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大型ダンジョン いいえ、普通のお城ですよ?

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 ──大丈夫、絶対に大丈夫よわたし。このまま堂々としていればいいのよ。

 サクラはもういちど自分に大丈夫だと言い聞かせる。
 その間に、全身を覆うプレートアーマーを身に着けた警備兵が、ガシャンガシャンと音を立てて近づいてくる。
 その一つ一つの音に、サクラのからだが恐怖で飛び跳ねそうになる。

「いつも軍医殿と一緒のお前が、こんな時間にひとりで外をうろついているなんて珍しいな」

 警備兵の足音が止まる。
 警備兵はノルウェットの目の前に立つと、首を傾げながら話しかけてきた。

「どこかで諍いが起きて負傷者が出たとも聞いていないが。そのデカい荷物はなんだ?」

「自宅に保管していた資料を、師匠の研究室に運んでいるだけですよー」

 ノルウェットが笑顔で警備兵の質問に答える。
 サクラはノルウェットと会話をしている警備兵を、横目でそっと見上げた。

 警備兵は左手に盾を持ち、右手には騎士剣を装備している。
 アーマーの肩から胸にかけて、特徴のある模様が刻まれている。それは、飽きるほど見たこの辺り一帯を治める領主家の紋章である。

 この門を無理やり通るのならば、領主を敵に回すことになる。
 ゲームをプレイしているときには感じなかったが、暗にそう伝えているかのようだと思った。

 ──ゲームのプレイ中は盾持ちモブって面倒だなと思いつつ、背後に回り込んでバッサリ切っていたけど……。こうして実際に対峙してみると、とてもじゃないけどそんなことはできそうにないわね。

 サクラのプレイスタイルは、簡単にいえば脳筋だ。
 とことん筋力のステータスをあげて、力技でゴリ押す。
 作戦もなにも、あったものではない。

 ──魔法が使えればな。遠距離から攻撃をしかけて、ひとまず様子見とかできそうだけど。いまの私じゃ名無しの警備兵相手にもどうやって戦うべきなのか、見当もつかないわね。

 このゲームでは、プレイヤーは魔法を習得することができる。
 しかし、サクラのプレイスタイルに、魔法を使うという選択肢はなかった。 

 実際のところはどうか知らない。
 しかし、なんとなく魔法を使うとゲーム攻略の難易度が下がってしまいそうだと思っていたのだ。

 わざわざ死にゲーを購入して、余暇を過ごす。
 なるべく歯ごたえを感じるように遊びたいと考えるのは、不思議なことではないと思う。
 しかし、この状況になってみると、場面場面に合わせて多くの選択肢から選べるように遊んでこなかったことが悔やまれる。

「へえ、資料ね。それにしたって量が多くないか?」

「そうなんですー。だから荷物を運ぶのをお手伝いしてもらっているのです。お手数ですが、その方の入城手続きをお願いしてもよろしいですか?」

「おお、わかった。どうせいつもの婆さ……」

 ノルウェットと会話をしていた警備兵の言葉が、とつぜん止まった。
 兵士はノルウェットの隣に立つサクラを黙ったまま、じっとみつめてくる。
 
「……………………………………」

「……ど、どうも。こんにちは」

 サクラが震える声で挨拶をすると、兵士はカシャンと音を立ててバイザーをあげた。

「……………………………………………………」

「は、はじめまして。あの、どうかなさいましたか?」

 黙ったままの兵士に不安になり、サクラは挨拶の言葉を続けた。
 すると、今度は兵士が兜を取り外した。
 兵士は兜を小脇に抱えて、サクラの方へ顔を突き出してくる。

 サクラはいま、木箱を抱えている。
 それも、ノルウェットよりも大きな木箱だ。

 もしかしたら、それが不自然に思われたのかもしれないと思った。
 普通の女が、少年とはいえ男のノルウェットよりも大きく重そうな荷物を抱えている。
 怪しまれても不思議ではない。

 サクラの心臓の鼓動が早くなっていく。
 荷物なんか投げ出して、この場から逃げた方がいいのかもしれない。

 ──戦うことは無理でも、逃げ足の早さは熊で証明されているもの。怪しまれているのなら、クロビスの家に逃げ帰ったほうがいいかもしれないわ!
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