上 下
36 / 65
大型ダンジョン いいえ、普通のお城ですよ?

11

しおりを挟む
「……こんなところにひとりで、どうしろってのよ……」

 たったひとり、取り残された部屋の中。
 サクラは心細くて、声に出してぼやいてしまった。

 この世界にやってきて三か月。
 なにごともなく平和に過ごしてきた。

 つい忘れてしまいそうになるが、この世界は玉座を巡った争いの真っ最中なのである。
 順当にストーリーを進めていくと、プレイヤーは戦争によって荒廃した村や、焼け野原になった森などを、何度も訪れることになる。

 ゲーム序盤にプレイヤーが訪れるこの土地は、ゲーム内マップの中では比較的に緑豊かで平和な印象を受ける。
 しかしながら、小競り合いが全くないわけではない。
 マップ内を探索していると、この土地の兵士たちと、他勢力の兵士たちが争っている場面に遭遇することがあるのだ。
 
 おそらく、いま鳴っている警報音も、どこかの勢力が街を襲いにきたのだろう。

 ──他勢力の最たる例が主人公プレイヤーの存在なのだろうけど、私はここにいるしな。まさか、前にクロビスが言っていた、私以外の異世界人が攻めてきたなんてこと……ないよね?

 こういった不測の事態がおきたとき、どう行動するべきなのか。

 その場にとどまるべきか。
 それとも、解決の糸口を探すために動きまわるか。

「わかっているよ。いまはさ、本当は動かないほうが賢明な判断だよね。だけど、やっぱり気になるから!」

 サクラは覚悟を決めた。

 ここはもう領主の城の中だ。
 ここでなら負けイベントが発生することはないはずだ。
 
 サクラはそっと部屋の扉を開けて、廊下に顔を出す。

「もう誰もいない。てゆか、警報も止まっちゃったしね。妙に静かなのが怖いな」

 上下左右、あらゆる角度を確認してから、サクラは廊下に出た。
 そっと後ろ手で扉をしめる。

 ──襲撃者の存在を確認しよう! もし私と同じ異世界からきたプレイヤーだとしたら、どんな風に戦うのか興味があるもんね。

 これは自分の命を守るための情報収集だ。
 無謀な探索にでかけるわけではない。

「とりあえずクロビスの言ったとおり、もと来た道とは逆方向に行こう。城の正面入り口に向かっていって、襲撃者とかち合うのだけはまずいもんね」

 この城にはいくつかの侵入ルートが存在する。
 サクラはそのうちのひとつ、地下ルートに向かうことにした。

「この城の地下って、なぜか屋上に直結している昇降機があるんだよね。屋根の上からなら城の中だけじゃなくて、街のほうまで見えるはず」

 サクラはそろりそろりと、音を立てずに廊下を進む。
 ゲーム内の城内マップは、頭の中に存在している。
 
「クロビスのいた部屋に行くまでの道のりでも思ったけどさ。やっぱりゲーム内オブジェクトと、こうして目にしているお城の内部って少しだけ違うのね」

 城の建物としての作りという大枠に違いはなさそうだ。
 だが、飾られている装飾品などに、細かい相違がある。

「そもそも、ゲーム内じゃすべての部屋に入れたわけでもなかったしなあ。扉はあるのに開かないところばっかりだったし」

 そんなことを思い出して、サクラは背筋に冷たいものが走る。
 
「……もしかして私、また知っているつもりになってるのかな。選択を間違えたかも?」

 そう思ったところで、もう部屋を出てだいぶ歩いている。
 引き返す判断をするのには遅すぎた。


『ほお、珍しい客がいるな』
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】「父に毒殺され母の葬儀までタイムリープしたので、親戚の集まる前で父にやり返してやった」

まほりろ
恋愛
十八歳の私は異母妹に婚約者を奪われ、父と継母に毒殺された。 気がついたら十歳まで時間が巻き戻っていて、母の葬儀の最中だった。 私に毒を飲ませた父と継母が、虫の息の私の耳元で得意げに母を毒殺した経緯を話していたことを思い出した。 母の葬儀が終われば私は屋敷に幽閉され、外部との連絡手段を失ってしまう。 父を断罪できるチャンスは今しかない。 「お父様は悪くないの!  お父様は愛する人と一緒になりたかっただけなの!  だからお父様はお母様に毒をもったの!  お願いお父様を捕まえないで!」 私は声の限りに叫んでいた。 心の奥にほんの少し芽生えた父への殺意とともに。 ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 ※「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※タイトル変更しました。 旧タイトル「父に殺されタイムリープしたので『お父様は悪くないの!お父様は愛する人と一緒になりたくてお母様の食事に毒をもっただけなの!』と叫んでみた」

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

義理の妹が妊娠し私の婚約は破棄されました。

五月ふう
恋愛
「お兄ちゃんの子供を妊娠しちゃったんだ。」義理の妹ウルノは、そう言ってにっこり笑った。それが私とザックが結婚してから、ほんとの一ヶ月後のことだった。「だから、お義姉さんには、いなくなって欲しいんだ。」

お父様、お母様、わたくしが妖精姫だとお忘れですか?

サイコちゃん
恋愛
リジューレ伯爵家のリリウムは養女を理由に家を追い出されることになった。姉リリウムの婚約者は妹ロサへ譲り、家督もロサが継ぐらしい。 「お父様も、お母様も、わたくしが妖精姫だとすっかりお忘れなのですね? 今まで莫大な幸運を与えてきたことに気づいていなかったのですね? それなら、もういいです。わたくしはわたくしで自由に生きますから」 リリウムは家を出て、新たな人生を歩む。一方、リジューレ伯爵家は幸運を失い、急速に傾いていった。

〖完結〗死にかけて前世の記憶が戻りました。側妃? 贅沢出来るなんて最高! と思っていたら、陛下が甘やかしてくるのですが?

藍川みいな
恋愛
私は死んだはずだった。 目を覚ましたら、そこは見知らぬ世界。しかも、国王陛下の側妃になっていた。 前世の記憶が戻る前は、冷遇されていたらしい。そして池に身を投げた。死にかけたことで、私は前世の記憶を思い出した。 前世では借金取りに捕まり、お金を返す為にキャバ嬢をしていた。給料は全部持っていかれ、食べ物にも困り、ガリガリに痩せ細った私は路地裏に捨てられて死んだ。そんな私が、側妃? 冷遇なんて構わない! こんな贅沢が出来るなんて幸せ過ぎるじゃない! そう思っていたのに、いつの間にか陛下が甘やかして来るのですが? 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星里有乃
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

処理中です...