転生したら死にゲーの世界だったので、最初に出会ったNPCに全力で縋ることにしました。

黒蜜きな粉

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大型ダンジョン いいえ、普通のお城ですよ?

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「……運命に逆らえなかったって、どういうことですか……?」

 サクラは震える声でベルヴェイクに尋ねる。
 真っ青になっているサクラを、ベルヴェイクは笑って見下ろしていた。

『ご覧の通りだ。我々の母たる大樹のもとへ、魂が帰っていったのだ』

 サクラは足もとに目を落とす。
 水面に映っているのは、ゲーム開始時にプレイヤーが身につけている初期装備と同じ格好をしたひとりの男。
 街を守る兵士たちに全身を滅多刺しにされて、地面に倒れ込んでいる。
 
 サクラの見ている水面がゲーム画面ならば、でかでかとゲームオーバーを示す文字が表示されていることだろう。
 ゲームであればプレイヤーキャラクターはそのまま霧のように消えてなくなる。
 そして、直前に立ち寄ったリスポーン地点である光る木のもとで目覚めるはずだ。

「……や、やっぱり都合よく生き返れたりしないんだ! だって、地面に倒れたまま、動かない……」

 倒れている男はそのまま布を被せられ、兵士たちに運ばれていく。
 運ばれていくとき、男の腕が力なく垂れ下がり、サクラはぞっとした。
 頭の中で死んだ男と自分が重なってしまい、恐怖にかられる。

「……ご、ご覧の通りと言われても、理解できません。この部屋の中に入れば知りたいことを教えてくれるはずですよね?」

『残念だが、私は貴様の質問に答えるとは言っていないぞ』

 ベルヴェイクは楽しそうに笑っている。
 その姿があまりに憎らしくて、サクラの中の恐怖が消えた。
 サクラは目の前のベルヴェイクを睨みつけた。

「……そうですね。あなたはそういうお方でしたわ」

『やはり貴様はおもしろい。プレイヤーはそれなりにやってくるが、3日と生き残れない者がほとんどなのだぞ』

 そう言って、ベルヴェイクはもういちど指を鳴らした。
 すると、今度は目の前に背もたれ付きの椅子が二つ出現した。

『いつまでも立っていては疲れるだろう。せっかくだ、座って話そうか?』

 言い終えるよりも先に、ベルヴェイクはどかりと椅子に腰掛ける。
 にやにやと笑ってサクラを見ているので、負けずに勢いよく椅子に座る。

『先に言う。質問は受け付けない』
 
 ベルヴェイクは背もたれにからだを預け、ゆっくりと足を組みながら話しだす。

『貴様も知る通り、我々がいるこの場所は大樹の中に存在する世界だ。ちなみに、私が話している間に口を挟むことも許さない』

 この世界の設定には、北欧神話の要素が多い。
 そんなことは知っている、そう言おうと口を開きかけたサクラを、ベルヴェイクが制す。

 ──口を挟むことは許さないということは、黙って話を聞いていろってことね。本当にわがままでムカつく王子さまなんだから。

 サクラは了承の意思を示すために、小さく頷いた。
 すると、ベルヴェイクは満足そうに微笑み、話を続けた。

『貴様が元いた世界。そこも同じ大樹の中に存在する一つの世界なのだ』

「────────っ⁉︎」

 ベルヴェイクの思いがけない言葉に、サクラは声が出そうになる。

 気まぐれなベルヴェイクのことだ。
 たったひと言、サクラが驚きの声を上げただけでも話を中断するだろう。

 サクラは慌てて自分の手で口を塞ぐ。 

『大樹の中にある世界に存在する生き物は、命が尽きると魂が大樹に帰る。大樹に帰った魂は、いずれ新たな肉体へと宿る。生死を繰り返しているのだ』

 よくある輪廻転生の概念だ。
 サクラは口を手で押さえたまま頷き、ベルヴェイクの言葉に耳を傾ける。

『ただし、新たな肉体を得るのは、その魂が以前に住んでいた世界だけ。これが大樹の基本的な法則なのだ。しかし、その法則がときおり乱れてしまうことがあるのだよ』

 そこまで話して、ベルヴェイクは指を鳴らしてサクラを指さしてくる。

『それが稀人。大樹が内包する様々な世界を渡り歩いている魂をもつ存在。流れ人というわけだ』



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