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「おかえりなさい。思っていたよりもお早い帰宅ですね」
「ただいま。そっちこそ、今日は帰りが早いね」
サクラは暗礁の森で装備品を回収したあと、クロビスの家へまっすぐに帰ってきた。
サクラが家の玄関に入ると、目の前にクロビスがいた。
外はまだ太陽が出ているので明るい。
稀人の襲撃があったばかりなので、軍属のクロビスの帰りはもっと遅くなるものだと思っていた。
「……私は少し休んだら城に戻ります。さすがに襲撃後ですので、やることが山積みですから」
「やっぱりそうなの。あまり無理をしないでね」
クロビスの声には張りがない。
ノルウェットを失ったばかりなのだ。そう簡単に気持ちが持ち直せるわけもないだろう。
──その辺りを周囲に気遣われたのかな。休憩をとるならご自宅で、とか言われて帰ってきたのかもね。
サクラはクロビスのもとまで歩み寄る。
彼の目の前に立つと、黒い仮面を外して顔を覗き込んだ。
「疲れた顔してる。本当に無理だけはしないでね」
「私のことはいいのです」
クロビスはそう言いながら、サクラの手から仮面を取り返す。
「それよりも、サクラさんの方は落としたという荷物が無事に見つかったようですね?」
「うん、そうなの。荷物はみつかったけど、量が多過ぎてね」
サクラは肩から斜めに下げたアイテム鞄を指差した。
「私も一時帰宅なの。これを整理するために帰ってきたんだよね」
森の中にあったサクラの装備品たち。
ゲーム内のキャラクターに持たせていたときはなんとも思わなかった。
しかし、それを実際に目の前にすると、相当量の荷物であることが判明したのである。
「なんか、思ってたよりも大荷物なのよね。さすがに邪魔すぎるなって」
サクラは回収した武器を背中に背負い、防具は小さくまとめてアイテム鞄に詰め込んだ。
サクラが回収してきたアイテム鞄の中には、ラスボス戦闘の際に使用していた回復アイテムやバフ、デバフ効果のあるアイテムがぎっちりと隙間なく入っていた。
そこへ、サクラがアバターに着せていた「旅の踊り子シリーズ防具一式(頭・胴・手・足)」を詰め込んだのだ。
いまにもはち切れそうなくらいに、パンパンに膨らんでいる。
──ゲームプレイ中だとアイテムスロットから使ってたもんね。そりゃ現実だとこうなるのよね。だって、所持数の限界値まで持ってないと不安になるんだもん。
サクラの膨らんだアイテム鞄を見て、クロビスがため息をついた。
「やはりあなたは以前から掃除というか、整理整頓というものが苦手なのですね」
「ち、違うの! さすがに着ていた服はね、森の中で着替えるわけにもいかないし。てか、これで外を歩いていたらお祭りみたいで変かなって思ってね。無理やり鞄に入れたらこうなっちゃっただけなの」
「着ていた服? あなたと森の中で会ったとき、服は着ておられたと思うのですが」
「あ、えっとね。違くて、そのー……」
余計なことを口走った。
サクラがあからさまに動揺を見せると、クロビスは無言でサクラのアイテム鞄を開けた。
彼はアイテム鞄の中から青い布を手に取って広げる。
「……これは、踊り子の衣装?」
中から出てきたのは真っ青な色の布面積が少なめのドレス。
おそらくデザインのイメージはベリーダンサーの衣装あたりだろう。
防具と呼ぶにはあまりにも防御力が頼りにならない。見た目の美しさだけに振り切った装備品だ。
「これ、サクラさんの持ち物なのですか?」
「そうだよ! 私がこれを着てたの。悪い⁉︎」
旅の踊り子装備は、一式身につけると素早さとスタミナがアップする効果がある。
とはいえ、さすがにダンス衣装風の防具を装備した状態で街に帰ってくる勇気はなかった。
「いいえ。非常に興味があるので、着て見せていただきたいです。できれば踊っていただきたいです」
クロビスが機嫌良さそうにニコリと微笑む。
「悪いけど、私は踊れないからね」
「そうなのですか? それは残念です」
クロビスが穏やかに微笑みながらみつめてくる。
彼はそのままサクラの腰に腕を回して抱き寄せると、こめかみに唇を寄せてきた。
サクラはそんなクロビスにゲンナリして、ため息をついた。
「まあまあお二人とも。いつまでもそんなところでお話をしていないで、おやすみになったらどうですか?」
サクラとクロビスが玄関で話し込んでいると、廊下の奥からヴァルカに声をかけられた。
「ほらほら、ゆっくりお休みできるようにお飲み物をお持ちしますから。先に寝室へいって待っててくださいませ」
ヴァルカは遠慮なくこちらに近づいてくると、サクラとクロビスの背中をぐいぐいと押す。
「いや、私は行かないから! てか、なんで寝室なのよ。休憩するのはこの人だけでしょ」
「あらあら、せっかくですからお二人でごゆっくりなさってくださいませ」
抵抗するサクラを、ヴァルカが強引に連れて行こうとする。
ぎゃあぎゃあと廊下で騒いでいたときだった。
━━カーンカーンカーンカーンカーンカーンカーンカーンカーンカーン!
鐘の音が聞こえた。
「おかえりなさい。思っていたよりもお早い帰宅ですね」
「ただいま。そっちこそ、今日は帰りが早いね」
サクラは暗礁の森で装備品を回収したあと、クロビスの家へまっすぐに帰ってきた。
サクラが家の玄関に入ると、目の前にクロビスがいた。
外はまだ太陽が出ているので明るい。
稀人の襲撃があったばかりなので、軍属のクロビスの帰りはもっと遅くなるものだと思っていた。
「……私は少し休んだら城に戻ります。さすがに襲撃後ですので、やることが山積みですから」
「やっぱりそうなの。あまり無理をしないでね」
クロビスの声には張りがない。
ノルウェットを失ったばかりなのだ。そう簡単に気持ちが持ち直せるわけもないだろう。
──その辺りを周囲に気遣われたのかな。休憩をとるならご自宅で、とか言われて帰ってきたのかもね。
サクラはクロビスのもとまで歩み寄る。
彼の目の前に立つと、黒い仮面を外して顔を覗き込んだ。
「疲れた顔してる。本当に無理だけはしないでね」
「私のことはいいのです」
クロビスはそう言いながら、サクラの手から仮面を取り返す。
「それよりも、サクラさんの方は落としたという荷物が無事に見つかったようですね?」
「うん、そうなの。荷物はみつかったけど、量が多過ぎてね」
サクラは肩から斜めに下げたアイテム鞄を指差した。
「私も一時帰宅なの。これを整理するために帰ってきたんだよね」
森の中にあったサクラの装備品たち。
ゲーム内のキャラクターに持たせていたときはなんとも思わなかった。
しかし、それを実際に目の前にすると、相当量の荷物であることが判明したのである。
「なんか、思ってたよりも大荷物なのよね。さすがに邪魔すぎるなって」
サクラは回収した武器を背中に背負い、防具は小さくまとめてアイテム鞄に詰め込んだ。
サクラが回収してきたアイテム鞄の中には、ラスボス戦闘の際に使用していた回復アイテムやバフ、デバフ効果のあるアイテムがぎっちりと隙間なく入っていた。
そこへ、サクラがアバターに着せていた「旅の踊り子シリーズ防具一式(頭・胴・手・足)」を詰め込んだのだ。
いまにもはち切れそうなくらいに、パンパンに膨らんでいる。
──ゲームプレイ中だとアイテムスロットから使ってたもんね。そりゃ現実だとこうなるのよね。だって、所持数の限界値まで持ってないと不安になるんだもん。
サクラの膨らんだアイテム鞄を見て、クロビスがため息をついた。
「やはりあなたは以前から掃除というか、整理整頓というものが苦手なのですね」
「ち、違うの! さすがに着ていた服はね、森の中で着替えるわけにもいかないし。てか、これで外を歩いていたらお祭りみたいで変かなって思ってね。無理やり鞄に入れたらこうなっちゃっただけなの」
「着ていた服? あなたと森の中で会ったとき、服は着ておられたと思うのですが」
「あ、えっとね。違くて、そのー……」
余計なことを口走った。
サクラがあからさまに動揺を見せると、クロビスは無言でサクラのアイテム鞄を開けた。
彼はアイテム鞄の中から青い布を手に取って広げる。
「……これは、踊り子の衣装?」
中から出てきたのは真っ青な色の布面積が少なめのドレス。
おそらくデザインのイメージはベリーダンサーの衣装あたりだろう。
防具と呼ぶにはあまりにも防御力が頼りにならない。見た目の美しさだけに振り切った装備品だ。
「これ、サクラさんの持ち物なのですか?」
「そうだよ! 私がこれを着てたの。悪い⁉︎」
旅の踊り子装備は、一式身につけると素早さとスタミナがアップする効果がある。
とはいえ、さすがにダンス衣装風の防具を装備した状態で街に帰ってくる勇気はなかった。
「いいえ。非常に興味があるので、着て見せていただきたいです。できれば踊っていただきたいです」
クロビスが機嫌良さそうにニコリと微笑む。
「悪いけど、私は踊れないからね」
「そうなのですか? それは残念です」
クロビスが穏やかに微笑みながらみつめてくる。
彼はそのままサクラの腰に腕を回して抱き寄せると、こめかみに唇を寄せてきた。
サクラはそんなクロビスにゲンナリして、ため息をついた。
「まあまあお二人とも。いつまでもそんなところでお話をしていないで、おやすみになったらどうですか?」
サクラとクロビスが玄関で話し込んでいると、廊下の奥からヴァルカに声をかけられた。
「ほらほら、ゆっくりお休みできるようにお飲み物をお持ちしますから。先に寝室へいって待っててくださいませ」
ヴァルカは遠慮なくこちらに近づいてくると、サクラとクロビスの背中をぐいぐいと押す。
「いや、私は行かないから! てか、なんで寝室なのよ。休憩するのはこの人だけでしょ」
「あらあら、せっかくですからお二人でごゆっくりなさってくださいませ」
抵抗するサクラを、ヴァルカが強引に連れて行こうとする。
ぎゃあぎゃあと廊下で騒いでいたときだった。
━━カーンカーンカーンカーンカーンカーンカーンカーンカーンカーン!
鐘の音が聞こえた。
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