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 サクラは屋根の上を全速力で移動していた。
 もうすぐ城門だというところまできて、地面に倒れている兵士たちの中に、知った顔を見つけてしまった。
 サクラは足を止めると、屋根の上から地面へ飛び降りた。

「ねえちょっと! あなた大丈夫⁉︎」

 倒れていたのは、昨日サクラを家に送り届けてくれた警備兵だ。
 彼のそばには、ひしゃげた兜が転がっている。
 それが、敵対者の強さ、ここでどれほど激しい戦闘があったかを物語っていた。

 しかし、顔が見えたおかげで知り合いだと分かったのだ。それだけは感謝してやってもいい。

「……サクラ、さん。私に、近づかないほうが……」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ?」

 サクラは警備兵に駆け寄った。
 血の海の中にいる彼はもう虫の息だった。

「……本当に、もうわたしは、ダメ、ですから……」

「大丈夫だから。喋らないで!」

 警備兵はもう自分自身の死を覚悟している。
 自分から離れるように、サクラに訴えてくる。

 サクラはそんな警備兵の警告を無視した。
 彼の真横に座り込んで、アイテム鞄の中に手を突っ込んだ。

 ──この回復瓶。ゲームの中だと使用するを選択すると、口につけて飲むモーションをしていたよね。それってさ、飲まなきゃ効果がないってことであってるよね?

 サクラは取り出した回復瓶の蓋を開ける。
 警備兵はサクラを遠ざけようと、気力を振り絞って手を動かしていた。
 サクラはそんな彼の手を片手で握る。

「お願いだから、これを飲んで。大丈夫だから」

 サクラはもう片方の手で、警備兵の口元に回復瓶を押し当てた。
 しかし、彼はサクラがこの場から動かないことを悟ると、自ら離れていこうともがきだす。
 ジタバタあばれてしまって、うまく薬を飲ませられない。

「大丈夫だって、これ回復薬だから! それもかなり上級のやつ」

 そうサクラが言い聞かせても、瀕死の重症の中でなんとか意識を保っているような状態だ。
 警備兵にはサクラの言葉が届かない。

 そうこうしているうちに、サクラは蓋をあけた回復瓶を地面に落としてしまった。
 瓶が音を立てて転がり、中身が地面に吸い込まれていく。

 ──人命救助だから。これは人命救助だもの。恋人とかいたってさ、我慢してもらうしかないよね。助けた側がセクハラで訴えられるとか、そういうのは勘弁してね!

 サクラはもう一本、アイテム鞄から回復薬を取り出す。
 蓋を開けて中身を口に含むと、空になった瓶を地面に勢いよく投げ捨てる。 

 サクラは覚悟を決めて、もがく警備兵の頭を両手で押さえつけた。
 そのまま口移しで、無理やり回復薬を飲ませる。

「…………ね? 大丈夫だったでしょう」

 警備兵の傷はあっという間に治った。
 彼は驚いて、何度も自分のからだに手を当てて目を丸くしている。

「……っそんな、魔法ではないのにこの回復力。かなりの高級品では?」

「だから、上級のやつって言ったじゃない」

 ラスボス相手に持っていく回復薬だ。
 上級アイテムに決まっている。

「そんな貴重な品を私なんかに!」

「大丈夫! わたしね、調合は得意なんだ」

 なにせ調合スキルもカンストしてますから、とは口には出さない。
 このゲームではアイテム制作にキャラクターのステータスやレベルは関係なかった。

 作りたいアイテムの調合書さえ手に入れば、どんなアイテムも作成できる。
 取得可能アイテムを全て入手するという実績を解除しているサクラに、アイテム制作調合書の抜けはない。

「感謝しているのなら、いますぐにあなたをそんなふうにボロボロにした稀人の特徴を教えて。早く!」
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