31 / 80
大型ダンジョン いいえ、普通のお城ですよ?
6
しおりを挟む
『稀人よ。異世界からやってきた流れ者よ。貴様が王たるを求めるのならば、私は戦わねばならない。これより先は、この親衛騎士ロークルが通すわけにはいかない』
城門を抜けた先、ひらけた広場で対峙するロークルの台詞だ。
サクラはこの台詞を、なんど聞かされたことか。
ひとつひとつの台詞の間から、言い終えるまでの呼吸のタイミングまで、はっきりと覚えている。
覚えさせられてしまった。
それほどまでに、ロークルとの戦闘はすさまじいものだったのだ。
最初に倒したときの挑戦回数は覚えていない。
途中までは数えていたが、それどころではなくなってしまったからだ。
順当にゲームを進めていれば、プレイヤーが最初に出会うことになるメインストーリー攻略に必須のボスキャラクター。
そこらのモブ敵、ましてやダンジョンの道中で出会うようなネームド級の敵キャラとも訳が違う。
ひときわ目立つ男、頭ひとつ抜けている存在だ。
いまの自分がロークルと敵対したら、瞬殺されてしまう。
媚びへつらい、彼の機嫌をこれ以上損ねないように努力すべきだ。
それなのに、絶対に死ぬわけにはいかないという気持ちを、喜びの感情が圧倒的に上まわった。
声には出さずとも、態度には出ていたらしい。
きっとみっともなくニヤついていたのだろう。
「どこかでお会いしたことがありますか?」
ロークルがサクラの方へからだを向けて話しかけてきた。
ロークルの意識が自分に向いている。
サクラは嬉しさのあまり、うまく言葉が出てこなかった。
「──っふあい⁉︎ へば、うえっとー……」
はい、あなたとは何度も殺し合いをしました。
ついうっかりそんなことを言いそうになり、慌てて口をつぐむ。
だからといって、これはあんまりだ。
目の前のロークルから、困惑した雰囲気がひしひしと伝わってくる。
あまりにも気味が悪すぎる、限界突破したファンムーブだった。
サクラは自分で自分にドン引きして、気持ちが沈んでしまう。
ここにきてようやく、はっきりと思いだした。
相手が圧倒的な力量のあるボスキャラクターであることを。
サクラはからだ中から血の気が引いていく。
どう考えても、いまの自分が不審者であると自覚してしまった。
城門を突破してきた敵対者に、これ以上は城の敷地内を荒らさせはしないと斬りかかってくるキャラクター。
仕える主人に忠実な騎士というのがロークルという男なのだ。
──大好きな主人の居城の前にいる不審な言動をする女。絶対に「通すわけにはいかない」判定されるに決まってるじゃん!
心の中で慌てふためくサクラを救ってくれたのは、意外な者たちだった。
「そんな威圧的に話しかけたらびっくりしちゃいますよ」
「そうですよ隊長。笑顔です笑顔!」
「ごめんなさい婚約者さん。この人、悪い人じゃありませんから」
警備兵たちが次々に口を開き、フォローをしてくれた。
警備兵たちは張り詰めていた空気を和ませるように、明るく振る舞ってくれている。
──ありがとう名前もない警備兵さんたち! さっきは装備品を奪い取って売ってやるとか思ってごめんなさい!
サクラは心の中で警備兵たちに感謝した。
そして、彼らにも本当は名前があって、心もあることを意識することになった。
簡単に斬り捨ててしまっていい存在ではなくなった瞬間だった。
城門を抜けた先、ひらけた広場で対峙するロークルの台詞だ。
サクラはこの台詞を、なんど聞かされたことか。
ひとつひとつの台詞の間から、言い終えるまでの呼吸のタイミングまで、はっきりと覚えている。
覚えさせられてしまった。
それほどまでに、ロークルとの戦闘はすさまじいものだったのだ。
最初に倒したときの挑戦回数は覚えていない。
途中までは数えていたが、それどころではなくなってしまったからだ。
順当にゲームを進めていれば、プレイヤーが最初に出会うことになるメインストーリー攻略に必須のボスキャラクター。
そこらのモブ敵、ましてやダンジョンの道中で出会うようなネームド級の敵キャラとも訳が違う。
ひときわ目立つ男、頭ひとつ抜けている存在だ。
いまの自分がロークルと敵対したら、瞬殺されてしまう。
媚びへつらい、彼の機嫌をこれ以上損ねないように努力すべきだ。
それなのに、絶対に死ぬわけにはいかないという気持ちを、喜びの感情が圧倒的に上まわった。
声には出さずとも、態度には出ていたらしい。
きっとみっともなくニヤついていたのだろう。
「どこかでお会いしたことがありますか?」
ロークルがサクラの方へからだを向けて話しかけてきた。
ロークルの意識が自分に向いている。
サクラは嬉しさのあまり、うまく言葉が出てこなかった。
「──っふあい⁉︎ へば、うえっとー……」
はい、あなたとは何度も殺し合いをしました。
ついうっかりそんなことを言いそうになり、慌てて口をつぐむ。
だからといって、これはあんまりだ。
目の前のロークルから、困惑した雰囲気がひしひしと伝わってくる。
あまりにも気味が悪すぎる、限界突破したファンムーブだった。
サクラは自分で自分にドン引きして、気持ちが沈んでしまう。
ここにきてようやく、はっきりと思いだした。
相手が圧倒的な力量のあるボスキャラクターであることを。
サクラはからだ中から血の気が引いていく。
どう考えても、いまの自分が不審者であると自覚してしまった。
城門を突破してきた敵対者に、これ以上は城の敷地内を荒らさせはしないと斬りかかってくるキャラクター。
仕える主人に忠実な騎士というのがロークルという男なのだ。
──大好きな主人の居城の前にいる不審な言動をする女。絶対に「通すわけにはいかない」判定されるに決まってるじゃん!
心の中で慌てふためくサクラを救ってくれたのは、意外な者たちだった。
「そんな威圧的に話しかけたらびっくりしちゃいますよ」
「そうですよ隊長。笑顔です笑顔!」
「ごめんなさい婚約者さん。この人、悪い人じゃありませんから」
警備兵たちが次々に口を開き、フォローをしてくれた。
警備兵たちは張り詰めていた空気を和ませるように、明るく振る舞ってくれている。
──ありがとう名前もない警備兵さんたち! さっきは装備品を奪い取って売ってやるとか思ってごめんなさい!
サクラは心の中で警備兵たちに感謝した。
そして、彼らにも本当は名前があって、心もあることを意識することになった。
簡単に斬り捨ててしまっていい存在ではなくなった瞬間だった。
90
お気に入りに追加
241
あなたにおすすめの小説
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます
下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
★恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
日間総合ランキング2位に入りました!
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした
葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。
でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。
本編完結済みです。時々番外編を追加します。
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる