転生したら死にゲーの世界だったので、最初に出会ったNPCに全力で縋ることにしました。

黒蜜きな粉

文字の大きさ
上 下
35 / 80
大型ダンジョン いいえ、普通のお城ですよ?

10

しおりを挟む
「おや、先ほど会ったばかりだというのに。ずいぶんとあいつのことがわかっているのですね」

 サクラのつぶやきに、クロビスが鼻を鳴らした。
 不機嫌そうに腕を組み、ぎろりとサクラを睨んでくる。

「……いやあ、なんとなくそう思っただけで。べつにわかっているとかさ、そういうのではなくてね……」

 サクラはゲーム内での情報を踏まえて、ロークルという人の感想を述べてしまった。
 さきほどから余計なことを言い過ぎている。
 サクラは話題を逸らそうと、クロビスに疑問を投げかけた。

「そ、そんなことより! あなたはロー、クルさまとは親しいのね?」

 実はこの部屋にやってきてから、ずっと気になっていた。
 クロビスとロークルとの軽快なやり取りに、興奮していた。
 サクラがからだを震わせたのは、二人が親しく会話をしているのを見てしまったせいでもある。

「まさかさ、そろそろ結婚しろとか、そういうことを言ってたのもロークルさまなの?」

 サクラはぐいっと身を乗り出し、目を輝かせながら尋ねた。

「すごく気安い友人というか、打ち解けているように見えたものだからね。二人のこと、知りたくなっちゃったのよねえ?」

 ゲーム内情報からでは、二人の繋がりを察することはできなかった。
 考えてもみれば同じ領地に住み、同じ主人に仕えているのだ。
 接点があることは予想できたかもしれないが、異性を紹介しようとするほどの仲とは思わなかった。

 サクラの問いかけに、今度はクロビスがげっそりとした雰囲気を醸しだす。
 
「……まったく、あなたまで面倒な話をするのですか。もういいですから、さっさとお体を調べさせていただきますよ」

 クロビスがやれやれと頭を振りながら、話をはじめたときだった。

 

 ━━カーンカーンカーンカーンカーンカーンカーンカーンカーンカーン!

 

 けたたましい音が鳴り響く。
 この音を、サクラはよく知っていた。
 襲撃を知らせる警報音だと気がつくのに、時間はかからなかった。

「クロビスさま!」

 部屋の中にいて、ずっと気配を消していた者のひとりが声を上げた。

「わかっています。すぐに行きますから先に!」

 クロビスの返事を聞いて、部屋の中にいた者たちが廊下へ飛び出していく。

「サクラさんはここにいてください。ノルウェット、行きますよ」

「はい! もう出れますー」

 いつの間に準備をしていたのだろう。
 クロビスに声をかけられたノルウェットは、大きな皮の鞄を抱えていた。
 
「ちょ、ちょっと待ってよ! こんなところにひとりは嫌!」

 サクラは他の者たちに続いて廊下へ飛び出そうとしているクロビスの腕を慌てて掴んだ。

「下手に動かないほうがいいです。どうしてもここでひとりがお嫌なら、来たときとは反対側に廊下を進んでください。非戦闘員たちが避難しているはずですから、その者たちと一緒に逃げてください」

 クロビスが一息に捲し立てる。

 クロビスが言葉を言い終えると同時に、サクラが彼に触れていた部分から、バチンと音がする。
 サクラの手のひらが、熱をもってひりひりと痛み出す。
 魔法で強引に手を振り払われてしまった。

 本当に魔法を使われていた。
 クロビスに拒絶された。

 サクラがそのことに衝撃を受けて固まっている間に、クロビスとノルウェットは部屋を出ていってしまった。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *無断転載、無断翻訳を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

婚約破棄された地味姫令嬢は獣人騎士団のブラッシング係に任命される

安眠にどね
恋愛
 社交界で『地味姫』と嘲笑されている主人公、オルテシア・ケルンベルマは、ある日婚約破棄をされたことによって前世の記憶を取り戻す。  婚約破棄をされた直後、王城内で一匹の虎に出会う。婚約破棄と前世の記憶と取り戻すという二つのショックで呆然としていたオルテシアは、虎の求めるままブラッシングをしていた。その虎は、実は獣人が獣の姿になった状態だったのだ。虎の獣人であるアルディ・ザルミールに気に入られて、オルテシアは獣人が多く所属する第二騎士団のブラッシング係として働くことになり――!? 【第16回恋愛小説大賞 奨励賞受賞。ありがとうございました!】  

処理中です...