おもいきり剣を叩き込む。
だが、一気に距離をつめたとはいえ、広場の入り口からでは遠すぎた。
魔法使いの男はサクラの突進に気がつき、ぎりぎりのところで攻撃をかわす。
男が身に着けていたローブの生地が、サクラの攻撃ですぱっと切れた。
魔法使いの男は、慌ててサクラから距離をとる。
遠距離攻撃特化の純魔法ビルドの魔法使いだ。
近距離戦闘特化の脳筋ビルドのサクラであれば、そのまますぐにあとを追えば殺せたかもしれない。
しかし、サクラはクロビスを放ってはおけなかった。
体制を崩してゆっくりと地面に倒れていく彼のからだを、抱きしめるようにして受けとめた。
「──おっと! ちょっとあなた大丈夫、なわけないか」
サクラは慌ててクロビスのからだをしっかりと支える。
そのままそっと丁寧に地面へ寝かせると、声をかけた。
「生きてる? まだ生きてるよね⁉︎」
「………………っ、サクラ、さん…………?」
「ああ、しゃべらなくていいから。とりあえずさっさとコレを飲んで。話はそれからにしましょう」
サクラはアイテム鞄の中から回復瓶を取り出すと、すぐに蓋をあけてクロビスの口に突っ込んだ。
クロビスのお腹のあたりには、魔法使いの男に刺されてできた大きな穴があった。
その穴があっという間にふさがり、クロビスは深くため息をついた。
「……はあ、あなたこんな規格外の回復薬を持っていたのですか?」
「残念だけど、その規格外の回復薬はあと一本しかないのよねえ」
「それならば私などには使わずに、とっておいたらよかったではないですか。貴重な品をいただいても、私はなにもお返しできませんよ?」
「そういうわけにはいかないでしょ。悪態つけるならもう平気ね」
上半身を起こしたクロビスを見て、サクラはほっと胸を撫でおろす。
そのまま彼の肩に額を擦りつけると、大きく息を吸った。
クロビスはよほどこの場に慌てて駆けつけてきたのだろう。
少し汗くさい匂いがした。
「……生きてて安心した。あなたのこと、頼りにしてるんだから……」
「そりゃどうも、ありとうございます。おかげさまでございますよ」
「それにね、わたしのことを拝みだしたり、女神さまだとか言い出さなくてよかったわ」
「……どうしました? 頭がおかしくなりましたか」
「なってないもん。……よし、チャージ完了!」
サクラは気持ちを切り替えて立ち上がる。
そんなサクラの様子を、クロビスは顔をしかめて見つめていた。
サクラはクロビスに背を向けると、魔法使いの男に視線を向ける。
サクラに視線をむけられた魔法使いの男は、すっと杖を構えた。
しかし、サクラは武器を構えずに背筋を伸ばすと、相手に向かって片手をあげた。
「こんにちは!」
サクラは元気よく相手に向かって挨拶をする。
途端に、魔法使いの男の顔色が変わった。
彼は構えていた杖をおろすと、ぴしっと背筋を伸ばした。
「こんにちは」
魔法使いの男は両手を前にして、腰を90度にまげてお辞儀をした。
それを見て、サクラの顔色も変わる。
──挨拶のジェスチャーをしたら、ご丁寧に挨拶を返してくれる。対人戦闘経験ありのマルチプレイヤー確定だわね。
このゲームはソロプレイが基本となる。
しかし、オンラインに接続時のみ、最大4人でのゲームプレイが可能だった。
──だけど、複数人でマルチ攻略中にかぎり、それを妨害するために他プレイヤーが敵対者として侵入してくるのよね。それで、対峙したときにこうして挨拶を交わすのが暗黙のルールみたいになっていたの。
侵入は他プレイヤーの世界に入り込み、対戦するオンラインマルチプレイの一種だ。
決められた場所に決められた装備で配置されているモブ敵とは違い、多種多様なビルドを組んだ相手と思いがけず戦うことになる。
とっさの判断力が求められることになるのだ。
それに慣れたプレイヤーであればあるほど、当然ながら対人戦闘スキルが高い。
──マルチ経験なしのプレイヤーだったらよかったのになあ。対人戦闘の心得があるプレイヤー相手だと、戦闘が長引きそうだわ。
やっぱり回復瓶はあるだけ持ってくればよかったと、サクラはほんの少しだけ後悔した。
31
お気に入りに追加
264
あなたにおすすめの小説
【完結】「父に毒殺され母の葬儀までタイムリープしたので、親戚の集まる前で父にやり返してやった」
まほりろ
恋愛
十八歳の私は異母妹に婚約者を奪われ、父と継母に毒殺された。
気がついたら十歳まで時間が巻き戻っていて、母の葬儀の最中だった。
私に毒を飲ませた父と継母が、虫の息の私の耳元で得意げに母を毒殺した経緯を話していたことを思い出した。
母の葬儀が終われば私は屋敷に幽閉され、外部との連絡手段を失ってしまう。
父を断罪できるチャンスは今しかない。
「お父様は悪くないの!
お父様は愛する人と一緒になりたかっただけなの!
だからお父様はお母様に毒をもったの!
お願いお父様を捕まえないで!」
私は声の限りに叫んでいた。
心の奥にほんの少し芽生えた父への殺意とともに。
※他サイトにも投稿しています。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
※「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※タイトル変更しました。
旧タイトル「父に殺されタイムリープしたので『お父様は悪くないの!お父様は愛する人と一緒になりたくてお母様の食事に毒をもっただけなの!』と叫んでみた」
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
義理の妹が妊娠し私の婚約は破棄されました。
五月ふう
恋愛
「お兄ちゃんの子供を妊娠しちゃったんだ。」義理の妹ウルノは、そう言ってにっこり笑った。それが私とザックが結婚してから、ほんとの一ヶ月後のことだった。「だから、お義姉さんには、いなくなって欲しいんだ。」
お父様、お母様、わたくしが妖精姫だとお忘れですか?
サイコちゃん
恋愛
リジューレ伯爵家のリリウムは養女を理由に家を追い出されることになった。姉リリウムの婚約者は妹ロサへ譲り、家督もロサが継ぐらしい。
「お父様も、お母様も、わたくしが妖精姫だとすっかりお忘れなのですね? 今まで莫大な幸運を与えてきたことに気づいていなかったのですね? それなら、もういいです。わたくしはわたくしで自由に生きますから」
リリウムは家を出て、新たな人生を歩む。一方、リジューレ伯爵家は幸運を失い、急速に傾いていった。
〖完結〗死にかけて前世の記憶が戻りました。側妃? 贅沢出来るなんて最高! と思っていたら、陛下が甘やかしてくるのですが?
藍川みいな
恋愛
私は死んだはずだった。
目を覚ましたら、そこは見知らぬ世界。しかも、国王陛下の側妃になっていた。
前世の記憶が戻る前は、冷遇されていたらしい。そして池に身を投げた。死にかけたことで、私は前世の記憶を思い出した。
前世では借金取りに捕まり、お金を返す為にキャバ嬢をしていた。給料は全部持っていかれ、食べ物にも困り、ガリガリに痩せ細った私は路地裏に捨てられて死んだ。そんな私が、側妃? 冷遇なんて構わない! こんな贅沢が出来るなんて幸せ過ぎるじゃない!
そう思っていたのに、いつの間にか陛下が甘やかして来るのですが?
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星里有乃
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる