47 / 80
リスタート
1
しおりを挟む────────────────
薄暗い森の中に、サクラは立っている。
周囲には霧が立ち込めていて、遠くまでよく見えない。
ここは「暗礁の森」の中だ。
サクラはゲームのスタート地点からやり直そうと思い、ここまで戻ってきた。
まさにいまのサクラの状態は、暗礁に乗り上げてしまっている。
物事が行き詰まってお手上げ状態だ。
皮肉なものだなと、サクラはひとり深い森の中で自嘲気味に笑う。
「……まあでも、ね。最初からやり直しなんて、ゲームじゃよくあることだもの。こちとらこのゲームを何回も周回プレイだってしてたってのよ」
サクラは強がって声を出す。
もうゲームとは違うと理解はできているが、そうでもしなければ恐ろしくて先に進めない。
からだが震えてしまいそうなのだ。
「ベルヴェイクがいつまたちょっかい出してくるかわからないもん。なら、ある程度は備えておかなきゃいけないはずだよね」
水面に映った稀人の戦闘の様子。
あれを見ていて、サクラは気がついたことがある。
水面に映っていた異世界からやってきた流れ者。
その彼は、ゲーム開始前のキャラクタークリエイトのときに選べる武器を手にしていた。
対して、サクラは武器を持っていない。
この世界に来たときに、サクラの服装はありきたりな布の服であった。
まさしく、ゲームの初期装備そのものだったはずだ。
しかし、サクラはキャラクリのときに選んだはずの最初の武器を所持していた記憶がない。
「うすうす感じてはいたんだけどね。私の馬鹿力って、周回データを引き継いでいるんじゃないかってさ」
周回プレイ。
それは、ゲームをクリアした後に、もういちどクリアを目指して最初からプレイすることだ。
そして、周回データを引き継いでいるとは、なんども同じゲームをクリアすることで得られたステータスや武器、アイテム等を所持したままゲームの再プレイができることだ。
いわゆる「強くてニューゲーム」というやつである。
「このゲームのデータ引き継ぎって、どういうわけか最初のタイトルロゴムービーまでは、プレイ一周目の初期装備状態に戻されているのよね」
多くのロールプレイングゲームにおける周回プレイに入るときのデータ引き継ぎは、クリアした時に身につけていた装備品そのままの状態で再スタートできる。
しかし、このゲームは違った。
ゲームが開始されて最初のムービー、つまりクロビスと出会って会話を終えるまでは、ありきたりな布の服に強制的に戻されてしまうのだ。
おそらく開発側のこだわりなのだろう。
なにもできずに熊から逃げ回るという演出的な都合上、みすぼらしい服装が絵面的によいと思っているのかもしれない。
その方がクロビスの台詞「流れ者」とも、違和感が少なくなるような気がする。
「だからってプレイヤー側からしたら迷惑極まりないのよね。クロビスとの会話後にいちいちメニュー画面を開いてさ、キャラクターに防具の装備させ直しになるから」
しかも、初期装備に戻るといっても、プレイ一周目と二周目以降ではちょっとした違いがある。
それがキャラクリ時に選んだ武器を所持しているか、いないかの違いだ。
「このあたり、ベルヴェイクは知らないのかもね。だからプレイヤーって言葉で鎌をかけてきたのかも」
72
お気に入りに追加
236
あなたにおすすめの小説


異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!


転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

異世界で悪役令嬢として生きる事になったけど、前世の記憶を持ったまま、自分らしく過ごして良いらしい
千晶もーこ
恋愛
あの世に行ったら、番人とうずくまる少女に出会った。少女は辛い人生を歩んできて、魂が疲弊していた。それを知った番人は私に言った。
「あの子が繰り返している人生を、あなたの人生に変えてください。」
「………はぁああああ?辛そうな人生と分かってて生きろと?それも、繰り返すかもしれないのに?」
でも、お願いされたら断れない性分の私…。
異世界で自分が悪役令嬢だと知らずに過ごす私と、それによって変わっていく周りの人達の物語。そして、その物語の後の話。
※この話は、小説家になろう様へも掲載しています
多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】
23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも!
そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。
お願いですから、私に構わないで下さい!
※ 他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる