34 / 80
大型ダンジョン いいえ、普通のお城ですよ?
9
しおりを挟む
「おい、そこまでにしてくれないか」
サクラがクロビスの腕を掴んで詰め寄っていたところへ、ロークルが割って入ってきた。
ロークルはサクラの手を、クロビスの腕から強引に引き離す。
「この男はこう見えてかなりの信仰系魔法の使い手なんだ。俺たちの仲間の中では一番の、な」
ロークルは笑顔を浮かべているようで、目がまったく笑っていない。
サクラの腕を掴んだまま、じっとこちらを見下ろしている。
ロークルから放たれる気配に、押しつぶされてしまいそうだ。
「こいつの腕が壊れると、助かる命も助からなくなる。お手柔らかに頼むよ」
ロークルに敵意を向けられている。
サクラはなぜ突然こうなってしまったのか、まったくわからなかった。
こんなところでいきなり中ボス戦が始まってしまうのかと焦る。
──ほんの少し前まで上機嫌だったじゃない。この数秒の間になにが起きたのよ?
サクラは必死に考えをめぐらせた。
そしてふと、ある可能性に思い至った。
サクラはゆっくりと視線をクロビスに向けて問いかける。
「……もしかしてなんだけどね。私ってば、けっこう強めの力であなたの腕を握っていたのかな?」
「ようやく気がつきましたか。毎度毎度、私でなければ骨がへし折れていますよ」
「やだ! それならそうと早く言ってよ。平気そうにしているから、大丈夫なのかと思っていたわ」
「大丈夫なわけがありますか。あなたが力任せにひっついてくるたびに、その馬鹿みたいな力を魔法で弾き返していたのですよ」
「そんな器用なことをしていたの? まったく気がついていなかったわよ」
サクラの言葉に、クロビスは盛大にため息をついた。
クロビスはロークルの方へ向き直ると、着ている服の袖をまくる。
サクラが先ほどまで掴んでいた場所を、ロークルに見せるように腕を突き出した。
「この通り、私の腕は壊れてなんていませんから。手を離してやってくれませんか?」
ロークルは差し出されているクロビスの腕を、じっとみつめる。
彼はしばらく考え込んだあと、ようやくサクラの腕を離してくれた。
「お前が問題ないと言うなら、あまり口出しをしたくはないがな。正直この馬鹿力はどうかと思うぞ」
「ひどい! 馬鹿力だなんて、私だって気にしているのに!」
ロークルの言葉に、サクラは反射的に言い返してしまった。
やってしまったとすぐに気がついて反省するが、もう遅い。
「失礼した。きつい言い方をしてしまったな」
「い、いいえ。私もつい大声を出してしまい、申し訳ございませんわ」
サクラとロークルは、お互いにペコペコと頭を下げて謝罪しあう。
その様子を見ていたクロビスが、大きく息を吐いた。
「はあ、まったく。お二人ともそこまでにしてください」
クロビスがパンと手を叩く。
その音でサクラとロークルは顔を上げると、クロビスにからだを向けた。
「今日はサクラさんの馬鹿力について調べるために、ここまで来ていただいたのですよ」
クロビスはまくっていた袖をもとに戻しながら、ロークルに向かって話を続ける。
「万が一サクラさんの馬鹿力がなにかの呪いでそうなっていたりするのであれば……。どうにかしてさしあげたいですからね。あなたもいい加減に持ち場に戻ってください」
「なんだ、そういうことだったのか。それじゃあ私は邪魔だな。そろそろ持ち場に戻るとしよう」
ロークルはそう言って、ガハガハと笑いながら騒がしく部屋を出ていった。
「……なんだか、すごい人だったわ」
「あの方は親衛騎士の隊長を務めている男です。冗談抜きですごい人ですよ」
「そう、ね。本当にすごい人だわ」
親衛騎士ロークル。
ゲームのプレイヤーたちに「ロー兄さん」「ロークル兄貴」とあだ名されるほど、親しまれていたキャラクター。
ゲーム攻略をする上で、最初に出会うことになる中ボス。
つまり、チュートリアルボスと言ってしまっても、あながち間違いではない。
ロークルはゲーム内において、ボスキャラとの戦闘システムをプレイヤーに教えてくれる役割を持ったキャラクターなのだ。
ゲームの序盤、まだ操作方法に慣れていないプレイヤーに、嫌というほど戦闘システムを叩き込んでくれる。
ロークルのことを「ロー先生」「ロークル師匠」と呼ぶプレイヤーも少なくない。
「兄貴肌っていうか、引率の先生というか。ほんとにあだ名の通りな感じの人なのね」
サクラがクロビスの腕を掴んで詰め寄っていたところへ、ロークルが割って入ってきた。
ロークルはサクラの手を、クロビスの腕から強引に引き離す。
「この男はこう見えてかなりの信仰系魔法の使い手なんだ。俺たちの仲間の中では一番の、な」
ロークルは笑顔を浮かべているようで、目がまったく笑っていない。
サクラの腕を掴んだまま、じっとこちらを見下ろしている。
ロークルから放たれる気配に、押しつぶされてしまいそうだ。
「こいつの腕が壊れると、助かる命も助からなくなる。お手柔らかに頼むよ」
ロークルに敵意を向けられている。
サクラはなぜ突然こうなってしまったのか、まったくわからなかった。
こんなところでいきなり中ボス戦が始まってしまうのかと焦る。
──ほんの少し前まで上機嫌だったじゃない。この数秒の間になにが起きたのよ?
サクラは必死に考えをめぐらせた。
そしてふと、ある可能性に思い至った。
サクラはゆっくりと視線をクロビスに向けて問いかける。
「……もしかしてなんだけどね。私ってば、けっこう強めの力であなたの腕を握っていたのかな?」
「ようやく気がつきましたか。毎度毎度、私でなければ骨がへし折れていますよ」
「やだ! それならそうと早く言ってよ。平気そうにしているから、大丈夫なのかと思っていたわ」
「大丈夫なわけがありますか。あなたが力任せにひっついてくるたびに、その馬鹿みたいな力を魔法で弾き返していたのですよ」
「そんな器用なことをしていたの? まったく気がついていなかったわよ」
サクラの言葉に、クロビスは盛大にため息をついた。
クロビスはロークルの方へ向き直ると、着ている服の袖をまくる。
サクラが先ほどまで掴んでいた場所を、ロークルに見せるように腕を突き出した。
「この通り、私の腕は壊れてなんていませんから。手を離してやってくれませんか?」
ロークルは差し出されているクロビスの腕を、じっとみつめる。
彼はしばらく考え込んだあと、ようやくサクラの腕を離してくれた。
「お前が問題ないと言うなら、あまり口出しをしたくはないがな。正直この馬鹿力はどうかと思うぞ」
「ひどい! 馬鹿力だなんて、私だって気にしているのに!」
ロークルの言葉に、サクラは反射的に言い返してしまった。
やってしまったとすぐに気がついて反省するが、もう遅い。
「失礼した。きつい言い方をしてしまったな」
「い、いいえ。私もつい大声を出してしまい、申し訳ございませんわ」
サクラとロークルは、お互いにペコペコと頭を下げて謝罪しあう。
その様子を見ていたクロビスが、大きく息を吐いた。
「はあ、まったく。お二人ともそこまでにしてください」
クロビスがパンと手を叩く。
その音でサクラとロークルは顔を上げると、クロビスにからだを向けた。
「今日はサクラさんの馬鹿力について調べるために、ここまで来ていただいたのですよ」
クロビスはまくっていた袖をもとに戻しながら、ロークルに向かって話を続ける。
「万が一サクラさんの馬鹿力がなにかの呪いでそうなっていたりするのであれば……。どうにかしてさしあげたいですからね。あなたもいい加減に持ち場に戻ってください」
「なんだ、そういうことだったのか。それじゃあ私は邪魔だな。そろそろ持ち場に戻るとしよう」
ロークルはそう言って、ガハガハと笑いながら騒がしく部屋を出ていった。
「……なんだか、すごい人だったわ」
「あの方は親衛騎士の隊長を務めている男です。冗談抜きですごい人ですよ」
「そう、ね。本当にすごい人だわ」
親衛騎士ロークル。
ゲームのプレイヤーたちに「ロー兄さん」「ロークル兄貴」とあだ名されるほど、親しまれていたキャラクター。
ゲーム攻略をする上で、最初に出会うことになる中ボス。
つまり、チュートリアルボスと言ってしまっても、あながち間違いではない。
ロークルはゲーム内において、ボスキャラとの戦闘システムをプレイヤーに教えてくれる役割を持ったキャラクターなのだ。
ゲームの序盤、まだ操作方法に慣れていないプレイヤーに、嫌というほど戦闘システムを叩き込んでくれる。
ロークルのことを「ロー先生」「ロークル師匠」と呼ぶプレイヤーも少なくない。
「兄貴肌っていうか、引率の先生というか。ほんとにあだ名の通りな感じの人なのね」
70
お気に入りに追加
236
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
転生して異世界の第7王子に生まれ変わったが、魔力が0で無能者と言われ、僻地に追放されたので自由に生きる。
黒ハット
ファンタジー
【完結】ヤクザだった大宅宗一35歳は死んで記憶を持ったまま異世界の第7王子に転生する。魔力が0で魔法を使えないので、無能者と言われて王族の籍を抜かれ僻地の領主に追放される。魔法を使える事が分かって2回目の人生は前世の知識と魔法を使って領地を発展させながら自由に生きるつもりだったが、波乱万丈の人生を送る事になる
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~
志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。
けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。
そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。
‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。
「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる