44 / 80
争いのあとに
3
しおりを挟む
サクラはクロビスの背中を優しく撫でる。
「悲しいときには泣いていいし、疲れたときは休んでいいんだよ」
サクラが手にしているクロビスの黒い仮面。
これはゲーム内でアイテムとして入手できるものだ。
黒い仮面のフレーバーテキストには、こう書いてあった。
『なぜ神は争いを強いるのだ。
私はいつまで戦で傷ついた人々を癒していればいいのだろう。
目の前で命が消えていく。
救った命が再び戦場に向かい散っていく。
神よ。
私はもう救うことに疲れました。
ああ、私がその痛みや苦しみを代わってあげることができたなら……』
クロビスは信仰系魔法の使い手だ。
信仰対象の神を崇め、その神の示す教えに従い誠実に生きてきたはずだ。
そんなクロビスが完全に神を見放したとき。
世界の在り方に絶望してしまったとき。
彼は闇堕ちしてプレイヤーと敵対関係になる。
きっともう、クロビスの信仰には揺らぎがある。
だからこそ、クロビスは稀人が王になることを望んでいるのかもしれない。
王さえいればそれでいい。
玉座に誰かが座れば、ひとまずは醜い争いが終わるとでも思っているのだろうか。
たとえそれが、クロビスの信じる神の教えに反することだとしても。
「あなたの胸の痛みや苦しみは変わってあげられないけど、わたしは消えたりしないから。今日は一緒にいるから、ね?」
サクラがクロビスの胸の中でそう言うと、ぎゅっと抱きしめ返された。
しばらくの間、サクラとクロビスは廊下で抱き合っていた。
「…………………………………………はあ」
どれくらいの時間が経ったのだろうか。
それまで無言だったクロビスが、静かにため息をついた。
その直後、サクラのからだがふわりと宙に浮いた。
「うわわ! ちょっといきなりなに? 怖いんだけど」
気がつけば、サクラはクロビスに抱きあげられていた。
いわゆるお姫さま抱っこの状態で、サクラは慌ててクロビスの首に手をまわす。
「今日は一緒にいてくださるのでしょう?」
「え、ええ。辛いときにひとりでいるのは寂しいじゃない」
「では、一緒にいてください」
抱きあげられたまま、サクラはクロビスの寝室に連れていかれた。
彼は部屋の中に入ると、まっすぐにベッドへ向かう。
「……だってあなた、人形を抱く趣味はないって言ってたのに」
「気が変わりました」
クロビスはサクラをベッドに投げ下ろして、すぐに覆い被さってきた。
「今日は人肌が恋しい気分なのです。あなたが一緒にいてくださると言うのなら、今夜は付き合ってくださいね」
クロビスはサクラの耳元で囁いたあと、おもいきり首に噛みついてきた。
「──っ痛あ!」
「崖から落下しても無事なのに、この程度で血がでるのですね」
クロビスは感心した声を出しながら、自分が噛んで傷つけたサクラの首を撫でている。
満足そうに微笑みながら、サクラをみつめてくる。
「こういうときの雰囲気とかさ。そういうのはないのかしらね」
「愛してると言えば、素直に抱かれてくれますか?」
「……そういうところがさ。まあ、いいけど。わたしはあなたの婚約者だしね」
サクラは憎たらしく笑っているクロビスの頬をつねった。
「この世界にきたときは死にたくなくて必死であなたに助けを求めたの。打算があったの。だけどね、わたしはもうあなたが優しい人だって知っちゃったから……」
サクラが話している途中で、噛みつくようにキスをされた。
「言葉はいらないので、私がひとりではないことを実感させてください」
「悲しいときには泣いていいし、疲れたときは休んでいいんだよ」
サクラが手にしているクロビスの黒い仮面。
これはゲーム内でアイテムとして入手できるものだ。
黒い仮面のフレーバーテキストには、こう書いてあった。
『なぜ神は争いを強いるのだ。
私はいつまで戦で傷ついた人々を癒していればいいのだろう。
目の前で命が消えていく。
救った命が再び戦場に向かい散っていく。
神よ。
私はもう救うことに疲れました。
ああ、私がその痛みや苦しみを代わってあげることができたなら……』
クロビスは信仰系魔法の使い手だ。
信仰対象の神を崇め、その神の示す教えに従い誠実に生きてきたはずだ。
そんなクロビスが完全に神を見放したとき。
世界の在り方に絶望してしまったとき。
彼は闇堕ちしてプレイヤーと敵対関係になる。
きっともう、クロビスの信仰には揺らぎがある。
だからこそ、クロビスは稀人が王になることを望んでいるのかもしれない。
王さえいればそれでいい。
玉座に誰かが座れば、ひとまずは醜い争いが終わるとでも思っているのだろうか。
たとえそれが、クロビスの信じる神の教えに反することだとしても。
「あなたの胸の痛みや苦しみは変わってあげられないけど、わたしは消えたりしないから。今日は一緒にいるから、ね?」
サクラがクロビスの胸の中でそう言うと、ぎゅっと抱きしめ返された。
しばらくの間、サクラとクロビスは廊下で抱き合っていた。
「…………………………………………はあ」
どれくらいの時間が経ったのだろうか。
それまで無言だったクロビスが、静かにため息をついた。
その直後、サクラのからだがふわりと宙に浮いた。
「うわわ! ちょっといきなりなに? 怖いんだけど」
気がつけば、サクラはクロビスに抱きあげられていた。
いわゆるお姫さま抱っこの状態で、サクラは慌ててクロビスの首に手をまわす。
「今日は一緒にいてくださるのでしょう?」
「え、ええ。辛いときにひとりでいるのは寂しいじゃない」
「では、一緒にいてください」
抱きあげられたまま、サクラはクロビスの寝室に連れていかれた。
彼は部屋の中に入ると、まっすぐにベッドへ向かう。
「……だってあなた、人形を抱く趣味はないって言ってたのに」
「気が変わりました」
クロビスはサクラをベッドに投げ下ろして、すぐに覆い被さってきた。
「今日は人肌が恋しい気分なのです。あなたが一緒にいてくださると言うのなら、今夜は付き合ってくださいね」
クロビスはサクラの耳元で囁いたあと、おもいきり首に噛みついてきた。
「──っ痛あ!」
「崖から落下しても無事なのに、この程度で血がでるのですね」
クロビスは感心した声を出しながら、自分が噛んで傷つけたサクラの首を撫でている。
満足そうに微笑みながら、サクラをみつめてくる。
「こういうときの雰囲気とかさ。そういうのはないのかしらね」
「愛してると言えば、素直に抱かれてくれますか?」
「……そういうところがさ。まあ、いいけど。わたしはあなたの婚約者だしね」
サクラは憎たらしく笑っているクロビスの頬をつねった。
「この世界にきたときは死にたくなくて必死であなたに助けを求めたの。打算があったの。だけどね、わたしはもうあなたが優しい人だって知っちゃったから……」
サクラが話している途中で、噛みつくようにキスをされた。
「言葉はいらないので、私がひとりではないことを実感させてください」
72
お気に入りに追加
236
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!


異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。

[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します
mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。
中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。
私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。
そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。
自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。
目の前に女神が現れて言う。
「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」
そう言われて私は首を傾げる。
「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」
そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。
神は書類を提示させてきて言う。
「これに書いてくれ」と言われて私は書く。
「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。
「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」
私は頷くと神は笑顔で言う。
「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。
ーーーーーーーーー
毎話1500文字程度目安に書きます。
たまに2000文字が出るかもです。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる